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フィーバー☆平安物語  作者: ふるみ あまた


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第七首 ゆめうらに 心を騒ぐ 夜なれども 逢ひ見るなかの 睦ましきかな

 

 惜し、惜し、と鳴く蝉の声。


 縁側の日陰に置いた竹籠では、オオクワガタがしんと眠りこける。


 そんな朝、かぐやは蛇が太陽を飲み込む夢を見て寝覚めた。


 ――気色悪し。


 夢の内容を忘れる前に、彼女は急いで、部屋の隅に築かれた草紙の山へと手を突っ込む。


「あった!」


 見つけ出したのは夢解きの草紙。


 巷では有名な陰陽師が綴った一冊をめくって、その内容を確認する。


『蛇(くちなわ)を見る夢は、宝増さるべき兆(しるし)なり』


 ――ええ夢やん。それなら、太陽を飲み込む夢は?


『日月(ひつき)を呑む夢は、いみじき吉夢なり。高き人生まれ出づべき、あるいは世に立ち出づべき瑞相(ずいそう)なり』


 ――ええ夢やん。ゲンちゃんとの子どもができるってこと? でも、蛇が飲み込んでいたから、吉を授かるのは蛇側ってこと? どういうこと?


 平安の世は、空前の占いブーム。


 御多分に漏れず、彼女も占いが大好き。


 お抱えの陰陽師でも呼んで、解読してもらおうか。


 でも、もし奴らに確定されたものが、凶夢だったとしたら。


 それは絶対に嫌。


 なれば、自らの力でいい感じに解き明かそう。


 夜に彼が到着するまで、かぐやは夢占いの解読に情熱をかけることにした。




 ◇ ◇ ◇


 机に向かうかぐやは、さらり、さらりと考えをまとめる。


 蛇は財産。日月は高貴な子どもや出世。


 これらを掛け合わせて、見た夢の結果は――。



『財産が出世する。または、財産が高貴な子どもを作る』



 ――よし。


 すごく意味がわからない。


 次はもう少し、細かく解釈してみよう。


 まずは財産について。


 この屋敷にしても、働く女房達にしても、財産は相続したのが主なもの。


 こう考えると、私っていうのは――。



『無能貴族』



 ――うん。


 知ってる。


 宮中にいたとき、いっぱい言われたから。


 めっちゃ傷ついた。


 でも、私には歌があるから。


 ゲンちゃんも「そんだけありゃ、十分だろ」って言ってくれたし。


 はぁ……早く来ないかなぁ……。



 ――世をいとひ 御簾(みす)のうしろに 籠もる身の 朝の夢路に 日を暮らしつる。



 パッシャアァァン!!


「ふぅ……あっちぃなぁ!! 今日もぉ!! 来たぞ、オラァ!!」


 唐紙を破って、今宵も登場。


 動きやすさを重視した無造作に結われた髪に、白檀の匂いを漂わせる破壊武者。


 この世で一番熱い男、弦一郎のご帰還である。


「おかえり、ゲンちゃん」

「おお。わかってきたな、お前も。それでいいんだよ……ところで、何やってんだ?」

「あっ、これは……」


 ――怒られる。


 かぐやはとっさに、机に広げていた夢研究を覆い隠す。


 が、実戦で鍛え上げられた荒武者の筋肉の前ではすべてが無駄に終わる。


 後ろからかぐやに抱きついた弦一郎は、彼女のか細い腕を掴んで簡単に開かせた。


 そのまま大股を広げてしゃがんだ彼は、彼女の肩越しに研究結果を覗き込んだ。


「……占いかぁ。自分でやってるのか? すげぇじゃん」


 ――褒められた。いい匂いがする。体が熱い。ゲンちゃん、疲れてるのかな。


「わはははは!! 『無能貴族』!?」


 ――ああ、恥ずかしい。やめて。見ないで。


「貴族で有能なやつなんか、見たことねぇぞ!?」


 ――え? ……そう、なの? でも、ゲンちゃんが言ってるのなら、本当のことかもしれない。


「なになに? 『財産が出世する。または、財産が高貴な子どもを作る』? いったい、どんな夢見たんだ、お前は」

「それは……」

「ああ、言わんでいい。どうせ、結果を気にしてるんだろ?」

「うん……」


 ゴトリと音を立てて、弦一郎は本格的に床に座り込んだ。


 かぐやを抱きしめる力が、一段と強くなる。


 痛いような気持ちいいような。


 彼女は静かに、弦一郎の両腕でしか味わえない心地よさを堪能した。


 やがて大きく息をついた彼は、ペシッ、と短くかぐやの膝を叩いた。


「ちょっと寝るから、膝を貸せ」と言っている。


 周囲には誰にもいないのに、忍ぶように笑ったかぐやは、弦一郎の頭を膝の上に預かった。


 夏の日差しよりも熱くなった彼の頭をフーと吐息で冷やし、首筋に当てた手はゆっくりと時間をかけて、はだけた胸元までを確かめるように撫でる。


 また戦に明け暮れてきたのだろう。


 今回は目立った傷跡はないが、どこもかしこも熱を持っている。


 お疲れさまでした、『討魔太夫』殿。


 かぐやが祈りをささげると、ほどなくして彼はスースーと寝息を立て始めた。



 ――わが世をば なにか嘆かむ 日のひかり 宿せる月と なれる今宵は。





 ◇ ◇ ◇


 数刻もしないうちに、弦一郎は目を覚ました。


 体の熱はすっかり取れて、夜だというのに目つきはぎらぎらと輝いている。


 素早く身を起こした彼は立ち上がるや、自らが引き千切った唐紙の木屑を踏みしめて、縁側へと進み出た。


 首や肩を回したり、全身を捻ったりと、せわしなく動いたついでに竹籠の中を覗き込み、オオクワガタの生存を確認。


「ふあぁぁぁ……」


 最後に大あくびを見せた彼は、猛き獣のように月を見上げて呟いた。


「……今日は、占い街にでも行くかぁ」


 今宵のデートはそこに決まった。


 胸を高鳴らせたかぐやは、弦一郎に問いかける。


「ゲンちゃんは、どんな夢を見るの?」

「忘れた!」

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