昼休み 〜食堂1〜
昼休み、マリナは食堂に向かっていた。
足取りが重い。
(誰とも話せなかった)
それというのも、あの席がいけない。王子の隣りに座ってしまったことで、少なくとも女子生徒からは、白い目で見られている。
(アイラ様にも呆れられたかな)
そんなことは、ないと思いたい。
エメリアのことも気になる。ほかの生徒に聞いても、「さぁ」とか「そんな子いたっけ」という返事ばかりで、まともに取りあってもらえなかった。
(そういえばあそこ、二人の会話イベントがあったような……)
エメリアとエイルラントは、幼い頃に一度だけ会ったことがあり、学院で再会する。教室はそのイベントが発生する場所だ。
(ホント、どこ行ったんだろう)
そうこうしているうちに、食堂に到着した。
食堂は、白い石造りの外観で、一言で言えば、白亜の城のような建物だ。開放されている入り口を通って中に入る。
(何、これ……)
目の前には、吹き抜けの大空間が広がっていた。
大きめの天窓から、明るい光が差し込む。真正面には、二階へと続く階段が優雅な曲線を描き、黒鉄の装飾手すりがそれを引き締めている。床に敷き詰められた色とりどりのタイルが、幾何学模様を描いていた。
(こんなの、もう食堂じゃないよ)
階段の両サイドを抜けた先には、いくつかの入り口が見える。それぞれ看板を掲げていた。
(これ、フードコートじゃん)
マリナは困っていた。
(広すぎるよ)
どこへ行ったら良いのか、さっぱり分からない。手には、入り口近くで見つけたパンフレットを持っている。食堂の全体図が印刷され、おすすめメニューや人気メニュー、どこで何が食べられるかまで載っている。
かなり親切なパンフレットなのだが、食堂自体が広すぎるため、それだけでは迷子になりそうだ。
足を止めてパンフレットと周りを見くらべていると、
「早く早く」
「急がないと始まっちゃう」
急に騒がしくなった。
バタバタと女生徒たちが走っていく。
「食堂で走るな」
「うるさいわね、それどころじゃないのよ」
マリナが何事かと思って見ていると、皆、一様に階段に向かっていた。
(上で何かあるのかな)
そう思った途端、マリナは後ろから突き飛ばされてしまった。
「きゃ」
よろけて小さく悲鳴をあげたマリナに、
「そんなとこで、ボーッと突っ立ってないで!」
「邪魔よ!」
そう吐き捨てた女生徒が、走っていく。
「もう、何なのよ」
マリナがむくれていると、どこからか、柔らかな旋律が聞こえてきた。
(ピアノの音……どこだろ)
音の聞こえる方へ向かう。ピアノの音は二階から聞こえて来る。
吹き抜けの大ホールに軽やかな高音が響き、ざわついていた食堂が少しずつ静まっていく。
階段を登った先には、人だかりが出来ていた。
中心にいるのは……ラウルだ。
白い大理石の床の上で、黒塗りのグランドピアノが、窓からの光を反射して輝いている。
ラウルの長い指が鍵盤の上を滑らかに動き、踊るような指先が、音楽を紡いでいく。
(こんなシーン、ゲームになかった……)
周りを囲む女生徒たちが、うっとりとした表情で見つめている。
食席に座る生徒たち、テーブルの間を忙しそうに動き回っていたウェイターやウェイトレス、皆が動きを止め、音楽に聴き入っている。
大きく開かれた屋根の奥で弦が震え、奏でられる旋律は耳に心地よい。
その音色に、マリナの心も少しずつほぐれていった。
(癒される……)
演奏が終わった。食堂中に響くような拍手が起こる。
ピアノの前でラウルが、小さく手を振る。
「今日も最高だったわ」
「これ聴くだけで、嫌なこと全部忘れられるのよね」
そんなことを言いながら、集まった生徒たちが、その場から離れていく。
肉を切り分けるナイフの音、磁器の皿が触れ合う音、生徒たちの声、食堂に喧騒が戻ってくる。
人だかりは次第にまばらになり、その中でラウルは椅子から立ち上がった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
本日20時に続きの2話を投稿する予定です。
食堂での昼休み、もう少しお付き合いください。




