初登校
入学式の翌日。マリナは教室の扉の前にいた。今日から本格的に学校生活が始まる。
(……大丈夫)
マリナは一度大きく息を吸って吐き出し、意を決して扉を開けた。
中は大学の講義室のような、階段状の教室だ。
(うわ、広い)
百席ほどあろうかという席は、半分以上が、すでに埋まっていた。
空いている席を探して教室を見回すマリナの目が、見知った人物をとらえた。アイラだ。背すじを伸ばして座り、静かに目を閉じている。他の生徒たちが談笑している中、そこだけ空気が違って見えた。
(やっぱりカッコいいな……って、見とれてる場合じゃない)
マリナは近くの空いている席を見つけて移動した。前世の大学でも、講義は空いている席に座るのが普通だった。だから、深く考えず、近くの席に向かったのだが……
「あの、ここ良いですか?」
「どうぞ」
そう言ってこちらを見た相手の顔を見て、マリナは息を呑んだ。
(うそ、エイルラント=リーデイル=ラインシェリア……
エメリアのメイン攻略対象……)
「ねぇ、あれ」
「何なのあの子」
「平民のくせに王子の隣に座ろうだなんて、厚かましい」
そんな声が聞こえてくる。
「どうしたの、座りなよ」
エイルラントは気にする風でもなく、マリナに促す。
「は、はい」
王子に言われて断ることもできず、マリナは席についた。居心地の悪いこと、この上ない。
エイルラントはといえば、涼しい顔で教科書を読んでいる。
席についた瞬間、マリナは違和感を覚えた。
(あれ……)
どこかで見たことある席番号。
名簿の最後に書かれていた名前と、同じ列、同じ番号だったような気がする。
それにしても、
(何でこの席選んじゃったかな)
隣が王子だとは思わなかった。
周囲の視線が痛い。ほんの数分前の自分を恨みたい気分だ。
(やっぱりムリ)
どうしても耐えられなくなり、マリナは席を移ろうと腰を浮かせた。そのタイミングで始業のベルが鳴る。マリナは諦めて、浮かせた腰を下ろした。
前の扉が開き、二人の教師が入ってきた。
壮年の教師の号令で、全員が起立し、礼をする。着席すると、教壇の上に立つ若い教師が口を開いた。
「初めまして。クラス担任のレオン=ヒューズです。それから、あちらは副担任のグラム先生」
「テオス=グラムだ。よろしく」
脇に立つ壮年の教師が名乗った。
「一年間、一緒に頑張りましょう。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「では、出席をとります」
ヒューズ先生が名簿を開き、順に名前を呼び始めた。
「アイラ=グラディス=シャインさん」
「はい」
「次は……」
(あれ)
マリナは内心焦りを覚えた。ヒューズ先生は、窓際の席から順番に、生徒の名前を読み上げていく。
(これ、もしかして指定席なの?)
「マリナ=マールデルさん」
「はい」
ヒューズ先生が、名簿から顔を上げた。一度、別の席を見てから、マリナの方に顔を向ける。
「マールデルさん、席が違うようですね」
「あ、えっと……」
クスクスという小さな笑い声が聞こえる。
マリナが何か言おうとするより早く、ヒューズ先生が口を開いた。
「今日は良いでしょう。明日からは、間違えずに自分の席に座ってください」
「……はい」
ヒューズ先生は、再び出席を取り始める。
マリナは、恥ずかしくなって下を向いていた。
次々と名前が呼ばれていき、残る名前はあと二人になった。
「……エイルラント=リーデイル=ラインシェリアさん」
「はい」
「以上、全員出席」
ヒューズ先生は教卓の上に名簿を置き、生徒たちを見回す。
「この後の予定を説明します」
(待って、まだエメリアが呼ばれていない)
クラス名簿の最後には、エメリア=ローズの名前が確かにある。
手を挙げようか、どうしようか。マリナが戸惑っている間にも、先生の説明は淡々と続いていく。
(なんで、誰も何も言わないの……)
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
次回からは週二回、月曜日と金曜日に投稿していきます。
引き続きよろしくお願いします。
マリナと一緒に、少しずつ広がっていく聖フルール学院をお楽しみください。




