12話
「……ここが『採掘所』か」
ヴェンヌズから、ほんの数キロ離れた地に広がるスクラップ場。周辺地域の遺跡を掘り返した際、大量に出る土や研究価値の低い資材がこの地に捨てられる。
研究者たちはそんなゴミの山からも、埋もれた宝物を探し当てるのだ。
「魔具がありふれていた時代に捨てられた魔具核も、地層の奥深くに眠っていることがあるからね」
そう笑ったのは、ここを教えてくれた店主だ。
探し人であるモーゼスは、数日前からここで採掘作業をしているらしい。一度採掘に出ると何日も戻ってこないと言ったのも、店主だった。
居ても立っても居られなかったアリーセは、翌日の朝、さっそく採掘場へと足を運んだ。
モーゼスはすぐに見つかった。採掘場で一番声の大きな男性だったからだ。
話に聞いていた通り、ツルツルの禿頭に厳ついゴーグルを付け、口角から泡を飛ばしながら怒鳴っている。その怒号は採掘場の端から端まで聞こえるようだ。
「違う、違う! そっちじゃない! ああ、もう、この役立たず! なんで見てわからんのだ、このヘッポコめっ!」
屑山の上で喚き散らかす老人を、アリーセは冷や汗を垂らしながら見上げる。勇気を振り絞って声をかけると、色付きゴーグルがぐるりと勢いよく振り返った。
「見てわからんかっ! 今は取り込み中じゃい!」
「ひいっ! ごめんなさいっ!」
咄嗟に謝罪を口にしたアリーセ。しかし、その甲高い声を聞いて、老人が「うん?」と首を傾げた。
「何じゃ、子供か。ヴェンヌズの偏屈どもかと思ったわい」
見ない顔だのう、とボヤきながら、彼は屑山から器用に滑り降りる。年季の入ったズボンから埃を叩き落とすと、ゴーグルを額まで押し上げた。
「どうした、迷子か? ここは危険じゃぞい」
先ほどの様子とは打って変わり、人の良さそうな声色でアリーセに話しかける老人。アリーセは震える声で「は、初めまして……」と挨拶を返した。
「なるほど……先生を探してユピトルからヴェンヌズまで、のう」
「はい。何かご存知ないかと……モーゼス様は古代魔術に精通する人物だと、アルノルド様からご紹介をいただきました」
エヌマエルが古代魔術について何か調べているのなら、彼を訪ねない理由はないだろう。
そう期待したアリーセだったが、返ってきた言葉は期待したものではなかった。
顎の形が隠れるほど蓄えた立派な髭をなぞりながら、モーゼスは「すまんなぁ」と眉尻を落とす。
「いえ、モーゼス様が謝ることでは……」
ありませんから、と応えながらも、その声色は落胆の色を隠せない。次の手がかりに向かわなければ、とアリーセが踵を返した時だ。
背後から屑山が崩れるような、大きな音がした。モーゼスが「また、あのクソッタレ!」と怒りの声を上げる。
振り返ると、屑山に埋もれるよう、一体のゴーレムが傾いていた。不器用そうな腕が、周囲のスクラップを掻き分けようと、わさわさしている。
「まったく、手伝い一つまともにできんとは……!」
ぶちぶち文句を言いながら、モーゼスはゴーレムを掘り返し始める。見かねたアリーセも杖を傍らに置き、手伝います、と屑山を崩しにかかった。
ようやくゴーレムが地面に足をつけた時、二人は汗と土で泥まみれになっていた。
「すまんかったのう、手間をかけさせて。もし良かったら、うちに寄ってってくれ」
モーゼスの言葉に促され、アリーセは彼の工場へ向かった。
シャワーを借り、清潔な服に着替えると、モーゼスはアリーセに温かなハーブティーを淹れてくれる。ホッとする香りに包まれ、アリーセは旅の緊張を忘れるように息を吐いた。
モーゼスも濡れタオルで自慢の禿頭をピカピカに磨くと、さて、とアリーセの前に腰を据える。
「お前さんの話を聞いて思ったんじゃが、その先生とやらは『古代魔術』について知りたがっとったんじゃろ?」
「ええ、そうです」
「なら、ワシより適任がこの街におる。カーリンという変わり者の魔術師だ。ワシはただのゴーレム技師じゃが、あやつはれっきとした魔術師。顔も広いし、もしかしたらアンタの先生とやらについても知っとるかもしれん」
アルノルドの記したメモには無い名だ、とアリーセはすぐに気付いた。ありがとうございます、とどこか興奮気味に礼を述べるアリーセ。その弾けんばかりの笑顔に、モーゼスは瞠目した。
静かな森の奥に差し込む木漏れ日を受けた、大樹の葉のように輝く深い緑の瞳。その色に何かを見出したのだろう。
もごもごと、彼にしては珍しい小さな声で「おぬし」とアリーセを呼ぶ。
「もしや、シャルロッテの関係者か?」
パッとアリーセの視線が、モーゼスを捉える。空を映したようなモーゼスの瞳が淡い期待を浮かべた。
「シャルロッテは、私の母ですが……」
おずおずとした答えに、老人は「おお……おお……!」と、突然子供のようにはしゃぎ始めた。
「なんと! あの子に娘がおったのか!」
「母をご存知なのですか?」
「勿論だとも! シャルロッテはこの街で一緒に古代魔術を研究した仲だからのう。いやあ、あの子は大した魔術師じゃ! 彼女が居らねば、この街の発展はもう五十年は遅れておったろうよ」
ニコニコと破顔するモーゼス。アリーセの手を握り、キラキラとした目でシャルロッテの功績を語り始めた。




