放課後 〜帰るぞ〜
「え、もうそんな時間」
店員に閉店を告げられ、ケイトが驚いた声をあげた。
窓の外を見ると、すでに陽は落ち、通りのガス灯には火が灯っている。
マリナたちは慌てて店を出て、人影の減った街路を、足早に進んだ。
「ごめんね。本当は送っていきたいけど、門限があるから、戻らないといけないの」
ナタリーが申し訳なさそうにマリナを見た。
「ううん、大丈夫」
マリナが笑顔を見せる。
アリスが時計塔を指さす。
「広場まで行けば、中央エントランス行きの馬車が出ているから。急げば間に合うはず」
「え、汽車は?」
「もう走ってない」
聞けば、実験段階の学内鉄道は本数が少なく、来る時に乗ったのが最後なのだとか。
しばらく進んだところで、三人が十字路で足を止めた。
「わたしたち、こっちだから。気をつけてね」
「今日は楽しかったよ。またお茶しましょ」
右の曲がり角でアリスとケイトが手を振る。
「また明日、教室で」
ナタリーも二人と一緒に手を振っていた。
三人と別れ、時計塔を頼りに広場を目指す。
マリナが着いた時、馬車は広場を出ようとしていた。
「待って、乗ります!」
マリナが声を張り上げると、御者が振り返り、馬車を止めてくれた。
急いで駆け寄る。
「困りますよ、お嬢さん。時間は守ってくれませんと」
「ごめんなさい」
馬車に乗り込むと、マリナはホッと一息ついた。
ふと、アレクセイの顔が浮かんだ。
(お兄ちゃん、まだ待ってるかな……)
馬車が走り出す。
広場では腕章を付けた二人組が、その様子を見守っていた。
「遅い」
中央エントランスに戻ってきたマリナを、アレクセイが迎えた。
「ごめんなさい」
そうっと上目遣いでアレクセイの顔を見上げると、ムスッとした表情をしている。
(……怒ってる……当たり前だよね)
女子同士のおしゃべりが楽しくて、時間を忘れて話し込んでしまった。ずっと待っていてくれたアレクセイに対し、申し訳ない思いでいっぱいになる。
マリナの横では、アレクセイが御者に声をかけていた。
「妹がお世話になったようで、感謝します」
「お気になさらず。これが仕事ですから」
笑顔で答えると、御者は馬車を走らせ、その場を去って行った。
走り去る馬車を見送ったアレクセイが、マリナに向き直る。
「帰るぞ、マリナ」
(ん、怒ってない?)
アレクセイはゆっくりとマリナを見下ろした。その顔は笑っているのに目が笑っていない。
「後でじっくり、話を聞かせてもらうからな」
(ひっ)
アレクセイの、貼り付けたような笑顔が怖かった。
お読みくださり、ありがとうございます。
次回は月曜日7時の投稿を予定しています。
番外編と短い本編の2本になります。
引き続きよろしくお願いします。




