第六二話「二度寝からの起床」
これで死ぬのは3度目。
なんというか……割と慣れてきた感じがあった。
『お目覚めかヒメサマよ』
バロル早速だけど状況をお願いできる?
己の体が構成されていく感覚を味わいながら、相棒に状況説明を求める。
自分が死んだとき、アルコンさんの襲撃があったということは理解してるけど数分経った今ではどうなったか……。
『あーってェとだなァ。まず正面に今にもぶった切られそうなオリヴィエの嬢ちゃん、右手にオメェを出落ちさせようと大曲剣を振りかぶって向かってくるアルコンだな。対処できるな?』
随分自分のこと買ってくれてるんだねバロル。
えぇっと……。
自分は再生した金と白の眼で、バロルからもたらされた情報と目の前の状況を照合する。
状況は確かにバロルの説明と相違ない。
うん。これなら大丈夫かな。
自分は大鎌をグッと掴んだ。
まず対処すべきはリィゼさん。
手に握られたレイピアはちょっと尋常じゃないくらいの輝きを放っていて、それがただのレイピアじゃないことを主張していた。というかそんなすごそうなエンチャントがかかってなかろうとレイピアで刺されば大怪我には変わりない。あれは止めねば。
幸いリィゼさん自身は左手と両足を負傷してるみたいで、繰り出そうとしている剣閃もどこか頼りないものだった。
「アンタ……!」
「ご無沙汰です」
二週間とちょっとぶりの挨拶を
突き出されるレイピア。その狙いはオリヴィエさん。
自分はぎゅるりと大鎌の刃をオリヴィエさんの脇から、弧を描くようにして突き出す。
キュインッ! という異様に高い金属音。
「な」
レイピアが大刃の上を滑っていく。
いかにリィゼさんのレイピアが錬金金属で強化されていようと、神器レベルの大鎌相手では刃が立つまい。
そうして大鎌の弧上へリィゼさんの刺突が流れていく。
そこで自分はクイッと大鎌を引き戻し、それに巻き込まれる形で、リィゼさんの体が自分から見て右方向へ流れていく。
そして足を負傷しているリィゼさんは体勢を崩し、自分の右手で、ずしゃあと転倒する。
「うわ、おまっ」
位置はアルコンの追撃ルート上。
そこに味方が倒れ込んできて、案の定アルコンさんはたたらを踏んでくれた。
よしよし、目論見通りだ。
自分は大鎌の刃を足で軽く蹴りつけ、ギュルンと刃の方向を反転。
「ごめんなさいっ!」
次いで、自分はこれからすることについて謝りながら、グルリと大鎌を縦にまわして勢いをつける。
そして倒れているリィゼさんを大鎌の背で弾き出してでシュート。
グイっと人間一人分の感触を感じながら、大鎌を思いっきり振り抜いた。
「な、おま!」
アルコンさんが抗議の声を上げながら、突然飛来した人間の弾を避けることはできず、モロに直撃を受けて、部屋の奥までお引き取りなさった。
とりあえずあの二人を捌くことはできた。
自分は一つ息を吐き出し、大鎌を肩に担いで悠々と部屋に踏み入る。
状況整理。
部屋の奥ででダマになって転がされている敵方二人はどちらも万全の状態じゃないっぽい。
アルコンさんは腕に裂傷を負っているし、リィゼさんは両足と左手を負傷している。
まぁなんとかなる、かな。こちとらこの数日めちゃくちゃ頑張ったし。
対してこっちの陣営。
オリヴィエさんは目立った外傷こそないけれど、意識朦朧といった感じ。魔力の使いすぎかな。こっちは戦闘続行は厳しそうだけど、命に別状はなさそう。信じられないといった面持ちでさっきの攻防を眺めていた。
だけどもう一方、自分のすぐ横に倒れるロッシさんは四肢が引き千切れてしまいそうな有様だった。悲痛な呻きが彼の口から漏れる。これは今すぐ対処しないとまずいやつだ。
しかし、何があったらこうなるんだ……?
アルコンさんもリィゼさんも操られているだけっていうのは分かってるけど、それでも自分によくしてくれた人達がこんな風にされてちゃ、どうしても敵愾心のようなものを押しとどめることができそうになかった。
自分は大鎌を担いで、ブンと軽く振るい、調子を確かめる。
「オリヴィエさん」
「あぁ……、エリュー。よかった」
「はい。オリヴィエさん達のお陰です」
自分は敵方の二人へ警戒を払いながら、後方のオリヴィエさんへ話しかける。
彼女はもともと覇気のない声だったのが、さらに弱々しくなってしまっていた。かろうじてって感じだ。
そんな彼女に頼み事をするのは忍びないけど、さすがにこの怪我は自分の手に余るしね。
「ロッシさんを頼めますか」
「……うん。魔力はほとんどないけど……石虹のストックならあったはず。さっきの戦闘じゃ割る暇もなかったけど」
幸いオリヴィエさんは、救命に尽力してくれるようだ。
ただ片手がもげているオリヴィエさんではロッシさんをここから運び出すのは無理だろうと思ったら、その想像通り彼女はしゃがみこんで今ここで治療を開始しようとする。
ということはすぐ近くの二人に被害を及ばせないように立ち回らないといけないわけだ。
これはちょっと厳しいオーダーかも?
あちらはへたり込んで立てないでいるリィゼさんへと手を差し出して立ち上がらせたりしていた。
リィゼさんのリアクションははたっぷり十秒くらい手を出したり引っ込めたりした後、顔を真っ赤にしながらアルコンさんの手を掴むというもので、なんというかその。
なにラブコメしてんのあいつら。
まぁでもあちらはあちらで戦闘の準備を整え出して、アルコンさんが前に出てきて、足を負傷したリィゼさんは後方でサポートに徹するようだ。
そんな風にあちらの分析をしていると。
『おいエリュー。おめェ。自分のことも確認した方がいいぞォ……』
自分のこと?
まぁ蘇生で魔力は3割もってかれたけど、それ以外はむしろ蘇生したんだから万全の状態のはず。
自分の体を見下ろす。そこは大変なことになっていた。
紛うことなき素っ裸じゃないですか!
白い肌はまるで新雪のようで、そこに差し込んできた朝日がキラキラときらめく。それはもうあられもなく。
「────────っ」
蘇生したから、死んだ位置と違うとこで体構成したから、そりゃ服がついてくるわけはないですよねー。
全くもってあちら方のラブコメを心中で茶化してる場合じゃなかったわ!
自分は羞恥心で顔を真っ赤にしながら、自分でもびっくりするくらいの速度で詠唱する。
『“来たれ”・“魔封の覆い”────《アポート》」
呼び出したのはローブ。
かつてリッチーの持ち物で、先日ユークさんの提案により魔法陣の封入具となったものだ。
だけど今は単純に体を隠すものとして使わせてもらう。
バッとローブを翻しながら体を覆う。
これで恥ずかしい状況からは脱したわけだ。うん。
さてと。
「そちら方の目当ては自分ですよね、正確にはこの大鎌」
緩んだ空気を引き締めるように、自分は確認を投げかける。
エリニテスの目的は自分。なら『魔言』で操られた二人の目的も自分であって然るべきだ。
その質問に答えたのはアギラさんだった。
「それを持ち去れば、いくら不死の死神だろうがだろうがどうにもできねぇ。『魔言』を解くことだってできる。お前らを助けるためだ。だが……思ったより、被害が大きい。ここは撤退するのが吉ってやつか?」
返答は肯定。
まぁ、あちらの都合のいいような解釈がなされているけれどね。
こちらとしては『魔言』の攻略をするためのサンプルとしてひとりくらいは確保したいものだけど、自分一人でこの二人を相手取るのは不安が残る。
ま、いっちょ頑張ってみますか。
「ここまでされてみすみす逃がすと思いますか?」
「そりゃそうだ」
「────ッ!」
アルコンさんがため息をつくように言い放つと同時。
飛来する水の刃。
先の会話の裏で、リィゼさんが詠唱していたものだろう。
でもその詠唱は自分にはバレバレでしたよ。
くいと手首を持ち上げるだけの動作で、大鎌の刃が自分の前の空間を引き裂き、水の刃なんかはそれで蹴散らされてしまう。
リィゼさんの狙いが見えたのは、冴えた月のような白を湛えた右の魔眼のお陰。
この映唱の魔眼は音を可視化する。それで詠唱が見えるようになる。例えアルコンさんに注意を向けて、ほとんど唇を動かさないようにしていたとしても、だ。
自分は蘇生した間際からこれを発動させていた。
単純に情報収集力が高くなるし、今みたいな不測の事態にも備えができる。魔力消費は3割と痛いが、やっておいて正解だった。
撤退すると見せかけての不意打ち。
狡猾だけど有効な手。
まぁそれも今破れて、不意打ちではなくなった。
「クソッ!」
破れかぶれにアルコンさんが突っ込んでくる。
けれどそれはラグラン流の剣技。
ロッシさんに死ぬほど、いや実際死んで、叩き込まれた剣だ。
自分は大鎌のリーチを活かし、大曲剣より一歩遠い距離で立ち回る。
そうして翻る大曲剣を4つ5つと捌いていき、6回目の剣戟を自分は好機と見た。
袈裟懸けの切り上げを、大鎌を扇風機のように一回転させ絡め取り、アルコンさんの腕をぐりんと捻りあげる。
伝授してもらったラグラン流の技、つまり攻撃にさらに攻撃を重ねて、自分で隙を作り、反撃を差し込む戦法。
よしよしロッシさんとの鍛錬が活きてる活きてる。
自分は一歩踏み込みながら、大鎌をアルコンさんの後ろに突き出してから、体を捻って大鎌を引き戻す。
アルコンさんの背面から大鎌が迫る。
「《リープジャンプ》」
だがその僅かな時間で。
アルコンさんの姿が消える。
逃げられた!
けれどこの攻撃がワンテンポ遅れる感じが大鎌の弱いところだ。
その魔法は知ってる。
槍矢を基点にした瞬間移動だ。
そして槍矢の位置は自分の少し後ろ、確認済みだ。
自分は即座にタンタンとフロントステップしながら、踊るように体を回転、そして大鎌を前に突き出し、案の定自分の背中めがけて振り切られた大曲剣に引っ掛ける。
あとはグイと引っ張るだけ。
残念ながらそれで武器を奪うことはできなかった。けれど頑なにアルコンさんは武器を握った手を離さない。彼の体勢が大きく崩れる。
「よっと」
次いで自分は、大鎌を引き寄せるときの勢いを利用して、前に一歩大きく踏み込む。
右ストレートをアルコンさんの顔へ。
身長差とかがあって良いのは入らなかった。けれど。
そうして上半身へ防御の意識を回させたところで、足元へと鋭い蹴りをお見舞いする。
その蹴りで片足を後ろへ弾き飛ばされてしまったアルコンさんはバランスを崩す。そこで自分は肩を掴んでぐいっと下へ叩きつけてあげる。
ダンッと床板に叩きつけられるアルコンさん。
彼を無力化するためには。
自分はぐるりと大鎌を動かし、ザンッと床板の下へ潜り込ませた。
位置はアルコンさんの首元、ちょうど大鎌の三日月の上にアルコンさんの顎が乗るように。
「動けば首がポロリですよ」
自分はそう言いながら、大鎌の刃に魔力を注ぎ込む。
「ぐぁッ! クソッ……」
これでアルコンさんの喉では自分の奇天烈な魔力が邪魔をしてうまく魔力を練り上げることができない。
彼の場合いくら拘束しても《リープジャンプ》で逃げられちゃうからね。
そこで右の視界に筋のようなものが映り込む。
これは魔法詠唱による未来予測、それを映唱の魔眼で捉える。
そっちの方向にはおもむろに詠唱を始めるリィゼさんの姿があった。
「“水を”・“弾丸に”」
「《フロストバインド》」
自分はローブをバッと翻し、その内に封じられた魔法陣の一つを展開起動する。
それはオリヴィエさんから伝授された魔法陣だ。
今にも打ち出されようとしていた水弾ごと、リィゼさんの腕が凍りつく。
さらに自分はもう一つ魔法陣を展開。
そこから炎の矢が1本、また1本と生成され、自分の周囲に滞空する。
「動かないでください。怖いので喋るのもやめてくださいね、黙ってレイピアを手放してください」
「……っ」
次いで展開した魔法陣は炎の矢を作り出す魔法。
この魔法《フレイムバリスタ》は、オリヴィエさんの《アイシクルレイン》の炎バーションで、生成した炎矢を4発までストックして任意のタイミングで射出できるというもの。
自分は炎の矢を4本展開し、動けば撃つという脅しでリィゼさんを縛り付ける。
「はいはい、降参よ。私は魔法使いとしては二流だしね」
この魔法を前にしてリィゼさんは、嘆息を吐きながらレイピアを放り投げ、両手を上げてわかりやすく降参のポーズを取ってくれた。
これでアルコンさんは大鎌に絡め取られ、リィゼさんは炎矢の前で身動きが取れない。
不安だったけど、なんとかなった。
そうして一息をつく自分にリィゼさんが話しかけてくる。
「見事な手前ね。ここまで圧倒的だとは思わなかったわ」
「いえ、ちょっと上手く嵌っただけですよ」
アルコンさんの剣はロッシさんに散々仕込まれたものだし、リィゼさんの詠唱に対しては魔眼とオリヴィエさんやユークさんに仕込まれた魔法陣で優位に立てた。
「大人しく拘束されてください。悪いようにはしません」
自分は炎矢をチラつかせながら、リィゼさんにそう要求する。
対するリィゼさんは少し考えるような素振りを見せた後、実に不服そうな顔をして言葉を返した。
「仕方ないわね。私はここまでね。……私はね」
その返答に自分の魔眼は彼女の最後の発言に何か含みを読み取った。その音の波がやけにトゲトゲしていからだ。
その直後。
リィゼさんの後ろ。
部屋の壁がはじけ飛んだ。
「なに!?」
飛び込んできたのは丸太ほどの大腕。
次いでそいつはズイと体を潜り込ませてきて、リィゼさんを護るように立ちはだかる。
常人は3倍はあろう体躯には白と黒の体毛。その人の体の上には牛の頭。
ミノタウロスだ。
そこまで珍しい魔物ではないが、元々の飼い主に改造された明らかに巨大化しているし、その上悪魔化して御手も首筋から生やしている始末。
魔獣だこれ!
「ッ炎よ!」
虚を突かれ、反応が遅れた。
自分はワンテンポ遅れて、炎の矢4本を発射する。
けれどそれはミノタウロスの大腕や御手に散らされ、一本は胴に命中するものの、少し怯ませる程度にとどまってしまった。
勿論ミノタウロスを盾にしたリィゼさんに被害があろうはずもない。
「サブプランよ魔獣共!」
水を得た魚のように、リィゼさんは号令をかける。
それに呼応して部屋の外からいくつもの獣の咆哮が轟いてくる。
宿屋が怯えているようにガタガタと軋みを上げる。
それほどの数が外にはいるってことか。
「魔獣なんていつの間に……!」
「ふん、元々ここまで織り込み済みの作戦よ」
リィゼさんは少しドヤ顔でそう言ってくれる。なんて抜かりのない……。
閉所ゆえの地の利はこっちにあるけど……
この魔獣を一匹一匹切り刻む事は骨だ。
自分の魔法はマックス第三階位なのでこの魔獣の群れを消し飛ばすにはいささか心もとない。
自分一人ならどうにかできそうだけど、後ろで治療中のオリヴィエさんとロッシさんをかばいながらとなると厳しいものがある。
「行きなさい魔獣共!」
レイピアをピンと掲げ、リィゼさんが発破をかける。
自分は心中で盛大にテンパった。
くそっ、来ちゃうか。対策を講じる余裕もないじゃないか。
ひとまず一匹一匹仕留めていくしかない……?
……ん?
思わず身構えたものの、それに続く鬨の声は上がらない。
自分はつい数秒前に鼻息荒く突っ込んできたミノタウロスに訝しげな視線を投げかける。
「んぁ? どうしたよアンタ達。は、早く突っ込みなさいよ……?」
それはリィゼさんも同じようで声を震わせ、再度ミノタウロスに突撃するよう命じる。
けれど指示を受けたはずのミノタウロスは、何故か後ろへ振り返って、意識を宿の外へと向けているようだった。
そこで気づく。
外から散発的に聞こえてくる、獣達の悲鳴。
何かが焼けるような音。
明らかに異常、異質、異様。
その音がこちらへ近づいてきてくる。
自分とリィゼさんは先程までとは別の緊張感に苛まれながら、互いに不安そうな表情を見合わせた。
最初に標的となったのはミノタウロスだった。
にわかに巨躯が何かにから取られたかのように転倒し、猛烈な勢いでズルズルと引きずられ、壁に開けた大穴から外へと引きずり出されていく。
そして響き渡ったのはミノタウロスの断末魔と、肉の焼けるような音。
そうしてミノタウロスの巨躯が瞬く間に消え失せる。
その代わりに壁の大穴から見えたものは。赤くドロドロしたもの。
自分の持つ知識に照らし合わせれば、その液体はこう呼ばれるはずだ。
溶岩と。
「な、何よこいつ!」
リィゼさんが顔を真っ青にして一歩後ずさる。
彼女はイレギュラーに直面して、冷静さを欠いてしまっていた。
だからその溶岩が、まるで意思を持つかのように蠢いたとき、即座に反応することができなかった。
「リィゼさん!」
溶岩はリィゼさんを絡め取ろうと触手を伸ばす。
あんなの触れられただけで大火傷だ。
それを自分は見過ごすことはできず、大鎌をアルコンさんの首元から引き剥がして、悲劇を回避せんと飛び出した。
ひどい目に遭うのは自分一人で十分だ。
「“現象よ”・“遍く”・“遠ざかれ”」
自分は詠唱をしながら、全速力で走り込み、
大鎌を振るう。
それでリィゼさんへ伸ばされた紅蓮の触手を切り払う。
その軌道はほとんど水平で、旋円上にはリィゼさんが存在していたけれど。
大鎌の形状がゆえに、刃部分だけがリィゼさんの前に突き出している形になった。
こういうときは大鎌でよかったって思えるね。
そして次の触手が来る前に自分は詠唱した魔法を放つ。
「寄るな!」
空間魔法《フォースフィールド》で即席のバリアを貼り、侵入を牽制しつつ、リィゼさんに声をかける。
「あんた……」
「リィゼさん。これはそっちの魔獣じゃないですよね!?」
彼女が襲われている時点で十中八九そうであろうが、確認のためその問を浴びせかけつつ。自分は彼女の肩を引っ張って、できるだけあの溶岩から引き剥がそうとする。
「っ、あんなの知らないわよ!」
「ですよねー」
「あれは……」
リィゼさんから想定通りの返答が帰ってくると同時に、自分の大鎌から開放されたアルコンさんが体を起こして何か知っているような声を漏らした。
さっすが元粛清部隊。化物相手もお手の物って話でしたもんね。
「あれが何か分かりますかアルコンさん?」
「あぁ、直接見るのは始めてだが、あれはマグマスライムだろ。スライムは大きさによってクラス分けがされていて、AからEまであるんだが────」
ほうほうと思って聞いていると。
そこでメキメキと何かが押しつぶされるような音──自分の《フォースフィールドが破られたんだ。次いで、宿の壁までも溶岩に飲み込まれ、そしてそいつの全体像があらわには、──ならなかった。
そいつは壁が全壊してもなお、その全形が見えないほど巨大だったからだ。
溶岩らしい粘度を以って、それが意思を持ってブニブニと動き回る。
この部屋はまもなく溶岩に呑まれようとしていた。
「こりゃAランク。災害認定されて粛清部隊の一隊が動くレベルだぞおい……」
「まじですか……」
こんなの火山の噴火と変わらないから、そりゃ災害クラスか。魔獣でも為す術もなかったみたいだし。
こいつがどこから来たのか分からないけど、何にせよこちらに襲いかかってくるなら倒す他ない。
これは共同戦線を張る流れかな?
魔言で操られているとはいえ、さっき言葉を交わしたところ問答無用ってわけじゃなさそう。
火事場泥棒されないようにしっかり大鎌を握っておけば、万が一も起きないだろう。
「リィゼさん、アルコンさん、ここは……」
そうして自分が共闘を申し込もうとしたところで、後方から騒々しい足音。
ダッダッダッと床板を鳴らす音の主を確認するため、振り向いた自分の視界を赤い髪が通り過ぎていく。
「《ミサイル・プロテクション》!」
その赤髪の女性は、自分たちの前に飛び出すと、風の障壁を展開する。
バサバサとたなびく彼女の癖っけのある赤髪。
自分の口が彼女の名前をぽろりと口にする。
「ライラさん?」
「ごめんねエリューちゃん。この子が迷惑かけて」
「この子、って……」
まさかと思って向こうのマグマスライムを見やる。
ライラさんはピュゼロやエシャロット以外にも契約している使い魔がいるらしい、あのマグマスライムもその内の1体ってことだろうか。
ということはこのマグマスライムは魔獣をなんとかするために彼女が呼び出したものってこと……?
そう推察しながら自分は彼女の震える背中を見つめる。
「──この子は、《ハウルスク》は責任を持って、私がなんとかするから」
逆巻く風と膨大な熱の力場の狭間に立った彼女は、絞り出したような声でそんな決意を掲げた。
プロット書いた段階で分かってましたけどこの戦闘なげぇですね……。
まぁ、あとちょっとで収まるんでもう少しお付き合いください。




