58. パートナー
「パートナーっていうのは、アルフが騎乗する飛竜のことだよ。近衛の飛竜は一対一で信頼関係を築くんだ。パートナーの決まってないフリーの飛竜とは、全然違うんだ」
首を傾げたアルフを見て、リュウイが説明をする。
(……よく考えなくても、それってかなり大変だよな。俺は、念話で会話ができるけど、他のヒトたちは飛竜がこっちの言葉を理解してくれてるだけで、一方通行だもんな)
まあ、会話ができるからって信頼関係が築けることとイコールにはならないだろうけど、と思いながら、お勧めを選んでくれるというフレデリカに顔を向ける。
フレデリカは、改めてじろじろとアルフの顔を見ながら、考え込んでいる様子だった。
[う~ん、アルフのパートナーねぇ~。誰がいいかしら]
一頻りアルフを観察して、目を閉じて首を傾げる。
そして空に向かって声をあげた。
グオオォォ……
一拍おいて、それに応えるように幾つかの声が聞こえた。
次いで、バサリ、と羽ばたく音。
フレデリカの呼びかけに応えて、四体の飛竜が飛来した。
ヒトに対して巨体なのは変わりないが、フレデリカよりも、随分小さい。
飛竜は長く生きているほど大きいらしい。
生きている間は脱皮を繰り返して大きくなり続ける蛇のようだ、とアルフは思ったが、当然フレデリカには内緒だ。
グルルル、グオオ、となにやら言葉を交わした様子で、話がついたのか四体とフレデリカがぐりんと一斉にアルフを見た。
唐突な動きに驚いているアルフをよそに、フレデリカは飛竜の一体一体とアルフを入念に観察する。
その間も四体の視線はアルフに注がれ続け、計五体の視線に流石のアルフも居心地の悪さを感じ始めた頃、フレデリカがふうと息をついた。
グウゥ、と喉を鳴らしながら、首を横に振る。
(……ん?横?この四体じゃダメってこと?)
首を横に振るフレデリカに、三体は素直に頷いてさっさと飛び去って行った。
四体の中で一番小さかった飛竜が、チラチラとアルフを見ながらギャアギャア鳴いたが、フレデリカが一声鳴くと、諦めた様に項垂れ、もう一度アルフを見てから、渋々といった様子で飛び立った。
[ごめんなさいね、アルフ。あなたなら大抵の子と仲良くなれるでしょうけど、パートナーとお友達は違うのよ]
[パートナーと、友達?]
[ええ。本来のパートナーは、言葉がなくとも気持ちが通じ合う存在。あなたはなまじ言葉が通じるばかりに、その辺り苦労するかもしれないわ]
[確かに、そうだよね]
おや、これは以外に難しい問題なもかもしれないぞ、とアルフは顎に手を当てる。
[それでね、あなたにはこの子を預けることにするわ]
この子、と言いながら、フレデリカはのそりと立ち上がった。
ゆっくりと移動すると、そこにはアルフが両手に抱えられる程の大きさの卵がひとつ。
[たまにいるのよね、相性のいい飛竜が見つからないヒト。そういうヒトには卵を渡すことにしてるの。まあ、あなたには相性のいい飛竜がいるんだけど――さっき呼んだ四体なんかは、特に相性がいいわ。でも、あなたのパートナーになるには何かが足りなかった]
フレデリカは前脚で、潰さないように慎重に卵をアルフのほうへ転がす。
[この子は、私の子よ。まだ卵のくせに、さっきから何だか落ち着かないのよ。きっとこの子ならあなたのパートナーになれるわ。だから、この子をあなたに預ける。孵化するまで、あと二月くらいかしらね。その間、この子とずっと一緒にいてあげてね]
[ずっと?]
[ええ、ずっと。まあ、お手洗いのときはいいわ。でも、お風呂や寝るときは、一緒ね]
足元まで転がってきた卵を、アルフは両手で抱えあげた。
見た目よりもずっしりと重い。
[大丈夫よ。飛竜の卵は頑丈だから。どんなに寝相が悪くたって、ヒトと一緒に寝たぐらいじゃ割れないわ。それに、ちょっとぐらい落としちゃっても平気。――まあ、孵化してから文句を言ってくるかもしれないけどね]
寝るときも一緒、と言われて不安そうな顔をしたアルフに、フレデリカは笑う。
[その子の名前、考えておいてね]
じゃあねと、話は終わったとばかりに尻尾を持ち上げてゆらゆらと振るフレデリカに、アルフは頷いて返して踵を返した。
卵を抱えているために手を振り返せないのだ。
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[お待たせしました]
ずっと後ろで待っていたリュウイとライに、アルフはぺこりと頭を下げた。
随分と長く時間をとらせてしまったとアルフは謝ったが、二人は気にするなと笑う。
「パートナー選びは大事なことだから。何日もかけて決めるヒトもいるし」
「しかし、俺たちのときとは違ったな。俺たちのときは、飛竜を呼ぶんじゃなくて俺たちのほうから飛竜の中に入って、一体ずつ相性を見ていったからな」
「その上決まったのは卵だしな」
二人は興味深げにアルフに抱えられた卵を覗きこむ。
「卵からって、聞いたことはあったけど」
「まさかフレデリカの子とはねー」
よりによって、と笑う二人に、アルフは首を傾げる。
「あのフレデリカの子だからね。どんな子が生まれるのか、楽しみだな」
笑いながらのその言葉を聞いて、アルフは卵に視線を落とす。
「…………」
含みのある言葉に、何となく、アルフは不安を覚えた。




