56. 入団しました
フシューー ――と、生暖かい鼻息がアルフの髪を揺らす。
正面から受けて、とっさに閉じた目をそろそろと開く。
じっと見つめてくる真っ黒な瞳を、アルフもじっと見返した。
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「今日から近衛に入団する、アルフレッド・アートライド君です。皆さんよろしくしてくださいね」
朝のミーティングのために集まった近衛騎士の面々の前で、ヴィレクはアルフの紹介をした。
ヴィレクの言葉を聞いて、ざわり、と騎士たちがざわめく。
―― アートライド?
―― って、公爵家の?
―― 王妹の子だろう?
―― じゃあ、警護対象じゃないのか?
―― いいのか?
アートライド家に分家はない。
アルフの祖父リオンは次男だが、兄を亡くし家督を継ぎ、二人兄弟だった。
エトランドも一人息子で、アートライドといえばアルフの家族たちしかいない。
親戚といえば母方の王族しかいないのだ。
故に、アルフの血筋はすぐに知れる。
王族を護るためにある近衛騎士にとって、王の甥は十分に警護対象に入れられる。
そんなアルフが入団すると言われ、騎士たちは戸惑いを隠せない。
ヴィレクは特になにも言わず、騎士たちが静まるのをただ待った。
やがてポツポツとヴィレクが待っているのに気付き、口を噤む。
「皆さん色々と気になるでしょうが、彼は今日から近衛騎士団の仲間です。それが全てです」
静かな声だが、騎士たちにその言葉は浸透した。
アルフは仲間。そう認識された。
「ああ、そうだ。彼は声がでないから、普通の新入りとは扱いが違うこともあるけど、別に贔屓とかじゃありません。それと、念話の術の常時使用が許可されているから特に不自由もありません」
そこで、騎士の中から手が上がる。
発言を許可されて、その騎士が口を開いた。
「念話の術とは何でしょうか。聞いたことがありませんが」
「彼が学院の図書館で発見した術です。名前の通り、声を使わず念じることで話ができる術です」
説明を受けてその騎士は下がった。
(ふぅん、やっぱり念話って全然知られてないんだ。まあ、皆必要ないしな。距離も普通に声が届くくらいしかいかないし。内緒話くらいにしか使えないけど、術使ったら魔力感知されるしな)
「さて、新入りの紹介はとりあえずこれでいいな。次は俺たちだな」
前に立たされていたアルフの右手側から、一歩踏み出した男が言った。
「俺はクレイグ・モートン。近衛騎士団の団長をしている。で、お前の横にいるそいつが、副団長のヴィレク。こいつのことは知ってるよな」
[はい。よろしくお願いします]
アルフはクレイグ個人ではなく、この部屋全体を対象として念話を使った。
基本的に、ここでは範囲指定で念話を使うつもりでいる。
頭の中に直接響く声に、慣れない騎士たちは微妙な表情をしている。が、こればかりは慣れてもらうしかないとアルフは少し申し訳なく思った。
クレイグの背は高い。
今までアルフが知っている中で最も背が高かったのは、ガードの護衛をしているアイオーン・クエンティだった。しかしクレイグは、彼よりもさらに頭半分ほど大きかった。
その長身に対して、クレイグの身体は明らかに厚みが足りない。
ひょろりと頼りないというわけでは決してない。無駄のない動きや、その圧倒的な存在感に、騎士服の下には鍛え抜かれた肉体があるのは想像に難くない。
「おお、これが念話か。――で、そっちから順番に――」
クレイグは少し驚いた顔を――いや、楽しそうな顔をしたが、ヴィレクに視線を投げかけられて各部隊長を紹介する。
近衛騎士団はあまり人数がおらず、紹介されたのは第一、第二、第三部隊長、医療部隊長、補給部隊長、騎獣部隊長の六人だった。
それぞれその名の通りだが、注釈を入れるなら、騎獣部隊と言うが、実際に近衛騎士団にいるのは飛竜ばかりということだろう。
むしろ、近衛騎士団といえば飛竜と言うぐらいだ。飛竜に乗って空を飛ぶ近衛騎士団は少年たちの憧れの的だが、希望者数に反して所属人員は各騎士団の中で最も少ない。
なぜかというと単純に、入団試験で落とされるからだ。
アルフの前に合格者が出たのは、確か十年ほど前だと聞いている。
「身の回りのもの――団服とか、タオルとかそういう必要なものは補給部隊に言えば用意してもらえるから。私的な物は自費な。ああ、あと食堂の料理長には自分で挨拶しておいてくれ。ほぼ一日中厨房にいるから」
仕事中に呼び出したりしたら怒られるから、とクレイグは笑う。
「それと――リュウイ、ライ」
「はい!」
「はい」
クレイグが騎士たちの方に顔を向けて名前を呼ぶと、二人が返事をした。そしてそのまま、前へ歩み出る。
「兵舎の案内はこの二人に任せる。では、解散。通常業務に戻れ!」
クレイグの言葉に一斉に敬礼をすると、アルフが驚くほどの速さと滑らかさで、騎士たちは捌けていった。
「えっと――アルフ、って呼んでいい?俺はリュウイ・アルター。リュウイでいいよ」
「ライ・アルター。よろしく」
クレイグに指名されて残っていた二人が、アルフに声をかけてきた。
それに返事をしながら、同じ名字だなとアルフは考える。
それが顔に出ていたのかそれとも慣れた反応なのか、リュウイとライは苦笑する。
「俺たちは別に兄弟とかじゃないよ。俺たちが生まれた村がアルターって名前だから」
「田舎の方はまだ家名とか無いからね。都会に出てくると、村の名前を使うのが普通なんだ」
そうなんだ、と頷き、案内すると促されて、アルフは二人について歩き出した。
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屋内の各所を巡り、料理長にも挨拶を済ませ、これからアルフが暮らす部屋の確認もしたあと、一行は竜舎に向かった。
まずはこっち、と連れて行かれた先で、アルフは一際大きな飛竜と対面した。




