46. 校外実習 ~ 追加食糧 ~
「……煮込むか」
最低限の下準備の終わった食材を並べて、ティルは一言、呟いた。
「とりあえず今夜は魚と、兎の肉をいくらか食べれば十分だろう。朝は残りの魚と、蛇。小腹が空いたら木の実でも齧ってればいい。で、昼と夜は兎肉ときのこと野草の煮込み。最終日の朝は――うーん、ちょっと足りないか。どうしよう」
言葉と同時に、食材を振り分けていく。
最終日だし、恐らくがっつり食べなくても大丈夫だろうが、ティル個人の習慣として、朝食を抜くことは許せない。
しかし、この割り振りだと最終日の朝食の分が足りない。
どうしたものか、と腕を組んで唸る。
「…………」
その様子を見ていたアルフは、じっと考える。
確かにまあ、足りない。
かといって、亜空間倉庫内の鹿も猪も熊も、出すと大量に余る。
つまり。
アルフは結論を出す。
(足りないなら、追加すればいいじゃないか)
一度置いた弓と矢を手に取り、マリウスの手をとって森の近くまで行く。
足元から手ごろな石を広い、それをマリウスに渡す。
首を傾げるマリウスに、森の中――木々の、葉の部分を指差す。
『思いっきり投げて』
「へ?」
[投げて]
「え、あ?ああ、うん」
突然のことに理解が追いついていないマリウスに、念話を使って促す。
もう一度、目標の場所を指差すと、戸惑いながらもマリウスは石を投げつけた。
ガサガサッと枝葉を揺らしながら飛んでいく石に、驚いて飛び立つ鳥。
アルフは素早く構えた弓に矢をつがえ、放つ。
森の中では弓はあくまでサポートで、石の鏃を付けてはいるが殺傷力は低かった。
しかし今はメイン、というか弓だけなので、鏃に魔力を纏わせて殺傷力を上げている。
アルフが放った矢は、見事鳥を射抜いた。
同時に飛び立った三羽を、二射で。
「…………」
無意識の行動で落ちた鳥を回収に行ったマリウスは、片方を拾い上げて引きつった顔でアルフを振り返る。
「何これ、狙ったの?」
マリウスの手には、一本の矢に胸部を射抜かれた二羽の鳥。
ここは広場なので、当然他の生徒たちの目もある。
アルフの行動に気付いた者たちは、呆気にとられている。
一部、夕飯の支度途中で、鍋が吹き零れた音や焦げたにおいに慌てて動き出す者たちもいたが。
集まる視線の中、アルフはその視線を気にする様子もなく、胸を張ってピースサインをする。
ああそう狙ったのね、とマリウスは諦めた様子でため息をつき、残りの一羽を拾う。
勿論狙ったのだが、それは偶然によるところが大きい。
いくらなんでも、それが可能な位置関係になければアルフだって狙えない。
まあ、飛び立った瞬間にそれを見抜くのは尋常ではないのだが。
しかしそもそも、それがわかったところで普通は狙えない。
「うん、まあ、アルフだね」
(ん?)
それはどういうことだろう、と首を傾げるアルフだが、片手に鳥をまとめて持ったマリウスに背中を押され、テントまで戻った。
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「その鍋は、今から仕込むのか?」
先ほどティルが言っていたメニューからすると、それは明日の昼と夜のメニューだ。
ティルが用意している大鍋を見て、ガードが首を傾げる。
ちなみに、学院側で提供しているのは、食材のほかには簡単な調味料と調理器具だ。
他の生徒たちは食材は何とか確保できても、調理器具など持ってきていないので借りている。
が、今ティルが使用している大鍋は、アルフの亜空間倉庫から出てきたものだ。
野営のための道具として、鍋だけでも各種サイズ取り揃えてあったのだ。あくまでもただの鍋なので、武器のように引っかかったりはしない。
調理器具に関しては減点対象ではなかったため借りてもよかったのだが、まあ、あるんだしわざわざ借りなくてもいいんじゃない?ということで借りなかった。
「やっぱり野生ですからね。食肉用に飼育されたものより肉が硬いんで、その分余計に煮込まないと」
そうなのか、と頷くガードに対して、最初に持っていた緊張はもうないティル。かなり順応が早い。
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追加の鳥をティルに届けた後、薪の追加を命じられ、アルフとマリウスはいつのまにかうとうとしていたノールを引きずって、森の浅いところにいた。
「ノールお前、そうやってすぐ寝るのやめようぜ?」
「……無理」
「無理ってお前」
「……無理なものは無理」
「…………ああ、そう」
薪になる枝を拾いながら、のろのろと動くノールにマリウスが言う。
しかしノールには取り付くし間もなく、マリウスはそれ以上の苦言を諦めた。
諦めたが、しかし、と思うところもある。
数年前は、ノールもここまでではなかったはずなのだ。
ノールがやたらと眠くなるようになったのは、ここ数年の話だ。
一体何があったのだろう、いや、何かがあったのかすら定かではないのだが。
マリウスとノールの会話をきいて、アルフはノールに目を向ける。
アルフの目には、ノールがすぐに眠くなる原因が見えていた。そしてそれは、魔術課程のノールには致命的な欠点だ。
出会った頃にはわからなかったが、今のアルフにははっきりと見えている。
ノールは、自身の魔力の総量に対して、その回復量が見合っていないのだ。
魔力量が多ければいい、というわけではない。総量が少なくても、回復量が多ければ十分に補える。
しかしノールは、魔力の総量は多いが、それが満たされていることは滅多にない。
魔力を使ってもあまり回復しないので、少しでも回復量を増やそうと、身体を休眠状態に持っていこうとするのだ。
今度、両親か祖父に相談してみよう、とアルフは決めた。




