52. 校外実習 ~ 最終目 ~
「あーあ、全部集まんなかったかー」
蜘蛛の巣を捜している間に新たに獲った兎を火で炙りながら、ティルがこぼす。
軽く振りかけた塩・胡椒と、はじける脂の匂いが食欲をそそる。
「けど、十分じゃない?」
「十分だとは思うけどー。ここまできたら、やっぱり全部集めたいって思うじゃん?」
「……同感」
視線を肉に固定したまま、ノールが頷く。
「集まらなかったものは仕方がない。そもそも、集めさせない為に課題が変更されたのだろう」
あの教師が個人的に興味を持って欲しがった、というのもあるだろうがと、ガードは不満顔。
それだとて、もう少し時間があれば間に合ったのだが。
「トチの実だったら、多分集まってたよねぇ」
量は多かったが、頑張ればきっと集められたはず、とマリウス。
糸にするために極度の集中を強いられたアルフは、冷やしたタオルを目の上に乗せ、テントの中で横になっている。
アルフ自身は平気だと訴えたのだが、念のためだと押し切られて大人しく横になった。
まあ実際、魔力の消費は大したことはないが、酷使した目のせいで、目の奥に軽い違和感を感じてはいた。
頭痛になる一歩手前、といった感じだ。
それも、気を廻らせることで簡単に回復するのだが。
「アルフー、肉焼けたぞー」
外から呼ぶティルの声に、アルフは起き上がった。
肉、という言葉を耳にしたとたん、くぅ、と腹が小さな音をあげた。
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「さて、今日は最終日だけど」
朝食を終え、片付けをしながらティルが言う。
「今日はもう帰るんだから、大した課題は出ないよな?」
「どうかなぁ?今までの傾向からすると、課題をクリア出来るかじゃなくて、課題に対する俺たちの反応とかどう対処するかを見てる感じだから」
朝から少し疲れた様子を見せるティルに、マリウスが昨日までのことを思い出しながら首をかしげる。
マリウスはまだまだ元気そう。
この中で一番疲弊しているのはティルだろう。
アルフとマリウス、ガードは騎士課程で普段から鍛えている。ノールは魔術師課程だが、基礎体力の講義は全課程に共通してある講義で、それを受講しているのでそれなりに鍛えてある。
一方でティルは、座学に重きをおきあまり運動はしていない。
「帰りの時間を考えると、あまり課題にはあてられんだろう」
ガードがそう言ったところで、教師が生徒たちの注意を集めた。
「はい、皆注目!今日でこの校外実習も終わりです。テントを畳んでこちらに返却してください。その際、荷物をまとめて所持した上で、班員全員で来るように!」
「……不審」
「ああ、まあな」
「ノール、殿下も。そうはっきり……」
マリウスがたしなめるが、その言葉は弱い。
荷物をまとめて全員で来いなど、何かあると言っているようなものだ。
「ま、ここでアレコレ言ってても仕方がないし、テントを片付けるか」
「あー、お前らの班かー。お前らはなー、うーん……」
列にならんで順番がきて、ティルがテントを返却すると、受け取った教師は何やら困った顔をする。
そうしている間にも、他の列の生徒たちはテントの返却後、どこかへ誘導されていく。
「仕方ないな、お前らは取りあえず見学だ。時間が余ったら参加ってことで」
あっちで待ってろ、と示されたのは、他の生徒たちとは違う場所。教師たちが集まっている場所だ。
先ほどからそちらの方からは、武器をぶつけ合うような音がしていた。
教師たちが壁になっていて見えなかったが、そこでは生徒たちと冒険者たちが戦いを繰り広げられていた。
――いや、生徒たちが冒険者たちに、一方的に玩ばれていた。
一見いい勝負をしているように見えるが、実際は冒険者たちには余裕がたっぷりあるが、生徒たちはいっぱいいっぱいだ。
次々と叩きのめされる生徒たちを観察しながら、教師たちは手帳に何かを書き込んでいる。
「……容赦なしか……」
戦いの様子を見て、ティルが口元をひきつらせる。
あまりの有り様に、時間が余らなければいい、と心の中で考える。
なんせティルは戦闘タイプではないのだ。
戦う薬師なんて目指していない。
その後も生徒たちがどんどん入れ替わり、時間が余りませんようにとティルは祈り続け――。
最後の班が倒されたあと、教師が馬車に乗るよう言ったのを聞いて、ティルは思わず拳を握って喜んだ。
叩きのめされて重い足取りで馬車に戻る生徒たちとは対照的に、ティルの足取りは軽い。
ティルは戦わずにすんで喜んでいるが、アルフを始め残りのメンバーは、戦ってみたかったなと残念に思っていた。
「けど、何で俺たちは時間が余ったらだったのかな?」
『森で狩りをしてるとき、見られてた』
「あー、それで、他の生徒たちが優先されたのか」
「しかし、俺はやってみたかったのだがな」
「俺もです。どこまで通用するのか試してみたかったですね」
「……俺も」
さっさと馬車に乗り込むティルのあとをのんびり追いかけながら、マリウスたちの言葉に自分も同意だとアルフは頷く。
帰りの馬車の中、疲労で静かな生徒たちの中、ティル一人だけが機嫌がよかった。




