第13話 教会
雷鳴が轟いた。
「へぇー、守って上げるんだ」
神崎 さやかは、二度言う。
雷光に照らされた鋭い表情。
雷鳴に後押しされた嫌味な言葉。
まるで、ホラーだ。
渉の気がゆるむ。
言葉が出ない。
そして、なぜか、さやかから目をそらした。
「ほら、意気地なし……、やっぱり、ウソつきね」
中学校の三階、一つの教室の壁が大破している。
宙に残骸の塵が混じって浮かぶ。
空気は、まだ少しにごっていた。
雫は、自然体で立っている。
脱力とは違う自然大だ。
静かさの中に、強い意志を感じさせる。
「ウソは、ついてないと思うわよ」
「へぇー、いとこ同士で抱き合うなんて不純だわ」
「そっち」
と言った後、雫は大笑い。
彼女は涙を拭きながら、
「血縁がダメなら、誰でもダメなんじゃない? それとも、あなたなら、よいの?」
とまた、お腹を抱え、笑いをこらえるのが苦しそうだ。
「な、なに、勘違いしてるのよ」
さやかは、虚勢を張りつつも、耳を赤くしながら、雫から目をそらす。
そして、不意に渉とも目があってしまい……
キッと、なぜか彼をにらみ、視線を別の方へ移す。
すると、渉の背後「倒れている人影と、それに寄り添う小さな影に気がついた。
龍蔵寺 猛と小葉の二人。
二人の容姿は、さやかの知るものと違う。
小葉の方は、背格好は同じなので、
「小葉ちゃん?」
と首をかしげ、倒れている猛は、大人の背格好と容姿に、服装もタキシードに変わっているので
「誰??」
となった。
職員室では、鴉神父と姫川先生の険悪なムードが続いている。
渉とさやかの担任でもある姫川先生は、机の上に散らかった資料を、整理していた。
鴉神父の嫌味のような追求は、その間ずっと、続いている。
彼女は無言で、それをかわす。
彼の嫌味は、暗に姫川先生が元凶なのでは? と言っている。
それに、真面目に応じる気は、彼女には無かった。
姫川先生は、最後の資料を積み終わる。
手持ち無沙汰になってしまう。
そこに、鴉神父は、しつこい。
「懺悔するなら、早い方が良いですよ」
「随分と意地悪なんですね。そっち本性なのかしら? 女の子に嫌われちゃいますよ」
「人間の女性には、嫌われたくないですね」
「それじゃ、わたしは」
と姫川先生は、言いかけるが、言葉にはしない。
きっと、それが彼の思う壺だと、彼女は思う。
「三階が心配じゃないんですか?」
「ああ、さっきの爆発音、三階なんですか? 音だけなのに、よくご存知で」
姫川先生の顔がこわばる。
「それは……」
声も震えていた。
「ここに施した結界は、教会を模したものです」
鴉神父の話を、彼女は、黙って聞くしかなかった。
「なんのために?」
彼の突然の質問。
「安全のため……」
姫川先生の言葉に力がない。
鴉神父とさやかが、祈りを捧げ、結界を完成してから、いろいろと起きている。
「教会は、信者が集う場所です。あるのは、おごそかでつつしみ深い厳粛な空気。それは、神聖と言いかえても良いかもしれないけど、邪悪を退けるとは違う」
紳士的な悪魔。
まさに、鴉神父を一言で、言い表わすなら、この言葉。
それが、姫川先生の脳裏にも浮かぶ。
「要する、教会は信者が集う場所で、それ以外には、居心地が悪い所なんです。有象無象をあぶり出すには、丁度良いとは思いませんか?」
「そんな、じゃあ、わたしたちは? 神崎さんも、それを知っていたの?」
「彼女は善意だよ。教会を模しているから、僕らに加護もあるからね。あと、僕は、聖職者だから、人は救う。それ以外は、善悪、問わずに滅するだけさ」
「善悪問わずって……それが、神さまでも?」
「そうです。神さまは顕現しないし、人の言葉は語らない」
「わたしたちは、三日もここに閉じ込められているのよ」
姫川先生は、興奮して立ち上がった。
「三日? 今は、午前1時。5、6時間程度ですよ」
「それは、外と内では」
「時間の流れが違う? ありえません。それは、理に反してます」
「そんな、ウラシマ効果をご存知ないんですか!」
「僕たちは、歩いて校内に入りましたが? 時空間では、速度以外、重力も時間に影響を与えますが……時空を歪める程の重力? 無理でしょ?」
「お詳しいですね」
「学問は、神の探究ですから、聖職者なら常識……いや、退魔士なら常識の範疇ですよ。もし、時間をどうこうする化け物なら」
鴉神父は、両手を端に向け、お手上げのポーズをしてみせた。
「姫川先生、でも違うでしょ?」
「そんな、あなたは、二人も犠牲者が出てるのに、平気なんですか?」
「ああ、四階の理科準備室の死体ですか!」
鴉神父は、大げさに声をだした。
姫川先生は、シッというジェスチャー。
職員室にいる生徒には、死者が出たことを秘密したいらしい。
「健気ですね」
鴉神父は、そんな彼女に憐れみを覚えたようだ。
「時間がズレてる。このシチュエーション自体が疑わしいのに、そこに死体? 僕らは、最初から、すべてを疑っている」
「そんな、ちゃんと人間だって」
「そうですね。だから、早く懺悔をして下さい。ここは、今、霊的には教会です。きっと神さまは、許して下さいます」
「でも、あなたに容姿する気はない」
姫川先生は、その言葉を胸にしまった。
四階の理科準備室。
校長と学年主任の死体は消えていた。




