第一話 アデライード・クロイツベルク
#第一話 アデライード・クロイツベルク
アデライード・クロイツベルク 四歳
両親からの愛を一身に受けまっすぐに育つ。
愛くるしい笑顔と素直な性格で侍女達からも慕われている。
城壁の内側、城と邸宅の間の庭園を侍女と散歩していた。
花を一輪だけ摘んで母親の元へと戻る。
「お母さま、お庭にきれいなお花がありました」
「まあ、アリー。お母さまに?」
母親の笑顔がアリーの心を温め破顔した。
聡明な顔立ちと皆を気遣う性格で兵士達からも慕われている。
邸宅を警備する兵達の詰め所に侍女の目を盗んで入って行った。
「みなさま、ごきげんよう」
「アデライード様、ごきげんよう」
気付いた兵士達が一斉に片膝をついて胸の前に手を当て頭を下げて挨拶を返す。
皆の頬は緩んでいる。幼い領主の娘が兵にまで毎日挨拶をしに来るのが嬉しいのだ。
「アデライード様、本日も城内及び領内に異常はありません」
この姫を守るために我々は日夜働いている、皆そんな想いを胸に秘めている。
好奇心に満ちた顔立ちと何にでも興味を示す性格で動物からも慕われている。
城の尖塔に昇ると砦とのやり取りで使われているロイと名付けられた鷹がやって来る。
「ロイは毎日おてがみを持ってきてえらいね」
「ピィ、ピイィ」
しゃがんだ兵の腕に移るとアリーに顔をすり寄せる。
その顔を撫でるとロイは気持ちよさそうに目を閉じる。
幼いアリーの世界は邸宅、庭園、それに城の尖塔だけだ。
尖塔に至ってはまだ辺りを望む事すら叶わずやって来るロイを見上げるだけ。それで充分だった。
代わりに日々顔を合わせる人の数は多かった。
父親のゲオルグ、母親のヘレナ、専属侍女のマルタ、その他色々な侍女や邸宅を整備する営繕係、守衛の兵達。
アリーは兵達が皆同じ格好をしているので、同じ人物と勘違いしていた事がある。
ある時、マルタを伴って散歩をしていた時、詰め所のドアの内側から大勢の笑い声が聞こえた。
アリーは興味を持ち中を見たいと言ったが、マルタに拒まれた。
押し問答をしていると内側からドアが開き、たくさんの兵が現れた。
アリーは感動した。
今まで邸宅にはほんの僅かしか人がいないと思っていたのに見回りの兵だけでもこんなにいる。
よく見れば一人一人体格も顔も異なり、アリーを見る反応も異なる。
そのうちの一人がアリーの前で膝を付き胸に手を当て頭を下げる。
「これはこれはアデライード姫、このようなところにようこそおいで下さいました」
他の皆も一斉に膝を付く。
「皆さんはおしろを守ってくれているのですね」
「はい、本日も城内に不審な者はおりません」
「ありがとうございます、ではごきげんよう」
それ以来、兵の詰め所に挨拶に出向くのがアリーの日課となり、兵は幼き姫に心酔して行くようになった。
アリーは朝の支度を済ませて食堂に着くと父親のゲオルグも母親のヘレナも既に二人とも席に着いていた。
生まれたばかりの弟クラウスは小さなベッドに寝かされて母のそばにいる。
「お父さま、お母さま、おはようございます」
「おはようアリー」
「おはよう」
両親からの愛に満ちた挨拶に今日もしあわせな一日が始まると笑みを浮かべながら席に着くと焼き立てのパンが運ばれて来る。
静かな食事が始まる。
アリーがスープを口に運び、ヘレナがクラウスの世話をし、ゲオルグはアリーをじっと見つめていたがそっと口を開いた。
「アリー、来月でお前も五歳だ。誕生パーティをしようか」
アリーの記憶では二歳の時にはケーキを手掴みで握った。三歳の時はろうそくの火を消せるようになった。
昨年の誕生日では一人できちんとケーキを食べられて褒められた。
いずれも家族だけのささやかな誕生パーティだった。
今年ももちろんそうなるのだと漠然と考えていた。
「それはいいですわ、たくさん人を呼んで盛大にやりましょう」
ヘレナがゲオルグの言葉を補完するように賛同する。
「たくさんの人を呼んで?侍女や営繕係、兵達の事?」
アリーの言葉にゲオルグもヘレナも声を出して笑った。
「そうね、アリーはまだ何も知らないのよね。今邸宅で働いている者達は、アリーにおめでとうを言えるだけで充分なの」
「そうだ、おめでとうだけでは足りない人達を呼ぶ」
「うん、はい、分かりました」
アリーは誕生パーティがとても楽しみになった。




