第七話 見慣れない客
#第七話 見慣れない客
アデライード・クロイツベルク 十六歳
アリーの世界はこれ以上の広がりを見せず、むしろ小さくなっていった。
クロイツベルク主催の夜会には当然出席するが、他の侯爵や伯爵が主催している夜会はほとんど出られなくなった。
アリーがゲオルグに問うと、出る価値がない、との事だった。価値とは何だろうと考えていると、夜会に出席する貴族の爵位の事だった。
王族、公爵が出席するものは参加を検討するが、そうでないものは招待客の一覧を一瞥して捨てるありさまだ。
それよりも街へ出掛ける事すら防犯上の理由を盾に許可が降りなくなった。アデラ広場もアデラ市もアリーが口を出さなくてもきちんと運用されてはいるものの、様子を知る機会は月に一度の報告書だけになった。
これではアデラ広場の様子を直に伺ったり、路地裏の籠すら持たぬ弱き者達の事を調べる事も、教会の活動報告を聞いたりする事も出来ない。
仕方なくロイを使って遠く離れた砦の兵とのやりとりや、侍女を使って街の様子を確認するだけになった。
侍女達にも邸宅での仕事が山のようにある。その隙間を縫うようにして街へ出てくれるのだから文句などない。
文句はないが、どうしても自らの目で確認しない事には状況が分かりずらい。侍女の報告を受け更に問うても侍女が困るだけだ。
あまりに根掘り葉掘り聞くと責められている気分にもなるやも知れない。アリーは侍女の報告で我慢した。
その代わりに邸宅に見慣れない客が来る事が増えた。頻繁とまでは言えないが、気付けば来客がある。
今までよりも頻度が高い。来客は商人風の男だったり、貴族の時もあった。
どちらにしてもほんの少し違和感があった。その違和感の正体が何なのか分からないけれど、アリーはその正体を見極めようと来客がある時は見る事にした。
何故だかゲオルグはアリーをその客に紹介しようとしない。まだその時期ではないという事なのだろうかと考えた。
客はゲオルグと談笑しながらゲストサロンへ入る事もあり取引の相手が広がるのだと考えてもみたが、誰もが取引の品を持っている気配がなかった。
一方でゲオルグの方も手土産に見本の品を渡す事もない。商取引でない、正確には商取引だろうが、扱う品物はもっと大きなものではないかと想像した。
「お父さま、最近いらっしゃるお客様とは何をされる予定なのですか?」
アリーはとうとう直接聞いてみた。ゲオルグがどのように反応するのかも見てみたい。
「大きな取引だ。何年も掛かって実現する程のな。しかるべき時が来たらアリー、お前にも紹介する。今はまだワシ一人で考える」
その言葉はいつかアリーも一緒にこの取引に関わる、という風にも受け取れた。
それなのに、話せない事とは何なのだろうか?
それに、アリーは既に十六歳。いつ嫁いでクロイツベルクから出ていっても不思議ではない。
まだまとめるだけの情報が足りない、そう思った。
縮こまった世界を飽きさせないようにと、庭園の花は種類が増えた。以前は薔薇だけ植わっていた場所に季節毎の花が楽しめるようにと別の花も植えられるようになった。
それなのに、侍女はまるでアリーと仲良くならないように定期的に入れ替わった。マルタが去る時には涙ながらに「最後までご一緒出来ずにすみません」と声を上げた。
来客の違和感の正体に気付いたのは、尖塔から領内を眺めていた時だった。今ではアリーの世界は尖塔から眺められる場所に行く事もままならない。遠い異国と同じだ。
まさに異国、川を挟んだ隣国ガルディア王国のオルデンブルク伯爵領から橋を渡って来る商人風の男に見覚えがあった。
正確には体型と服装が邸宅のゲストルームにゲオルグと一緒に談笑しながら入って行った男だ。
そこから全ての線が一本に繋がっていく。
あくまでアリーの想像の域を越えないが、ゲオルグはアリーを公爵に嫁がせるべく動いていた。
公爵の参加する夜会には出席するものの、そうでない夜会には参加する価値などない。
だが幾ら夜会に参加したとて、公爵やその子息に気に入られるとは限らない。
だとしたら、次善の策は何なのか?それは隣国ガルディアのオルデンブルク伯爵との婚姻だ。隣国といえど領土は隣接していて王都へ行くよりも近い。
だが、それならばアリーを街にすら行かせない理由にはならない。
では何か?それは、クロイツベルクはグランベル王を、オルデンブルクはガルディア王を裏切ろうとしているのではないだろうか。
アリーが街に頻繁に出向く事はその兆候を知る事になる。だからそうさせないためにも街へ出る事を禁止し、侍女を使った斥候のような事をさせないために頻繁に入れ替える。
これが事実なら、何としても街の様子を確認しなければならない。
アデライードは心に決めた。




