入学式前4
「災難でしたね」
三人が去った後、アイラがマリナに声をかけた。
「とんでもない、助かりました。ありがとうございます」
マリナがアイラに感謝する。それからラウルに向かって、
「殿下も、助けて下さってありがとうございました」
頭を下げた。
「気にしなくて良いよ。それと、気を悪くしないでね。本来、学院内では身分による差別は禁止されているのだけど、彼女たちも新入生のようだし、まだ分かっていないのだろうね」
「だからといって、あのような振る舞いが許されるとは、思えませんわ。だいたい、わたくしには遜るのに、その子には尊大な態度。普段から同じようなことを、しているのでしょう」
「なるほどね」
ラウルは少し肩をすくめるような仕草をした。
「ところで、この後は、どうなさるおつもりですか?よろしければ、馬車でお送りいたしますよ」
「遠慮しておくよ。少し歩きたいからね」
そう言ってラウルが微笑んだ。
「そうですか、あなたはどうしますか?」
アイラはマリナにも声をかけてくれた。
「ありがとうございます。でも、わたしも大丈夫です」
「そう。では、後ほどまたお会いしましょう」
そう言って一礼すると、アイラは馬車に乗り込んだ。
「アイラ様、素敵」
馬車を見送りながらマリナが呟いた。
「アイラ嬢は曲がったことが嫌いだからね。少し融通が利かないところもあるけど、気持ち良い女性だよ」
ラウルが言う。
「本当に助かりました。それに、死刑にされなくて良かったです」
「死刑?」
「はい、貴族の馬車を止めた者は死刑になるって法律にあります。ご存知ないんですか?」
ラウルがマリナを驚いたように見つめる。次の瞬間、
「アハハハ」
大声で笑い出した。
「何がおかしいんですか。こっちはヒヤヒヤしてたんですよ」
「……済まない。でも、死刑っていつの時代の話だい。そんな法律はとっくに廃止されているよ」
「え」
顔が赤くなるのを感じる。
「それじゃ、わたしは行くよ。君も気をつけて」
ひとしきり笑った後、ラウルはそう言って人混みの中に消えて行った。
王子を見送った後、余韻に浸りたい気持ちを押さえてマリナは周りを見回した。どうしても確かめておきたいことがある。
(やっぱりいない)
本来ここに居るはずの人物がどこにも見当たらない。
(さっきの、ヒロインと第一王子の出会いイベントだよね)
確か、馬車を待っていたヒロインと貴族令嬢が言い合いになり、肩を小突かれてよろけたヒロインをラウルが支える、というものだった。さらに言うなら、そこにアイラは登場しない。
ひやりとした風が頬を撫で、マリナは思わず身をすくめた。
(エメリア=ローズ……どこにいるの?)




