29. 探索中
前後を一定の距離をおいて照らす光に挟まれて、三人はあまり広くない道を進む。
明らかに人の手が入った通路は、三人で並ぶと少し狭い。
先頭はガード、次はアルフ、最後尾にはマリウスがついている。
敵対するものが存在していた場合、光を目当てに襲ってくるかもしれないが、三人と光源には距離があるうえに、アルフの索敵範囲の方が広いので問題ない。
今のところ、三人以外に生き物の気配は感じられない。
「――で?ここは一体何なんだ」
少し進んで、周囲の雰囲気に慣れてきたガードが疑問を口にした。
その言葉に、アルフも改めて周囲に視線を投げる。
石材を積み重ねたようには見えないが、滑らかに整えられた壁面や天井、床は明らかに人工物だ。
手で触れた感触は普通の岩と変わりない。
しかし、試しに放ってみた魔術は染み入るように吸収されてしまった。
アルフが常に持っている通話用の魔具も、この場所では役に立たなかった。
(とりあえず今のところは危険はないみたいだけど、この先はどうなることか。……ここが何処なのかだけでも、わかればいいんだけど)
無理だよな、とアルフは諦める。
外の情報は一切入ってこない。ならば内側を探索して、何とか外に出るしかない。
誰も答えを持っていないため、ガードの疑問に返る言葉はない。
けれどそんなことはガードにも解っていたので、返事がないのは気にしない。むしろ声は少し大きかったが独り言だ。
「――、」
アルフは後ろのマリウスに合図して足を止め、ガードの肩に手を置いて引き止める。
チラリとアルフの顔を見たガードは、何も言わずに視線を前に戻し、剣に手を添えて待つ。
ガードの索敵範囲内にはまだ何もいないが、自分がアルフに劣っているのは悔しいが自覚している。
その場でじっと待ち、やがて、ガードの耳にも何かの息遣いが届いた。そして、足音。
足音から、それが四足の獣だと判断する。
スラリと、腰に佩いた剣を抜く。
両手で剣を握り、体の正面で構える。
ガードの使う剣術は、盾を持たない、攻撃に重きを置いた両手剣。攻撃はかわすか、受け流す。
相手がどう出てきてもいいように、無駄な力を抜いて視認できるようになるまで待った。
構えるガードを見て、アルフは何があってもフォローできるように準備しておく。
感じる限り、相手はガードの敵ではないが、それでも万が一ということは有り得る。油断一つが命を落とす原因になるのだ。
ジリ、と焦る気持ちを落ち着けたところで、ついに相手の姿が見えた。
(狼……だが、角がある。魔物か)
額から伸びるねじれた角を確認して、これは敵だと改めて認識する。
「グル……」
その嗅覚によって、魔物はガードよりも早く、獲物の存在を掴んでいただろう。
不意を付くでもなく平然と歩いて現れたのは、余裕だと考えているのか。
魔物の喉が唸り声をあげる。
ピタリと歩みを止め、三人を睥睨する。まるで獲物の品定めでもしているかのようだ。
そして、先頭に立っているガードに視線を定める。
グッと、四肢に力が込められる。
(来る――!)
「ガアアァ――!!」
魔物が跳び掛ってくるのと同時に、ガードも前に出た。受身はガードのガラではない。
前脚の爪をかわし、牙をむく顎を剣の柄で打ち上げる。ギャンッと悲鳴をあげて転がる魔物に、すかさず追撃をかける。
床に転がってもがく身体を、背中側から足で踏みつける。動きを封じたところで、首に剣を突き立てた。
ひどく暴れるのを、そのままさらに力を込め体重を掛け、深く差し込み最後に剣身を捻った。
めちゃくちゃに振り回されていた四肢がやがてピクピクと痙攣するようになり、そして完全に動かなくなったのを確認して、ガードは魔物から剣を抜いた。
辺りに立ち込める血のにおいに少し顔をしかめたガードは、ヒュンッと剣を振り血糊を払う。
(ふん、問題はないな)
ガードが数歩離れるとアルフが魔物の死骸に火を放つ。同時に、流れ出した血がキラキラと光を放ちながら消えていく。魔物の死骸を燃やすと同時に、浄化の術もかけたのだ。
血のにおいは、魔物を呼ぶ。処理しておかなければ後々面倒なことになるのだ。
(ここに出るのが今の魔物くらいならば問題なく倒せるな)
キラキラとした光を眺めながら、ガードは先ほどの戦いを分析する。
一体しかいなかったから確実に倒す為に手間をかけたが、複数出たときはもっと迅速に対応しなければならない。
浄化が終わり、再び三人は歩き出す。
途中何度か同じ狼型の魔物と遭遇したが、三人でそれぞれ相手をして進む。
アルフは勿論、マリウスも問題なく倒せた。
今のところ、出てくるのは狼型の魔物ばかり。多くて六頭程度の群で出てきたりもするが、、三人とも傷ひとつ負っていない。
「とりあえず、全部回ったと思うんだが……」
「下の階にしか行けないみたいですね……」
アルフが亜空間倉庫から取り出した紙とペンでマッピングをしながら進んでいたのだが、ここでひとつ問題が出てきた。
紙面は、これ以上行ける場所がこの階層にはもうないことを示している。
次の階層に行くための階段は見つけたのだが、それは下に行くためのものしかなかった。
はたして、下へおりるべきか。
下へ行くのが不安なのは、三人とも何となくだが、ここは地下だと思っていたからだ。
どことなく感じる圧迫感に、窓の一つもない閉ざされた空間。
それらが三人に、ここは地下だと判断させた。
地下から出るためにはもちろん登りの階段が欲しい。
他に当てがあるわけでもないので、三人は思いきって階層を下りることにした。
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グルリ、と、ソレは喉を鳴らした。
楽しそうに、何度も。
グルリ、グルリと喉を鳴らし、ソレはその時が来るのを待ち続ける。




