45. 校外実習 ~ 狩りの時間 ~
ビン、と弓に張った弦を弾いて、強度を確認する。
矢をつがえずに弓を構え、弦を引き絞る。
弓のしなり具合に、アルフは満足げな笑みを浮かべた。
その傍らでは、マリウスとガードが、アルフが採集した木材から削り出した木剣を振って具合を確かめている。
その様子を横目で窺いながら、アルフは次に矢を手に取る。
拾った小枝の中から真っ直ぐなものを選び、さらに削って太さを整え、先端に形を整え強化した小石を、蔓でくくりつけたものだ。
二十本作った矢を、一本ずつ手に取り指先でくるくる回してバランスを見る。問題ないことを確認し、小枝と草を編んで作った矢筒に入れ、腰の後ろにつけた。
各々準備を終えたのを確認して、ガードがよし、と口を開いた。
「では、そろそろ狩りに出るとしよう」
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ヒュンッと風を切って、アルフの放った矢が飛んでいく。
その矢は、真っ直ぐに熊の右目へと突き刺さった。
眼球を狙ったから刺さったが、それ以外の場所だと毛皮に弾かれていただろう。
悲鳴をあげて、立ち上がる熊。がら空きになった胴に、左右から飛び出してきたガードとマリウスが剣を突き立てる。
木剣では斬ることは出来ないが、勢いと角度に気を付ければ刺すことは出来る。
分厚い毛皮を突き破って心臓まで達する。引き抜くのと同時に、大量の出血。
「風刃」
二人が離れたのを見計らって、ノールが風の刃を放つ。
一撃で首を落とすことは出来なかったが、同じ場所を狙ったそれは、四発目で熊の首を切り落とした。
風刃は初級の術で、ノールは無詠唱で発動可能だ。しかし今回はパーティーを組んでの狩りで、タイミングをはかるためにノールは術名を口にしたのだ。
「よし、肉はもうこれでいいか?」
「そうですね」
「というか、獲りすぎなような……」
倒れた熊を見下ろして言うガードに、マリウスが同意する。
そしてティルは、獲った獲物を思い浮かべてう~んとうなる。
今狩った熊のほかに、猪が一頭、鹿が一頭、兎が三羽、蛇が二匹、魚が十匹、木の実にきのこに野草。すべてアルフの亜空間倉庫に収納されている。
収納されているものが高性能すぎて、使用すると他のチームとの差がつきすぎるために使用禁止とされたが、それはあくまで収納されたものの事。
亜空間倉庫自体は他にも使用する生徒がいるため、収納に使うのは何の問題もない。
「これは……余るな」
「余りますね……」
「目に付いた獲物を片っ端から狩っていくから……」
アルフが他者にも見えるように可視化したリストを見せると、いつの間にこんなに狩っただろうかとガードが首を傾げる。
『ティルも、嬉々として採取してた』
「うっ」
文句らしきことを言うティルに、アルフが自身の行いを思い出させる。
自分は関係ありませんとばかりだったティルが、言葉に詰まる。
確かに、狩りに関してはティルは関係ない。せいぜい周囲の警戒くらいしかしていない。
しかし、木の実きのこ野草、これらはティルが採取したものだ。
亜空間倉庫から出せば、それぞれ小山になるくらい集まっている。
ちなみに、ティルはこっそりと(バレバレだが)自分用に薬草も摘んでいた。それらはティルの腰の物入れに入っている。
アルフとしては、明日以降の課題に薬草採取が入ってくるような気がしているが。
「……ティルも、採りすぎ」
「……はい」
ノールにまで突っ込まれて、ティルはがっくりと肩を落とした。
何はともあれ、自然豊かな場所でこの面々が飢えることはないだろう。
「肉の処理はどうする」
「魚を獲った川に戻りますか?」
「いや、広場に水場があったから、あそこでいいんじゃない?」
「……目立たない?」
狩りはこれで切り上げることは決定だが、獲りすぎた肉の処理をどこでやるか三人で話していると、ポツリとノールが言った。
静かな、短い一言だったが、三人ともが口をつぐんだ。
「…………」
「それは……」
「……確かに」
言われて初めて思い至った。
しかしすぐに、ガードが気を取り直して言う。
「……いや、今さらだろう。もともと俺とアルフレッドがいるだけで目立っているチームだ。教師陣にも、アルフレッドの亜空間倉庫の中身のことで強い印象を与えている」
「確かに、そうですね」
「気にしたら負け、って気になってきました」
結局、目立つとか今さらだし、という結論に達し、アルフたちは森を出て、テントを張った広場に戻ることにした。
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兎を捌いていた時は、何の注目も浴びなかった。兎くらいなら、他にも捌いている生徒たちがいたからだ。
血管に刃を入れ吊るして血抜きをした後、食べる肉の部分だけを残して、内臓や皮はまとめてノールが焼いた。
この国に内臓を食べる文化はないし、素人が剥いだ皮など売り物にならないのでとっておく必要はない。
蛇も腹を開いて内臓を取り出し、ティルが摘んだ香草を内臓の代わりに腹につめて置いておく。
貴族らしき生徒が、平然とした顔で蛇を捌くガードにギョッとした顔をする。
確かに、蛇は一般的な食糧ではない。貴族の少年には縁がないだろうと、その顔を見てアルフは思った。
そして、自然とその視線はガードへ向く。
高貴な身、といえば、ガードのほうがずっと上なのに。ガードは平然と蛇を捌く。どうして平気なんだろう。謎だ。
魚は驚くようなことはない。その数には驚かれたが。
そこまで処理を済ませて、ティルを中心として調理に入る。
森の中では今さら目立つのは避けられないから仕方がない、という結論に達したが、結局、鹿と猪と熊は出す必要はないだろうと思い直したのだ。
それ以外で食糧としては十分足りるだろう。
ちなみに、捌くのは全員出来たが、料理が出来るのはティルとアルフだけだった。
もっとも、アルフには知識ばかりで経験はほとんどなかったので、ティルの主導となったのだが。




