放課後 〜カフェの女子会〜
放課後の学生街は賑やかだ。寄り道をする生徒や、一度寮に戻ってから出てくる生徒たちが行き交う。
三、四人で談笑しながら歩く男子たち。恋人同士らしい男女。ショーウィンドウを覗き込む女子のグループ。みな、楽しそうだ。
通りの端では、腕章をつけた職員らしき男が、生徒たちの様子を見回っていた。よく見れば、屋台の店主も雑貨屋の店員も、学院の校章が入った身分証を首から下げている。
学生街の運営は、生徒たちも関わっているそうだが、完全に生徒任せというわけでは、ないらしい。
まだ明るさの残る夕暮れどき、マリナは同級生三人と連れ立って歩いていた。白い石畳の街路の両側には、ガス灯が並んでいる。
ここは学生街の商業区。文具店、古書店、雑貨屋、仕立て屋などが軒を連ねる。見ているだけで楽しい。
手には広場の屋台で買った、チュロスを持っている。
(買い食いなんて久しぶり)
前世でも、大学の帰りにこんな風に歩いたことがあった。
………………て……
かすかな声が聞こえた気がして、マリナは足を止めた。
辺りを見回すが、それらしい人物は見当たらない。
「どしたの?」
アリスが声をかけてくる。
「なんか、声が聞こえたような気がして」
「そりゃ、これだけ人がいればね」
「声ぐらい聞こえるでしょ、気にしない」
ケイトとナタリーも言う。
「行こ、こっちよ」
「……うん」
マリナは三人の後を追った。
着いたところは、小洒落た感じのカフェだった。
(なんか、ニューヨークの街角にありそうなお店……)
ブルーグレーの外観で、街路に面して窓が並ぶ。
「ここのミルクティー、美味しいって評判なのよ」
ナタリーが、得意そうに言う。
「行きましょ」
入り口ドアは上半分が窓になっている。真鍮のノブを回して開けると、ドアベルがカランという音をたてた。
マリナたちは、窓際の席に座ると、ミルクティーを四つ注文した。
店内には、紅茶の良い香りが漂う。
テーブルには、白とパステルグリーンのテーブルクロスが掛けられている。中央にはレースのドイリー、その上には、花を生けたガラスの花瓶が置かれていた。
洗練された店内は居心地が良い。
「ここ、よく来るの?」
マリナが聞くと、
「実は初めて。前から来たいと思ってたの」
ナタリーが少しバツの悪そうな顔をした。
「わたしたち、寮に入ってから一ヶ月経つけど、最近まで外に出られなくてね」
「なんで?」
マリナが首を傾げる。外出を制限するなんて、ここの寮はそんなに厳しいのだろうか。
「よく分かんない。でも、なんかバタバタしてたな。まぁ、引っ越しも多かったし、そのせいかも」
アリスが肩をすくめた。本当に理由は分からないらしい。
「だから今、いろいろ探検中」
ナタリーが、いたずらっぽく笑う。
「ここって広いから、探検し甲斐があるよ」
「へぇ」
「ついでに言うと、ここの寮も広すぎて、よく迷うのよね」
「分かる。この学院、とにかく全部が広いんだよ」
ケイトが同意した。これにはマリナも同感だった。
店員がミルクティーを運んでくる。
「それで」
ケイトが目を輝かせた。
「先輩、いつも家で何してるの?」
三人揃ってマリナのほうへ、身を乗り出してきた。
「家で?」
マリナは思わず聞き返した。
家での兄。
そう言われて、真っ先に思い浮かんだのは、昼休みに肉料理を追加された時の顔だった。
「……勉強して、ご飯食べて、お風呂入って……特に変わったことはしてないかな。あと、わたしにちゃんと食べなさいって言ってる」
それを聞いて三人が、一斉に瞬きをした。
「ちゃんと食べなさい?」
「マールデル先輩が?」
「……想像できない」
アリスが信じられないという顔をしている。
「だって、入学式の時すごく落ち着いてたじゃない」
「司会進行、完璧だったものね」
ナタリーも頷く。
「それに食堂でも、王子様たちの隣に立っていても見劣りしないの……なんていうか、別世界の人みたいだったわ」
「なのに、妹にはご飯の心配するんだ」
ケイトが少し不思議そうにマリナを見る。
「それ、ちょっと意外」
「ちょっと、過保護なところがあって……」
マリナは苦笑した。
こうして友だちとおしゃべりしていると、前世で学校帰りに寄り道をした時のことを思い出す。
(誰かとこうして話すの久しぶり……やっぱり楽しい)
広場では、時計塔の針が静かに時を刻んでいた。
窓の外の夕暮れは、少しずつ色を濃くしている。




