第六一話「剣と盾と曲剣と弓矢」
少し短めですかね。
あちらの魔法使い達が部屋をぶち抜いて戦闘を展開している頃。
ロッシ・トライジョンとアルコン・エクエスの戦闘は一段落を迎えていた。
「はぁ……はぁ……」
「ハァ……チッ、やっとか。これで」
アルコンは愛剣の調子を確かめるようにぶんと振り、そして肩に担ぐ。
「3分は保った……」
「はぁ……あぁ、そうだな。ったくお前は受けに徹すると固すぎるんだよ」
「だが、そんな無理矢理な方法で突破するとは……不覚だったよ」
先程までこの二人は熾烈な剣劇を繰り広げていた。
戦闘が始まったときには、ロッシは剣と盾を構えた万全の状態であったのに対して、アルコンは得物である大曲剣弓『弧月』を弾き飛ばされ、天井に突き刺さってしまい、槍矢をナイフのようにして闘うしかない状況であった。
だが今アルコンの手には大曲剣がある。
「無理やりな方法」でロッシを突破して手に入れたからだ。
代償に支払ったものは彼の右手をなぞるように刻みつけられた深い切創。これはロッシの騎士剣によって負わされた傷であった。
アルコンは腕を犠牲にしてまで己の武器を確保することを優先した。
普通ならば剣士あるいは弓兵が腕を犠牲にするなと正気の沙汰ではない。
だが彼には、ある魔法がある。
《エグゾセンシヴ》
魔力により構成される強化外骨格。
その機能は単純な身体能力の向上に留まらない。
肉が裂けども、骨が断たれども強化外骨格で動きのアシストを行うことで戦闘を続行できるのだ。
《エグゾセンシヴ》の紋様が彼の切創に覆いかぶさり、押さえつけてしまう。
そうして外骨格のバックアップのもと彼は大曲剣を右手に持って、ぶんと軽く振るう。
その動きにぎこちなさは無い。
魔力の外骨格は負傷という概念をないものにするのだと言わんばかりに。
「そんな使い方をしていたら、またオリヴィエに小言を並べられてしまうよ」
「そのオリヴィエやお前を救うためにこちとら痛え思いしてんだよ。むしろ感謝しやがれっての」
「私の方は文句を言いたいぐらいなんだけどね。いやいいんだけどね」
「あぁ……? まぁいいか」
そこで会話は打ち切りとなった。
アルコンが槍矢をロッシに向かって投げつけたからだ。
「いきなりですね!」
ロッシはさすがの反応で飛来する槍矢を剣で弾こうとする。
だがそこでガインっと金属音が響き渡る。
「決闘じゃねぇんだ。お行儀よくとはいかねぇよ」
アルコンはその槍矢の座標へ《瞬間移動》。弾かれる直前の槍矢の位置に出現する。
そして投げ槍矢を迎撃しようとしていた剣閃に大曲剣が割り込む形となったのだ。
無論投げ槍矢の勢いはまだ活きている。
ロッシはそれを避けねばならず、鍔迫り合いという選択肢が自ずと封鎖されてしまう。
体が流れれば剣を弾くことも容易いこと。
アルコンは大曲剣を刃の根本から擦りつけるようにしてロッシの剣閃を上方向へ弾く、ロッシは剣を離しこそしなかったが、守りを剥がされた形になってしまう。ラグラン流の技だ。
そのままアルコンは大上段の構えを取った。
振り下ろされる大曲剣。
だがロッシにはまだ盾があった。
剣が弾かれた勢いを裏拳の要領で体の回転に変換、大曲剣に盾が間に合う形となる。
盾で大曲剣を弾いたところで、ロッシは引き戻した剣を振るう。
「っとお!」
だがそこでアルコンの姿が掻き消える。ロッシの剣が空を切った。
《リープジャンプ》をしたのだ。
座標は部屋の奥、窓側。つまり先刻オリヴィエの腕を食いちぎった槍矢の位置。
そこで彼は足元に刺さった槍矢を引き抜きながら、ガチョンと大曲剣を大弓へと変形。 片膝立ちの姿勢で槍矢が番えられた。
ロッシは素早い判断で盾にもう一方の手を添えて、だが剣を握ったまま、完全ではない《クロイツェム戦盾法》で迎えうつ。
放たれた槍矢。
唸りを上げて飛翔する槍矢は弩砲と遜色ない威力を秘めていた。
それに対してロッシは完璧な角度、45度で槍矢と接触。
そして上方へと盾を振るう。
ひっかくような音と共に盾の槍矢が滑っていく。
振り抜かれた盾。
リィン……とひっかき音が鳴響へと変じ、弾かれた槍矢がひゅるひゅると回転して宙を舞う。
一難は逃れた。
だがここでロッシには2つに選択肢が与えられた。
「……どっちだ、いや」
彼の手の届く距離には2本の槍矢が存在していた。
1本は盾に弾かれて空中に。
2本目は少し後ろの床板に。
どちらにかにまた《リープジャンプ》で奇襲をされるかもしれない。
ロッシは後退することを選択した。
より詳細に言えば後ろの空間を切り払いつつ、盾を前方に構えて後退する。
これで後方へのジャンプは剣で牽制しつつ、前方からの攻撃は盾で防げる。そういう公算であった。だが。
「ほぉ、そうくるか。じゃ《アポート》」
得意げな表情でアルコンはそうつぶやき、《武器召喚》を行う。
その対応にロッシは「しまった」と思わず声を上げる。
ロッシの足元の槍矢が消え、アルコンの手元に収まる。
そして彼は既に弦を引き絞り始めていて、そこへ槍矢が召喚され。
「それじゃ永遠に近づけねぇぞ」
一射。
ガインッッ!という金属音。
ロッシは放たれた槍矢を盾で弾くも、厳しい表情をしていた。
今の手は悪手だったとロッシは自分の想像力のなさを恨んだ。
だが息つく暇もなく、足元の槍矢が消え、間髪入れず二射目が飛来する。
「くっ……!!」
「どうしたどうした? その程度どうにかできんだろー?」
三射、四射と飛来する槍矢を弾くロッシ。
ロッシの両手にビリビリと痺れが広がっていく。
この根比べを続けていても負けるのは私の方だとロッシは分かっていた。
あちらはアポートに魔力を消費し、大弓を引くのにもそれ相応にエネルギーを消費しているにしても、やはり槍矢を超反応と技術で捌かねばならないロッシの方が先に潰れるのは自明の理だ。
そしてこの状況を切り返す手があることも事実だった。
《クロイツェム戦盾法》には飛来物をそっくりそのまま打ち返す技が存在した。それを用いれば反攻に転じることはできそうだ。
だが、先のアルコンの発言はまるでその展開を望んでいるように聞こえる。
ロッシは逡巡した。
だが他の手はあまり確実なものが見当たらない。
やるしかないと腹をくくり、ロッシは右手の剣を床板に突き立て、盾を両手で保持し、《クロイツェム戦盾法》の構えを取った。
そしてアルコンが弓矢を放つ。
「────《打ち返す鋼の哮り》」
ロッシは前方へと踏み込みながら盾を振るう。
角度をつけて振りかぶられる盾の円旋は、ぴったり槍矢の軌道と重なる。
このままいけば槍矢は盾に跳ね返されるはずだった。
だが、インパクトの瞬間。
槍矢が消えた。
「《戻り一条》」
「っ!?」
アルコンがニヤリと笑う。
発動させた魔法は《リープジャンプ》と《アポート》、2つを同時に発動させる専用キーワード。
ではそれらを着弾の直前に発動させるとどうなるか。
入れ替わるのだ。
着弾直前の槍矢の位置にアルコンが。
射手であるアルコンの位置に槍矢が。
槍矢の速度で相手の懐に瞬間移動して、射手は相手の防御を崩す。
巻き戻った槍矢は、勢いを保ったまま防御の崩れた相手へ突き刺さる。
これがアルコンの空間魔法と剣弓術を組み合わせた曲技《戻り一条》。
アルコンはロッシの少し横に降り立って、大弓の弓幹で盾を殴りつける。
突然の奇襲と、それも2方向に分裂した攻撃に、ロッシは十分な対応ができなかった。
遂に盾がロッシの手から離れる。
そして飛来する戻り槍矢。
防御は剥がされた。
盾は宙空にある。
絶体絶命だ。
だがロッシはこの技を知っていた。
そして対処できると判断して、反射に踏み切ったのだ。
だからロッシはこう言ってのける。
「そうくるならっ」
ロッシはやけに鋭いフックを放つ。
対象はもちろん迫りくる槍矢。
それを横合いから殴りつければ、猛烈な勢いを保ったまま、左方へと逸れていく。
「マジか!」
アルコンは驚愕した。
正直獲ったと思っていたのだ。その必殺の一撃が攻略され、思わず口から驚嘆が漏れてしまう。
彼はロッシの強靭な防御が盾によるものだと認識していた。
それは事実ではあるが、盾がなくても、剣がなくても、ロッシは武人であり、徒手空拳でもそれなり以上に戦えるのだ。
そしてフックを引き戻す勢いから流れるように、突き立てた剣を引き抜いて、眼前のアルコンの対処にあたる。
左手の剣を持つ構えは《ルシアス貴流刺剣術》。
「《黄の針棘》」
雀蜂の毒針の如き、素早い刺突がアルコンめがけて放たれる。
「ぐっ! あっぶねぇな! それ血が止まらなくなる突きだろ!」
ロッシの刺突を大弓で弾こうとするも、それはあまりにも疾すぎた。
肩口を浅く切り裂かれ、どろりと鮮血が溢れ出す。剣に這わせた魔力を振動させ突き出す《黄の針棘》は、傷口に多量の出血を強いる面倒な技だ。
《エグゾセンシヴ》のおかげで動きに支障こそないが、長期戦になれば確実に影響を及ぼすだろう。
アルコンは舌打ちしながら、大弓を大曲剣に変形させながら《ラグラン流》の技で応戦にあたる。
「あっちの部屋のどちらかに頼めば血は止まるよ、頼んできたら?」
「じゃあどけっつの!」
互いに言い争いながら、ロッシとアルコンは斬り合う。
刺突を繰り出せば、剛剣がそれを叩き潰し。
大曲剣が攻撃に転じれば、軽い刺突は即座に引き戻され、受け流されてしまう。
流れるような切り払いはジャンプで回避され、真上からの切りつけが降ってくる。
それを打ち払えば、アルコンの姿は消え、離れた位置で弓の弦がキリキリと音を立てる。
射撃からの転移。そしてまた振りかぶられる大曲剣を、同じ流派の豪剣で受け止める。
鍔迫り合いから、互いにまた距離を取る。
そこでロッシが刺剣術独特の足運びで間髪入れずに距離を詰め、抉りこむような刺突。
対してアルコンは天井に槍矢を投げつけた上で、ロッシの刺剣を受け流し、《リープジャンプ》で転移。背後上方からの攻撃に転じる。
咄嗟の判断で前方にローリングして躱したロッシは、追撃に撃ち込まれる槍矢をも弾き、ヒュルヒュルと宙に浮かぶ槍矢を、思いっきり剣で叩いて、打ち返す。
虚をついたカウンターに防御に回るアルコン、その隙に距離を詰めたロッシはまた剛剣を浴びせかける。
互いの実力は拮抗していた。
騎士団の同期であり、幼馴染であった彼らは互いに切磋琢磨し合い、技量を磨いてきた二人だからこそ、その戦いは釣り合った天秤のように甲も乙もつかない。
お互い全力の斬り合い。
ロッシは《ルシアス貴流刺剣術》の優美で鋭い剣閃と、《ラグラン流剛断剣》の豪快な剣技を適宜切り替えて立ち回る。
アルコンは《ラグラン流》に空間魔法と大弓による射撃、さらに槍矢による近接攻撃に《エグゾセンシヴ》の外部アシストをも織り交ぜた戦闘を展開する。
そのめまぐるしい攻防の中でロッシは一つ活路を見出した。
幾つもの攻防の果て、剣戟の中、不用意に振り上げられた大曲剣。
それは《ラグラン流》の格好の獲物に他ならならなかった。
(ここだ……!)
ロッシの剣が唸りを上げる。アルコンの大曲剣を叩き落さんと。
床板を踏み抜かんばかりの豪快な踏み込み。
振り上げられる騎士剣。それは相手の武器を弾き飛ばすことに特化した《ラグラン流》の剣技《捲土頂来》。
だが、その剣は空を切る。
激突の直前。グイと何かに引っ張られるように大曲剣が剣の軌道上から退いていく。
「なっ!」
《捲土頂来》が空振ったのだ。
原因は2つ。
まず一つはアルコンも同じ《ラグラン流》の使い手。《捲土頂来》のことは念頭に入れて戦闘をしていたということだった。
その彼が取った対応は《エグゾセンシヴ》のアシストで、無理やり大曲剣を引き戻すというもの。
常識で想定される人間の動作から逸脱した強化外骨格による動き。それにロッシは対応できなかった。
そしてもう一つはロッシの騎士剣の先端が切り落とされているということ。
先のリィゼとの戦闘で錬金レイピアにより、騎士剣の切っ先を切り落とされた。
その僅かな長さが明暗を分けたのだ。
そして空振った剛剣はすなわち大仰な隙に他ならない。
「残念だったな」
ドッと鈍い音がして、ロッシの腹へと拳が突き刺さる。
そしてアルコンは《エグゾセンシヴ》のアシストを最大出力にし、拳を振り抜く。
一瞬ぐいっとロッシの体が持ち上がり、恐ろしい速度で発射される。
ほぼ水平に吹き飛ばされたロッシは、オリヴィエのベッドへと激突。
ベッドに覆いかぶさるようにして氷漬けになっていた泥ゴーレムとベッドの木片がバラバラに砕け散る。
腹にも背中にも打撃のダメージを受け、痛みが彼の体を走り回る。
「ぐっ……」
「ぬかったな!」
ベッドの残骸の中で身を起こそうとしたロッシ。
だがそこで悪寒を感じ、ほとんど直感で剣を振るう。
ガキンという金属音。
飛来してきたのは槍矢。容赦ない追撃。
確かに防御はできた。
その代償にロッシの剣が弾き飛ばされる。
遂にロッシは無手になった。
そして。
ロッシの耳には詠唱が届く。
詰ませるための最後の一手。アルコンの出しうる最高の攻撃。
「“世界に”・“杭を”」
アルコンは槍矢を番える。
その槍矢へと《エグゾセンシヴ》の魔法線が這い上がっていく。《エグゾセンシヴ》を破棄してもこの一手で戦闘が終了するのだから問題ないということを意味していた。
「“脆き”・“硝子の”・“壌土に”・“裂き咲け”」
槍矢は数節の詠唱の間に、赤い魔法線に覆われ尽くし、それが魔法陣と化していく。
第二階位の詠唱。槍矢そのものにもともと刻まれた空間系の魔法陣。それらをさらに追加の魔法陣で覆い尽くし、より高次の魔法へと昇華していく。
「“天元の”・“曼珠沙華”」
そして弦が引き絞られきり、詠唱にピリオドが打たれる。
槍矢からはまるで狼の唸り声のような、木板が軋むような、低くもあり高くもある、あえて表現するならこの世ならざるとでも言うのだろうか、そんな音が響いてくる。
それがもはやただの槍矢ではなくなったことを意味していた。
「────《万華砕き》」
その技の名前は、絶望をロッシに突きつけた。
アルコンが今発動させようとしている、魔法矢|《万華砕き》。
それは槍矢に空間魔法を込めて打ち出し、射線上の空間を破砕するアルコン必殺の一射。
空間破砕に巻き込まれれば、まるで割れたステンドグラスのように人間なんてバラバラになってしまう。
効果範囲は、槍矢が通過した線上から左右に5mほど。この部屋の横幅よりもそれは広い。
剣も盾もない。
いやそもそも、それがないからロッシはこの魔法射法の発動を許してしまったのだ。
「終いだ」
《万華砕き》が射出される。
放たれた槍矢はその軌跡上にひび割れを、空間の亀裂を生んでいく。
それに対してロッシはある物を目指して真横へと飛び出した。
効果範囲的に回避は不可能。それは確かだ。
性質的に防御は不可能。……果たしてそうだろうか。
(まだ手はある)
ロッシは弓ではじき出されたかのように飛び出す
全霊を込めて、駆ける。
そして掴んだ。
エリューの大鎌を。
それをロッシは迫りくる槍矢に向けて振るった。
死神の大鎌は神器とほぼ等しい格を持った武器。
それは空間がビビ割れた程度では壊れない。普通の物体とは存在の格が違う。
事実、エリューの大鎌はアギラの空間を断裂させる魔法を正面から受けても、顕在だった。
そのことはロッシは知らないものの、元粛清部隊の知識として、そしてエリューとこの数日触れ合ったことで、死神の大鎌が空間魔法程度で壊れないものだと知っていた。
迎撃。
本来干渉すらできないはずの魔法矢に、大鎌の刃が触れる。
そしてロッシは絡め取るように大鎌を振るい、槍矢を叩き落とした!
だがそれで《万華砕き》を止めることはできない。
「ぐっ……!」
床板に突き刺さった槍矢を中心に空間のひび割れが広がっていく。
槍矢の勢いを殺そうとも、槍矢に込められた魔法が喪われるわけじゃない。
それに対して、ロッシは咄嗟に大鎌を引き戻し、その巨大な刃を盾のように己の前にかざした。
部屋の中心から広がるひび割れはまるで花のよう。
いわば空間を割り裂いて花開く天元の曼珠沙華。
宿屋の一室ではちっぽけな空間では収まりきらない花弁は、瞬く間に部屋の家具等はもちろん、床板や天井、壁までも粉々にして広がっていく。
それに呑まれぬよう、ロッシは必死で大鎌の刃を押さえつける。
ロッシが盾にした大刃の後方の筋のような領域だけが唯一、正しい空間の状態を保っていた。
それでも、大刃の盾だけではどうしても全身を守ることはできない。刃から僅かにはみ出た彼の四肢がみるみる内にひび割れていく。
腕が、足が、割れて、砕けて、そして。
遂に大鎌を支えきれなってしまう。
大鎌によってせき止められて淀んでいた空間魔法のエネルギー。その力場の淀みが大鎌という堰を失ったことで決壊する。
結果ロッシの手から大鎌が吹き飛ばされ、放物線を描いてロッシの後方へ。
ひび割れの大輪の懐に抱きかかえられるようにロッシは横たわっていた。
不幸中の幸いというべきか、大鎌が空間魔法のエネルギーを堰き止め、ただの物理衝撃にまで緩和してくれていた。お陰でロッシは全身に染み込むような衝撃波を受けたものの即死とはいかなかった。
だがはみ出してひび割れた四肢は今にも千切れそうで、全身を貫いた衝撃波で細胞の一片まで殴りつけられたような状態。
戦闘を続行することなど出来ようはずもなく、立ち上がることすらままならない。
やがてひび割れ大輪は花弁を散らし、世界は正しい形を取り戻していく。
その中を悠々とアルコンが闊歩する。
そしてロッシの側で足を止め、満身創痍の彼の姿を冷ややかに見下ろした。
「まさか五体満足でいられると思わなかったが、似たようなモンか」
アルコンはつまらなそうにそういう。
「警戒はしていたんだがね、……剣と盾を剥がされた上じゃ、……さすがに……厳しいものがあるよ……」
対するロッシは千切れそうな四肢の痛みをなんとか痛みをこらえて、言葉を返した。
ロッシの誤算は、いつもより剣が短かったこと。その一つのミスから剣を失い、《万華砕き》の発動という致命的な事態まで繋がってしまった。
「さて、もう立つこともできねぇだろ。大鎌を確保すりゃあ……、あ? 大鎌はどこに……」
「……君が吹き飛ばしたんだろう。目的を違えてはいけないよアルコン」
「あ? なんだお前。やけに余裕じゃねぇか。そのザマでよ」
「……気づいてなかったのかい」
「何をだよ?」
「私は君に……別に勝つ必要はないんだよ。適役がいるからね」
そしてロッシは大鎌の弾き飛ばされた方向、つまり廊下を見やり、薄く笑みを浮かべた。
つられてアルコンがそちらを見やる。
突き立った大鎌。
黒い粒子が取り巻き、少女の形を成していく。
白く細い手が大鎌を掴んだ。




