試験勉強 〜図書館にいたのは〜
長いので2回に分けました。
中央エントランスを入って、右のウィングを進むと、職員室のある管理棟へ繋がっている。
管理棟に入る手前で左に曲がり、さらに奥へ進めば、マリナたちの教室がある講義棟だ。聖フルール学院は生徒数が多く、講義棟も複数存在する。それぞれの建物は回廊で繋がっており、初めて来た者は大抵迷う。
その講義棟エリアを抜けた先に、図書館はあった。
青緑色のドーム屋根と、アイボリーの外壁が目を引く建物だ。本館を中心に四つの別館が四角形の頂点を描くように配置されている。それぞれの建物は、渡り廊下によって繋がっていた。長い年月をかけ、蔵書とともに少しずつ増築されてきたのだろう。
本館に入ると、正面では一人の女性像が来館者を迎えている。
右手にはランタン。
左手には開かれた本。
そして、その目は布で覆われていた。
初代学院長ミネルヴァの像だった。
ミネルヴァ像の前を通り、正面の扉を開けたマリナは、思わず足を止めた。そこは大閲覧室だった。靴の踵が、木の床を叩く音すら憚られるような、静寂に満ちた空間だ。
奥のカウンターでは、生徒と司書との間で、やり取りが行われている。
「お願いします」
「承知しました」
交わされる言葉は少ない。
カウンターの前には長机が並び、生徒たちが静かに本を開いていた。ページをめくる音と、ペン先が紙を走る音だけが、小さく響いている。
その横をマリナは足音を立てないように、そっと通り過ぎた。
書棚の列を見ながら、どうしたものかと思案に暮れる。勉強しようと思って来たのは良いが、膨大な量の本に圧倒され、何から手をつけて良いか分からなくなってしまった。
途方に暮れるマリナの耳に、聞き覚えのある声が響いた。
「あら、あなた」
書棚の奥から現れたのは、アイラだった。
「お困りのようですわね」
「え……」
「顔に書いてありますわ」
思わず顔に手を当てたマリナを見て、アイラが柔らかな笑顔を見せる。その笑顔にマリナの肩から力が抜けた。
「試験勉強をしようと思って来たのですけど、何から手をつけて良いか分からなくて」
困った顔をするマリナを見て、アイラは考えるような仕草をした。
「分からないのでしたら、苦手な科目から始めてみてはいかがですか」
「苦手科目……」
試験科目は、言語、歴史、地理、数学、理科の五科目。どの科目も得意とは言いがたい。
少し考えていたマリナは、ラウルに『歴史を勉強した方が良い』と言われていたのを、思い出した。
「歴史から勉強してみます」
「でしたら上の階ですわ。ご案内します」
アイラはマリナを連れて二階へと向かった。
奥のカウンターの左右には、二階へと続く階段がある。
右の階段を上がった先の回廊から、下の様子が見て取れた。長机が整然と並ぶ様は壮観だ。上を見れば、ガラスドームの天井から、柔らかな光が降り注いでいる。
(綺麗……)
回廊の奥に差し込む光の中で、小さな埃が舞っていた。
マリナはアイラの後ろについて、二階閲覧室に入った。古い紙の匂いがする。
天井まで届く、茶色の木製書架の間を抜け、歴史書の区画へ移動する。
「これとこれ、それから、この辺りが試験に出やすいですわ」
膨大な蔵書の中から、アイラは迷うことなく数冊を抜き出した。
「こちらへ」
窓際の机に移動する。
アイラに促され、マリナは席に着いた。
窓の外には、回廊で繋がった講義棟が並んでいる。下校する生徒たちの姿が小さく見えた。




