04. 魔力操作
ページを目次に戻し、一番下にアルフレッド・ウィルト・エクス・シグサイ・アートライドという項目を追加する。
今は特に記すべきこともないので、簡単に生まれを記して本を閉じた。
「――と、いうわけで、アルフレッド様には是非ともエトランド様の名に恥じぬよう、立派な人物になっていただきます」
丁度マースが現実に戻ってきたところだった。
そこは普通父個人の名ではなく家名に恥じぬようにだろう、とか、立派な人物って曖昧だな、とか、色々と思うところはあったが、ここはとりあえず大人しく頷いておく。
この男は適当に流しておいて何の問題もないというのがアルフの認識だ。
「エトランド様は二歳のお誕生日から魔術の訓練を始めました。そこで、先日二歳になられたアルフレッド様にも魔術の訓練を始めていただきたいと思います」
「……まー、じゅー、ちゅー?」
とりあえず繰り返してみるアルフだが、意識がどうあれ体は二歳児。舌が回らない。
(というか、マジで父上大好きだなこいつ。どこまで父上を踏襲する、いや、させる気だ)
恐らくアルフの容姿が大いに影響しているのだろう。
アルフの色彩はほぼ母親似で、幼い子供など、その柔らかい雰囲気から何となく母親似だと思われる。
幼子と成人男性を並べて、そっくりだ、などと誰も思わないだろう。
アルフの髪は母と同じ銀髪であるが、母が白に近い銀髪なのに対して、アルフは青みがかった銀髪である。
これは、青みがかった黒髪の父の影響だと思われる。
アルフの瞳は母と同じ碧眼であるが、宝石のように光の当たり方で色を変えるのは父と同じである。
アルフは碧から蒼に変化し、父は蒼から紫に変化する。
一見母親似だが、随所に父の色が出ている。
そして何より、父が幼い頃の肖像画があるのだが、色彩以外はアルフと瓜二つである。
だからマースも父と重ねやすいのだろう。
「まずは自分の魔力を感じることからです。手を出してください」
言われてアルフは、ん、と両手を突き出した。マースはその手に自分の掌を重ねた。
「今から私の魔力をアルフレッド様に流します。――感じますか?私の手から、何かが流れ込んでくるでしょう?これが魔力です」
「――ぅ……」
ぐらり、と、脳みそを直接揺さぶられたかのような感覚に、アルフは小さく呻く。
あまりの不快感に、アルフは無意識のうちにそれを押し返していた。
「……っ」
弾かれたようにマースが手を離す。その額には一瞬にしてびっしょりと汗をかいていた。
「……、さすがです、アルフレッド様。もう自分の魔力を操作することが出来るようですね」
何とか平静を保とうとしているようだが、アルフには無理をしていることが丸分かりだった。
どうやら押し返すときに力を込めすぎたようだ。
マースは数回深呼吸をして、額の汗を拭う。
「申し訳ありません、アルフレッド様。まことに勝手ながら、本日はこれまでにさせて頂きます。明日、また同じ時間に伺いますので、それまで魔力を体内で循環させる練習をしていてください」
マースはアルフに一礼して部屋を出ようとするが、その足元は覚束ない。
回復がまだ十分ではないようだ。
戸口で、アルフ付きのメイドに、アルフが無理をしないようしっかり見ているように言いつけ、ヨロヨロと退室していった。
アルフはその背中を申し訳ない思いで見送ったが、すぐに、魔力操作に熱中して忘れてしまった。
やりすぎたことを申し訳ないと思う気持ちは本当にあるのだが、目の前のことに夢中になって他を忘れるのは子供の性である。
アルフ……ほとんど喋ってない……!!




