第二話 誕生パーティ
#第二話 誕生パーティ
アデライード・クロイツベルク 五歳
アリーが五歳になって一週間経った日、城のホールはきれいに飾りつけられ、等間隔に並ぶテーブルには色とりどりの花とそれに負けない綺麗な料理が並んだ。
一段高い壇上には父ゲオルグと母ヘレナが並び、その間に守られるように着飾ったアリーが立った。
次から次へと招待客がやって来ては挨拶をする。
特にアリーに対しては片膝を付き胸に手を当て頭を下げ忠誠を誓う。
もちろんこれはアリーに対してと見せかけた、侯爵への恭順だ。侯爵は満足げにそのやりとりを見ていた。
だが、アリーは祝いの言葉一つ口にしない貴族達にうんざりしていた。
何度駆け出して自室に戻ろうか、兵達の詰め所に行って不満をもらそうか、庭園で花の蜜を吸いながら庭師のじいやに話を聞いてもらおうかと考えた。
それが叶わぬ事はアリー自身が気付いていた。
邸宅にいる皆は主従関係はあるもののアリーとの付き合いもありアリーを好きでいてくれるが、ここにいる大人達はそうでない。
単にゲオルグ侯爵と知り合いになりたいのだ。それなのにアリーが居なくなってはいけない。
だから楽しくもないのに指遊びもしないで大人達をまっすぐに見つめ、大人達の言葉ににこりと微笑んだ。
大人達の挨拶が一段落するとようやくアリーと同年代の子供達が挨拶に訪れ始めた。
母親に連れられて、あるいは母親の後ろに隠れてアリーを覗く。
まだ子供の方が仲良くなれるのではないかとアリーは微笑みを浮かべて見た。
恐る恐る母親の後ろから出て来て、男の子は片膝を付いて胸を手に当て頭を垂れ、女の子はスカートの端を摘んで、膝を曲げて腰を落とす。
ああ、ミニチュアの大人だ、アリーはそう思った。誕生パーティと言うのは名ばかりで誰もが顔を覚えてもらう為に来る。
父ゲオルグは見下ろしながら、その光景を将来のアリーの嫁ぎ先としてふさわしいか、クラウスの部下として使えそうかと吟味していた。
子供達の挨拶も終わるとようやくアリーは解放され、別室へ移動する事となった。
大人達のパーティは子供達にはまだ早い。
子供達だけになると走り回り、騒ぎ立て、テーブルの上のお菓子を手掴みで取って口に頬張る子供さえいた。
けれどその方がよっぽどアリーは楽しかった。
「アデライード様も一緒に遊びましょう」
一人の女の子が好奇心から声を掛ける。
そうだ、誕生祝いの言葉よりも自分は遊び相手に飢えていた、アリーは立ち上がった。
「でも、走り回るとお父さまに叱られるし、お母さまに悲しい顔をされるの」
子供は残酷だ。一度拒否されたものを是非と再度誘う事はない。
女の子は「そうですわね」言って走り去ってしまった。
やっぱり誘いに乗って走り回るべきだった。アリーは立ち上がったソファにそのまま座った。
子供達の声は段々エスカレートして行き、悲鳴にも思える叫び声が隣で政治の駆け引きを行う大人達にも聞こえた。
何事かとドアが開き、子供達だけの世界の無秩序さに呆れ、床に散らばったクッキーにうんざりして、我が子の痴態を見て赤面して子供を連れて帰って行く。
侍女が慌てて掃除をし、残る子供はほんの数人になってしまった。
いずれも伯爵家の子息令嬢で、程度の差はあれどアリーと同じような想いをして来たのだろう。
だから子供達が叫び走り回る中でも大人しくしている事を理解し座って眺めていた。
静かになってようやくアリーは再び立ち上がり、皆を見回した。
「みなさん、今日は私のたんじょうパーティにおこしいただき、ありがとうございます」
「アデライード様、おめでとうございます」
「おめでとう」
これはうわべだけの挨拶ではない。自分が欲しかった言葉だからこそ、皆がアリーにも心からお祝いの言葉を口にした。
アリーは残った数人を大切にしようと心に誓った。
隣の部屋から音楽が聞こえて来る。
「あ、ダンスの曲よ!」
令嬢がそう口にした。
「私たちも踊りましょう」
別の誰かが口にする。アリーはダンスなどまだ知らない。どうしたものか思案していると子息が口にする。
「アデライード様のパーティだよ。怒る人も叱る人もいない。ゆっくり練習しながらやろう」
その言葉を合図に男女がペアになり、輪になって音楽に合わせてゆっくりと踊り出した。
ぎこちなく、足を踏みそうになり、ぶつかりそうになり、腕の下をくぐる時には不格好に前屈みになって、それでも楽しかった。
難しい所は適当にごまかしながらも段々と調子よく音楽に合わせられるようになった。
「僕はグレイグ、グレイグ・ヴェルナー」
子息はそう言った。アリーも答えた。
「私はアデライード・クロイツベルクよ」
男女の人数が合わないため、交代で踊り、時には令嬢とも踊った。皆が名乗り合う。
アリーは益々この場にいる子息令嬢達の事を好きになった。
子供達が静かなのが気になったのか、再びドアが開き音楽が大きくなる。
そしてダンスする子供達に盛大な拍手が送られた。
こんなにステキな誕生パーティなら毎年やりたい、アリーはそう思った。




