入学式
入学式が行われる講堂は、扇形に広がる階段状の座席が、中央の壇上を見下ろす造りになっている。
係の生徒に案内され、マリナは指定された席に腰を下ろした。
(壇上、思ったより近いな)
壇上では、脇から現れたラウルともう一人が、打ち合わせをしている。最後の確認といったところだろう。
「ねぇねぇ、あれって王太子さまじゃない?」
ヒソヒソとした声が聞こえてくる。
「ホントだ。やっぱりステキね」
「ちょっと、隣にいる人見て」
「あの人もステキ」
(当然よ、わたしのお兄ちゃんだもん)
マリナは心の中で得意げに呟いた。
壇上のラウルの隣には、マリナの兄、アレクセイがいる。ラウルは人目を引く容姿をしているが、アレクセイも負けていない。
(イケメン二人が並ぶと映えるなぁ)
そんなことを考えていたら、鐘が鳴った。
壇上にはアレクセイだけが残る。
「これより、入学式を始めます」
アレクセイの声が響き、式が始まった。
先ほどまでザワついていた講堂が、今は静まり返っている。
学院長の式辞、教員の紹介。アレクセイのよく通る声で、式は滞りなく進んでいく。
「在校生歓迎の言葉」
登壇したのはラウルだ。
「新入生の皆さん、入学おめでとう。
本日より聖フルール学院の一員となった皆さんを、在校生一同、心より歓迎します」
ラウルの穏やかな声が響く。
「学院での生活は楽しいものばかりではありません。時には辛く、立ち止まりたくなることもあるでしょう。
ですが心配はいりません。この学院には、共に学び、支え合う仲間がいます。
どうか恐れず、一歩を踏み出してください。皆さんの学院生活が実り多きものになることを、心から願っています」
穏やかな拍手が講堂に広がった。
一礼したラウルが壇上を後にする。脇に消える前、司会進行のアレクセイとすれ違った。心なしかアレクセイが、安堵の表情を浮かべた。
「新入生誓いの言葉」
「はい」
凛とした声が響いた。着席している新入生の中から代表者が立ち上がり、壇上へ向かう。アイラだ。
壇上で一礼し、誓いの言葉を読み上げる。
「真実を見通し、偽りを見抜く心眼の魔技にして、初代学院長ミネルヴァの御名において誓います。
伝統ある聖フルール学院に集いし我ら新入生一同、これより学びを怠らず、己を律し、他者を敬い、決して奢ることなく研鑽に励んでまいります。
そして、国家を、ひいては世界をも導く灯火とならんことを、ここに誓います。
新入生代表、アイラ=グラディス=シャイン。」
講堂に静寂が満ちた。次の瞬間、講堂が揺れるような拍手が巻き起こった。
(……凄い、こんなの聞いたことない)
気づけば、マリナも夢中で拍手をしていた。
小さな音がして、何かが足下に落ちた。ふと我にかえる。拾い上げてみれば、式次第と新入生名簿だ。
何気なく名簿をめくってみる。第二王子エイルラントの名前を筆頭に新入生の名前が続く。
その名は、最後のページにあった。
エメリア=ローズ
(……やっぱりいる)
座席表を頼りにエメリアを探す。
(え……)
エメリアが座っているはずの席には、誰もいなかった。
(そんな、どうして……)
入学式の熱気に包まれた講堂の中で、マリナだけが取り残されているような気がした。




