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罪人の姫  作者: 海のくらげ


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第五話 アデラ広場

#第五話 アデラ広場



アデライード・クロイツベルク 八歳


「お父さま、街へ行って参りました」

アリーはその日の夕食の席でゲオルグに報告した。

幼い弟は専用の椅子に座りパンを掴み嬉しそうに振り回しているところをヘレナにやんわりと止められている。


「かつてより賑やかだっただろう?」

自分の成果だと言わんばかりの言いっぷりだが、まさにその通りだった。争いよりも交易を優先した成果だ。

隣国のオルデンブルク伯爵とは不可侵条約も結んでいる。いざ争いが起きればオルデンブルク以外の兵がなだれ込んで来るのだろうが、平和な時には軍事力よりも交易に力を割ける。

兵の数は少ないが、代わりに国民のほとんどが交易になんらかの形で関わり恩恵を得ている。あのかごを持つ女性達を除いては。


「ええ、とても。店の数も多いですし、歩くだけで色んなお店に入りたくなります。ただ」

アリーの最後の言い方に片眉をあげた。オルデンブルク伯爵にケチを付けるとは、さすが我が娘と感心した。

「アリーは何か改善したいところがあるようだな」

責める風でもなく、アリーの思う所を聞き出そうと尋ねた。


「ええ、出来ればアデラの名を冠した場所が欲しいと思っています」

「おお、思った以上のおねだりだな。まさか名を冠する場所が欲しいとは」

ゲオルグは予想以上の要求に驚いたが、嬉しくもあった。綺麗なドレスや宝石は飽きる。

地名は単なる記号だが、いつしかそれなしでは暮らせなくなる必需品だ。

クロイツベルク領に住んでいる、と言えば交易で豊かな領で金持ちを想像する。逆に領名がなければそこらにいる動物と同じで身を示すものがない。

アリーは嫁ぎ出て行く事を理解し、それでも領内に自分の居場所を作ろうとしている。領民でなくなった後からも領民は慕うだろう。


「分かった。何か決めているのか?」

「ええ、アデラ広場と名付けていただきたいのです」

メインストリートの端の街が始まる辺りにぽっかりと空き地がある。本来は兵を駐屯させる為の野営設営所となっており、有事の際以外は無用の場所だ。

そこにアデライードの外での呼び名を冠した。

「アデラ広場、いい名前ね。ゲオルグ、ステキじゃない?」

「そうだな。噴水もあるし憩いの場としても使えそうだ」

両親とも賛同の意を示す。アリーはほっとした。最初の段階で拒否されてしまうと何もかもが水の泡になってしまう。


「それで、アデラ広場は朝には朝市を開きたいのです」

少しずつ計画を示した。いきなりかごを持つものを救いたいなどと言って納得するはずがない。

「市か!それは街の胃袋を満たす為だな。よし、ではアリー、やってみなさい。利益はお前のものとしよう」

ゲオルグは執事を呼んで概略を説明し、以後アリーが必要とする事の一切をとりしきる事となった。


執務室を持たないアリーは応接のサロンに執事を呼び出し話を始めた。

「まず、広場は名目上は兵が駐屯する場所になっているので、ずっとは出来ないから朝市にしたいの」

「おっしゃる通りですな。では市を設営する部隊が必要になります。一旦設営と撤去は兵達の訓練の一環という事に致しましょう」

「次に売り場は区分して、そこを売り主に貸し出すという形を取りたい」

「よいですね、では全体を管理する商人を選別しておきます」

「その内の一画は教会に格安で貸し出したい。教会の者なら計算も出来るし、弱い者を虐める事はないでしょう。奉仕活動の一環とさせたいの」

「なるほど、それが目的でいらっしゃいましたか」

「ええ、店を持てない、働きも出来ない弱き者にも我が領は生きる希望を与えたい」

「承知しました。では教会にも話をしておきます」

有能な執事のおかげでとんとん拍子に話は進み、翌週にはアデラ広場に朝市が立った。

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