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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
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第七ニ話「在り方」

めっっっちゃ期間空きましたが戻ってきました! 更新再開しますよー。



 

 

 

 オルゼの街から逃げおおせ、自分たちは隣町シュテロンまでたどり着いた。

 日が登ってしばらくしたあたりで到着したので、そんなに目立つこともなく街に入り込めた。

 人通りのある通りをアルコンさんと歩きながら今からすべきことを考える。


 やることべきことは幾つかある。

 まず最優先されるのが、『魔言』を記録した眼鏡をユークさんに送り届けることだ。

 これは当初の予定ではアルコンがそつなく《アスポート》する予定だったけど、《言霊狩りワードリーパー》で彼の第二階位コーロスが刈り取られてしまったそれが無理になった。なので代わりに自分が代行せねばならない。不得手な自分では新たに魔法陣を書く必要があるので、落ち着いて準備ができる場所がを確保する必要がある。


 次に休息だ。

 緊張から解放されたら押し殺していた欲求がドッと湧いて出てきた。先の作戦は深夜に決行したのでそこから現在まで飲まず食わず。とどのつまりお腹が空いた。それに、自分は睡眠欲が希薄だけど、それでも昨日は朝と深夜に激動のイベントが連なってやってきて、丸一日稼働しっぱなしだった。

 

 最後これからどこに足を伸ばすかを決めなければならない。

 ソフィーちゃんを人質に取られているけれど、やっぱり敵の牙城に単身で乗り込むのは憚られるだろう。

 ユークさんと通信して、これからの方針を詰めねばなない。


 というわけで自分達には落ち着ける場所が欲しい。

 でも幸い心当たりはひとつあるのだ。


 自分は記憶の糸を手繰り寄せて、見覚えがないこともない街路へと入る。通りの喧騒が遠ざかっていって、日中でも薄暗い道で「こっちだったはずです」とアルコンさんを先導する。


 先日オルゼにヒポグリフを駆って偵察に行ったときにもシュテロンまで足を伸ばしたが、そのときに食事処に選んだ酒場がある。

 まぁそこでアギラと鉢合わせるわ、マスターは邪教サイドの人間だわで結果的に密会と相成ったわけだけど。



 というわけでそこに来た。

 朝というのに、薄暗い路地の片隅、小さな階段を降りて、奥まった古めかしい木のドアに手をかける。

 ドアノブを捻ればガチャリと押し開けることができた。暖色系の明かりが目に優しい。時間帯的に営業してないかと心配していたけど杞憂だったみたいだ。


「お邪魔しまーす」

「なんじゃもう閉める時間じゃぞ……見た顔が一つに見ない顔が一つ、何の用じゃ」


 左側のバーカウンターからしゃがれた声が投げかけられる。自分のことをちゃんと覚えていてくれたみたいだ。

 彼は以前にも応対してくれたドワーフのマスターさんだ。夜に営業してるんだったら確かにあんまり嬉しくない時間に訪ねちゃったな。

 自分はカウンターの前に立って要件を手短に伝える。


「少し場所を借りたいのと、食事を取りたくてお邪魔しました」

「……アギラの件か。言っていた期日はもう明日ではなかったか? こんなところで油を売っている暇はあるのか?」

「……ご明察ですね。昨日今日と色々なイレギュラーがありまして……」


 この人は一般人ではない。

 アギラの特大剣を拵えた闇鍛冶屋らしい。以前はかのリッチーから悪魔の素材を融通してもらって武器を作成していたようだけど、今はそれもなくなりバーを営んでいるとのこと。

 まぁ立場上は中立ということらしいからここに足を運んだわけだけど。


「ひとまず食事と魔法陣を敷ける場所を提供していただきたいです。客として払うものは払います」


 持ち合わせは900シュペーほど。銀貨8枚と銅貨が幾らか。食費と宿泊費込みで3日は持つ。

 自分の言葉に対してマスターは「食事はいいが……」と渋い表情だった。

 何かを提示しないといけないかと思案を巡らせたところで、マスターの視線が自分に次いで入店してきたアルコンさんへスライドする。そしてマスターの眉がハの字に象られる。


「ぬ。その武器は……」

「なんだ爺さん俺の相棒に目をつけるとは見る目があるじゃねぇか」


 アルコンさんの武器は世にも珍しい大剣弓。大曲剣と大弓の二つの形態を巧みに使い分けてこそ真価を発揮する癖こそ強いが噛み合えば強力な武器だ。

 空間魔法と組み合わせての大弓・瞬間移動・斬撃のコンボには自分も手を焼かされた。


「まさかそのガラクタを使う者がおるとは……」


 それ対してマスターは、ほとほと呆れ果てたようなうめき声を発した。

 自分はその言葉に一瞬理解が及ばず、フリーズする。


「あぁ? おいエリューなんだこのジイさん」

「え、えぇっとですね……」

「いや失礼、懐かしいものを見てしまってじゃな……」


 そしてご自慢の武器を悪し様に言われて途端にアルコンさんの機嫌が悪くなり、対してマスターは自分の非礼を詫びる。共通の知人の自分はなんだか居た堪れないような心持ちだ。

 でも口ぶりからして、このマスターは大剣弓を知っているのかな?


「えぇっと、この武器をご存知なんですか?」


 自分はアルコンさんにジェスチャーで抑えるように伝えながら、気になったことを聞いてみる。


「その武器を作ったのはわしじゃぞ」


 返ってきた答えは、とても意外なものだった。



「なるほど……、そう使うのか。面白い、面白いな」

「これならどんな距離に敵がいても手が出せるからなぁ。ほんと良いもん仕上げてくれたなぁ爺さんよぉ!」


 そういってアルコンさんは景気よくジョッキを高くに掲げる。


「がはは、よせやいよせやい」


 アルコンさんがマスターさんの武器の愛用者と判明したことで問題は一気に片付いた。

 バーカウンター越しに二人は意気投合している。


 まさかあの武器がこの人の作だったなんてね。

 ということはシャヴァリーさんのジェットガントレットもマスターさんの作品なのだろう。

 おっと、いつまでも他人行儀にマスターさんって言うのも変な話だね。


 彼の名前はゴブニュさんと言うらしい。

 確か鍛冶の神様の名前だっけ? 明らか偽名だけどまぁそこはいい。


 自分たちは彼の許可を得て、今は使っていない鍛冶場に魔法陣を敷かせてもらえることになった。そこが重要なのだ。


「じゃあこれ、有難く使わせてもらいます」

「うむ、どうせ無用の長物じゃ。経年劣化で駄目になる前に使うがいい」


 自分が「これ」と言うものはキラキラとした砂粒のようなものが入ったボトルだ。

 これは粉末状にした石虹で、魔法陣を書くのにちょうどいい媒体となる。

 魔法陣を書く旨を伝えたら、ゴブニュさんが差し出してくれたのだ。

 ありがたいありがたい。


 そうして自分は、談笑するアルコンさんとゴブニュさんを横目に、カウンター裏の扉から梯子を登り、上の階へ出る。


 ここが貸してくれると言っていた鍛冶場だ。

 硬い石の床と、しばらく使われていない場所特有の淀んでいるというか澄んでいるというかいかにも人の立ち入っていない空気感、それと埃の匂いがほのかに香る。

 部屋を見回せば、布がかけられた鉄床や壁に吊るされた鉄槌、のっそりと口を開けた炉などが物寂しげに佇んでいた。


 自分らはそれを横目にスクロールを広げる。

 大きめのクッションくらいの面積があるこれをには空間魔法と風魔法を複合させた遠隔通信術式が封入されている。これでユークさんと連絡を取るという寸法だ。


 そして今から自分は即席で、物体を遠隔地へ転送する魔法アスポートの魔法陣を書く。これで昨夜収集した『魔言』のデータをあちらに送るのだ。


 一応オリヴィエさんやユークさんから魔法陣のご教授は受けているけど、うまくいくかな……。時間にしたら講義4コマ分ぐらいは教わったけどさ。

 そんな一抹の不安を抱きながら、自分は大鎌の刃先で指をプツリと刺し、血玉の浮いた指先を、石虹のビンへと突っ込んだ。



「できた……! はずです」


 目の前には一応形になったはずの魔法陣。直径50cmくらいで、幾つもの四角形を重ね合わせたようなものだ。まぁ完璧な点対称になってなくて若干歪んでる気がするけど。


「おーそれっぽいじゃねぇか。悪いな面倒かけて」

「いえ、あんなの想定できないですし仕方ないですよ」


 元々これはアルコンさんがする予定だったけど、昨夜の戦闘で彼は空間魔法の第二階位が使えなくなってしまったので自分が代行せねばならない。全魔法適性があるってやっぱり便利だ。


 アルコンさんとゴブニュさんも呼んで、ようやっと本来の目的である通信を始められる

 実は自分的にはこれからすることは決めてるんだけど、やっぱ相談はしとかないとね。


「じゃあ、起動します」


 自分はスクロールの前、魔法陣の中でいかにも「ここに手を置いてください」と言わんばかりに前に突き出した部分に手を置き、繊細に魔力を流し込む。

 少なすぎても発動せず、多すぎては壊れてしまう、それを念頭に、自分は染み込ませるように魔力をじんわりと流し込んでいく。


 そしてたっぷりと時間をかけ、魔法ディスタンスミーティングが発動する。ブオンと空間が歪み、シュルシュルと風がより集まり、魔法陣上にスクリーンが形勢される。

 うぉお……想像以上に緻密な魔法だなこれ。


 そうやって感心していると、ややあってそのスクリーンの中で像が結ばれる。

 赤っぽい髪に几帳面そうな眼鏡の男性、ユークさんだ。


「おぉ、無事だったか! どうだ上手くいったか?」


 スクリーンに映し出されたユークさんは、一もニもなく作戦の成否を聞いてきた。

 自分は顎に指を当てて少し考えた後、まずはこう答えた。


「はい、なんとか」


 《言霊狩りワードリーパー》という想定外で、ピンチにはなったけど、成果はあった。


「うまくいきました。『魔言』のデータ収集には成功です、いまから送りますね。ただ死神エリニテスの異能はそれだけではないというか、『魔言』は奴の異能の一側面に過ぎなかったというか……」


 自分は昨夜、エリニテスの異能と奴が語ったことについて事細かにユークさんへと伝える。



「おおよそのことは分かった」


 説明が終わり、データを採取した眼鏡も《アスポート》であちらへ送り届けた。

 ミッションコンプリートですね。


「ここまでうまくいくとはな。あぁ、このデータは神秘院に持ち込むことにする。期限はあまりないが、死神の異能を解明できると吹聴すれば仕事をほっぽりだして食いついてくる奴が何人もいるだろう」


 ユークさんの言う「神秘院」はヴォロス王国神秘院という魔法研究機関のことで彼の職場でもある。

 以前文献を総当りして影も掴めなかった魔言についての重要なデータだ。それほどの価値は当然認められるだろう。


「よくやってくれた。これかのことはおれ達にまかせてくれ」


 ひとまずこの件について自分のできることは終わった。後は専門家に任せることにしよう。


「それで、次の予定だが……」


 そう次。

 アギラ・ダールは現在ソフィーちゃんを連れて北の山脈にある『大鷲』のアジトで自分達を誘っている。ソフィーちゃんという人質がいる以上行かないわけにはいかない。

 本来自分たちは昨日の早朝にヒポグリフを駆って十分な戦力でアギラのところへ行こうとしていたのだけれど、エリニテスに操られたアルコンさんとリィゼさんの襲撃でそれが頓挫してしまった。

 そこでアギラともう一度相まみえるはずだったのに。


「アギラのところへ行きます。それ以外選択肢はないです」

「──随分きっぱりと言い切るのだな。元々おれはアギラのところに行かせるのは反対なのだが……。もう十分ではないか? 『魔言』のデータは取れたのであるし」


 案の定ユークさんは自分の考えをいさめてくる。

 確かに彼の意見はもっともだ、実に合理的だ。

 だけどそれでは自分が個人的に・・・・納得がいかないのだ。


「だめですよそれじゃ! ソフィーちゃんが人質に取られているんですよ?」


 第一に目的こそ不明だがソフィーちゃんは現在アギラ・ダールの元にいる。

 ここでクームに帰れば、それはソフィーちゃんを見捨てることになる。

 そんなの自分には耐えられなかった。

 

「しかし、君は今こちら側の、いや《血盟》の重要な戦力だ。君を失うことがあっては……」


 ユークさんの懸念ももっともだろう。

 あちらさんはアギラとエリニテスの双璧だけでもやばいってのに、対してこっちの動ける戦闘要員は自分とアルコンさんとオリヴィエさんぐらい。ロッシさんとリィゼさんは怪我で動ける状態ではない。

 その状態でのこのこと敵の本拠地に行って、親玉と会うなど正気の沙汰ではないだろう。

 だけど。


「なんとしても自分はアギラのところへ赴くつもりです。それに少し考えがあるんですよ」

「考え……?」


 賢い立ち回りではないかもしれないが、自分の考えでは今の時点でアギラのところに行くのは無しではないと思うのだ。


「まず第一に考えてもらいたいのが、これは奴の誘いなので無視した場合のリスクも加味する必要があるということです。その点自分一人でも行ったという事実があれば、そう悪い事態に転ぶことはないでしょう」

「一人? お前一人で行くつもりなのか!?」


 後ろで会話を見守っていたアルコンさんが口を挟んでくる。

 うん、まぁ突然一人で死地に赴くとか言い出したら止めるよね。


「お主一人であの化物を相手取るつもりか? お主もなかなかじゃろうが流石に相手が悪いと思うぞ……」

「う、そうですか」


 さらにはゴブニュさんまで口出ししてくる。

 そういえば彼は先の密会でアギラと勝負になるみたいな発言していた。その審美眼によるとかなりパワーレベリングした自分でもやはり勝てるかは怪しいようだ。

 うーんちょっとは自信あったのになぁ。


「小娘、お主はアギラと戦って勝てるつもりでおるのか?」


 改めてゴブニュさんが自分に問いかけてくる、いやむしろこれはさとしているのか。

 

「……いえ、まともに|闘(や〉り合って勝てるかと言われると正直怪しいと思います」

「ならなんでそんな」


 アルコンさんが当然の疑問を口にする。

 だから自分は闘うのとは別に方法を提示する。


「ですが別のアプローチができると思うんです。例えば自分らが昨夜もぎ取った情報。あれは十分交渉材料に値すると思いますよ」

「考えとはそれか。君の言によると彼奴きゃつらは一枚岩ではないという話だったが、そこを突こうという魂胆か」

「はい。悪くないと思うんですけど」


 どう転ぶかは分からないけど、あちらにしても『魔言』に関してはあちらにとっても興味深い情報……なのかな?

 あいつらは利害が一致してるだけで、一蓮托生ってわけじゃないし。

 『魔言』のことを材料に交渉してエリニテスを盤外に追い出すことができれば一番いい。


「最高の場合は内部分裂が狙えるなかもしれないな」

「はいそういうことです」

「だが……」


 でもユークさんは尚渋い表情を崩さない。

 まぁまだ不安要素は一杯だよね。あっちに行く意義は見いだせても危険性が排除されたわけじゃない。


「その上で安全策を取りましょう」

「安全策?」


 ユークさんは怪訝そうにオウム返しする。


「はい。さっき一人で行くって言ったと思うんですけど、それが今からの話に関わってくるんです」

 

 それにこくりと頷いて自分は後ろに立つアルコンさんをあおり見る。

 今から話すことには彼の存在が重要なのだ。


「自分の契約者・・・であるアルコンさんにはこの街に残ってもらいます」


 自分は「契約者」の部分を強調して今のセリフを言ったのだが、当のアルコンさんは「……?」といまいちピンと来ていないご様子。


「死神と契約している場合、《アポート》するみたいに召喚ができるはずなんです。そして簡単に念話だってできます」

「そうか、それで危なくなればそれで召喚されて逃走できるというわけか」


 途中まで言ったところでスクリーンの中のユークさんが興味深そうに頷き、自分のセリフを引き継ぐ。


「はい、魔力消費は結構なものだと思いますがこれ以上ない逃走手段だと思います」

「なるほどな……、人間の常識では思いつけない作戦だ。面白いな」


 死神だからこそできる逃走手段。

 人間だったら面倒な魔法陣やら詠唱やらが必要だろうけど、自分なら契約者が念じて距離に応じた魔力を消費するだけで済む。遠隔地でも会話できるからタイミングをばっちり図れる。かなりナイスな作戦ではないだろうか?


「あーエリューの考えは分かったが、相手取るアギラ・ダールは空間魔法のスペシャリストだぞ。妨害されたりは大丈夫なのか……? 俺は同じ空間魔法使いだがあの人の技量に叶う気はしないぞ」

「それについては……考えても仕方ないですよ。多少のリスクは飲み込んでもらうしか」


 召喚も空間魔法の範疇だから逃げようとして妨害される可能性は十分にありえる。けどそこは自分があっちで頑張ってなんとかする感じで……。

 

 会話が途切れる。

 どうしても暗い考えが拭えない。

 だから自分は締めのひと押しとしてこんなことを言い出す。

 

「最後に根も葉もないこと言うんですけど」


 自分のこの前置きで、重苦しいこの場の空気が少しだけ和らぐ。冗談でも言うと思ったのだろうか。実際今から言うことは冗談みたいなことだ。


「それにこの事態なら十分応援を呼んでくることもできるはずです。だったら自分は当たって砕けろの覚悟でアイツのところに行ってきますよ。鉄砲玉です鉄砲玉」


 自分はそんなことを軽いトーンでのたまった。

 エリニテスの目的であるが「地獄の門を開くこと」が成就してしまえば、このヒューゲンヴァルト地方には悪魔が溢れかえってしまう。いくら東の国と緊張状態で騎士団がこっちに動かせないからといっても、この事態ならなんらかの動きが見られるだろう。

 それなり以上の立場がある人──ユークさんあたりの口からそれを伝えれば無碍にされることもないだろう。

 つまり自分はそんな重要な立場なんかじゃないよー。

 という考えだったんだけど。


 ──気づけばまた沈黙が降りていた。


「……本当に根も葉もないな。だが同時に不可解だ。エリュー、君は何故そうまでして死地に飛び込むのだ?」


 ややあってユークさんがスクリーンの向こうで口を開いた。

 そのユークさんの質問に少し考え込んだ。顎に手を当てて自分の中にその理由を探る。

 こんなにも理由を並べ立てて、まるで自分からアギラの元に行きたがっているみたいに。

 そして見つけ出した理由を唇に乗せてこう答えた。


「自分にはそれができるから、ですかね」


 この感情を定義するなら義務感とでも言えばいいのだろうか。

 それができるからやる。力を持ってしまったのだからやらなければならない。


「君は……、怖くはないのか?」

「死ぬ以上に怖いことなんてないですよ。そして自分はそれを知ってるんですよユークさん」


 自分はこの世界でエリューとして覚醒しておおよそ三度の死を経験した。

 真夜中の海よりくらいところに浮かんだ自分の意識が、じわりじわり薄くなっていくあの恐ろしい感覚を。自分だったものが散り散りになって二度と元に戻らなくなってしまう感覚を。遥か真下に口を空ける闇よりくら其れ・・。自分には前世の記憶があって、其処に呑み込まれればどうなるかを薄らと憶えている。


「……そうか。そうだったな。君は本当に興味深い存在だな」

「えぇ、死ぬのって……ほんとうに恐ろしいんですよ。だからみんながそうならないように自分は精一杯頑張るんです。できてしまうから後悔したくないんです」


 ユークさんは「そうか……」と呟いた後、長く長いため息を一つ吐いた。

 彼の自分を見る目には複雑な感情が入り乱れていたけど、一つ読み取れたものはたぶん憐憫れんびん、だろうか。

 難儀な在り方だと自分でも思いますよ。


「分かった。ならアギラのことは君に一任しよう。『魔言』についてはこちらでなんとかする」


 そうして自分は奴の元に赴くことを許されたのだった。



 さて、今言ったことは自分の本心ではある。

 ソフィーちゃんを見捨てたくたいのも、誰も死なせたくないのも、折角の情報で分裂を狙ってみようってのも全部ウソじゃない。


 でもその上でもう一つ、自分はアギラの元に赴く理由があった。


 そうして自分は自分の望みを相応しい理由で覆い固めたのだ。

 分かってる。


 ただ純粋に戦いたい。


 以前戦ったときの自分は確実に遊ばれていた。

 でも今の確実に強くなった自分なら、奴の辿り着いてしまった高みを見れるかもしれない。


 そうして自分はほのかな期待を胸の内に秘めて、少しだけ口の端を持ち上げたのだった。

 

 

 

活動報告で言ってたキャラ紹介は明日にでもあげます。

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