06. 幸せなだけの日々の終わり
アルフにとっては充実した幸せな日々だったが、両親にはそれは不満だったようで、書斎で本に没頭していて、ふと気がつくと父が書類を持ち込んで隣で仕事をしていたり、針と糸を持ち込んだ母が刺繍をしていたりした。
「よし、アルフ。今日は父様と母様と一緒にピクニックに行くぞ!」
「お弁当は母様が作ったのよ」
「料理長に見張られながらだがな」
「あなたったら、それは秘密だって言ったのに!」
「ははっすまんすまん」
拗ねてみせる母、マーリアに、エトランドが笑いその肩を抱く。
アルフが本を読んでいた書斎の扉を開け放つなり始まった、その夫婦漫才ともとれるやり取りに本を持ったまま目をパチクリさせていたアルフは、ピクニック、と繰り返してハッとした。
「ピクニック!じゃあ父上、アネモイに乗っていい?」
「そうだなぁ。アルフも最近は随分上達したってディモンドが言ってたから、早足程度ならいいだろう」
「本当?ありがとう父上!」
ディモンドは厩舎の責任者で、アルフの馬術の教師もしている。
まだ四歳のアルフに、背の低い子馬を宛がうか、それとも調教がしっかりすんでいる老馬にするか、迷った結果、アルフには生後半年の子馬が与えられた。
アルフは子馬に、アネモイと名付けた。
馬といえば速い。風。風の神。ということで。
アルフはアネモイに乗り、ピクニックバスケットを抱えたマーリアと同乗したエトランドと、丘へ向かっていた。
少し離れて護衛の騎士の姿が見えるが、これは気にしない。
「アルフはもう書斎の本は大分読んでしまったんじゃないか?」
「え?あ、はい。あと棚二つ分ですかね」
「じゃあ、読んでしまったら王都の図書館に――いや、いっそ王城の図書室に連れて行こう。何なら陛下に話を通して禁書庫にも入れてもらおうかな」
「禁書庫……いいんですか?父上」
「構わん構わん。陛下はマーリアに激甘だからな。当然そのマーリアの息子であるお前にも甘い」
どうしてもダメな事ならちゃんと拒否してくるから心配するなと笑うエトランドに、アルフもじゃあ楽しみにしてますと笑った。
「も~、あなたもアルフも、そんなお話はお家で出来るでしょう?」
不満げな声をあげるマーリアに二人で笑いながら謝った。
家族仲は良好で、暮らし向きもなんの不自由もない。
こんな暮らしがずっと続けばいいと思っていた。
けれど人生はそんなものではないことを、アルフは知っていた。
例の本――魂の書、と呼んでいるが、それぞれの世界の言葉で書かれた過去の人生を、少しずつだが読み解いている。
その中で、かつての自分がどんな死を迎えたか。
それを思えば、幸せなだけの人生など、アルフには望めなかった。
幸せな日々には、いつか必ず終わりがやって来る。
そしてその日はやって来た。




