28. 跳ばされた先で
「――っ」
光に呑まれる瞬間に詰めた息を、ゆっくりと吐き出す。
「うぇー、気持ち悪い……な、な、な、何?」
「ぐぅ……一体、何が――」
吐き気を堪えている二人をよそに、アルフは周囲を警戒する。
薄暗くてよく見えないが、とりあえず生き物の気配は感じられない。
アルフは結界の外に魔術で光を灯し、周囲を廻らせた。
どうやらあまり広くない、正方形の室内にいるようだ。
視認しても特に問題を見つけられなかったアルフは、次いで小さな火を浮かべる。
ゆらゆらと揺れる小さな火をじっと見つめ、空気にも問題ないと判断する。
「アルフ……?ここ、何処だ……?」
吐き気の治まったマリウスが、アルフに問いかける。
問われても、アルフにもここがどこかはわからない。
首を横に振るアルフに、そうか、とマリウスは肩を落とす。
「……アルフレッド。わかる範囲でいい。何が起こった」
アルフの灯した光に照らされた周囲を眺めていたガードが、アルフに視線を向ける。
その目は冷静で、今一番現状を把握しているのはアルフだと理解していた。
『図書館に、魔術陣が仕掛けられていた』
「魔術陣……あれか、円の中に色々書いてある」
ガードは使えないが、一応知識として知っている。アルフはうん、と頷いた。
『転移と書かれているのを見た』
「転移?転送陣か。遺跡に残ってるやつだな。階層を移動したり、別の場所と繋がってたり」
『転移先がどうなってるかわからないから、咄嗟に結界を張った』
まだ解除されていない結界に、ガードは視線を向ける。
正直言って、そこにあると言われなければ気づかないほど、自然にそこにある。
「……まあいい。ここがどこかは、わからないんだったな」
『転移先まで読んでる暇はなかった』
「ああ、いい。そこまで気にするな」
申し訳なさそうにするアルフに、ガードは手を振ってやめさせる。
そんなことを言ったら、何も出来ていないのは自分のほうなのだ。
『とりあえず、空気に異常はない。結界を解く?』
「ああ……いや、まずは持ち物の確認を――というか、俺たちは何も持っていないな」
「あ、はい。実技の授業のために着替えましたからね」
動きやすい格好はしているが、武器防具は訓練場に置いてある物を使うので、この場で役立つものは何も持っていない。
「アルフレッド、お前の倉庫には何が入っている?」
アルフの指輪に亜空間倉庫の術がかけられているのを、ガードも知っている。
問われて、何を入れていたかなと思い出しながら、リストを出して確認する。
(……。うーん、この指輪のほう、父上に言われて別枠にしてあるんだよなぁ。…………はっきり言って、本しか入ってない……)
これは素直に言うべきだろうか、それとも知らぬふりでメインの倉庫から必要なものを取り出すべきか、と悩む。
(でも、この状況で隠し事って、あんまり良くないよね。信頼関係って大事。うん)
『本』
「は?」
「へ?」
簡潔に答えると、二人が目を丸くする。
その様子を見て、慌てて次の文を綴る。
『大丈夫。別の倉庫に何でもあるから』
「……別?」
食料も着替えも武器も、野営道具も薬品類も、亜空間内では時間が経過しないのをいいことに詰め込んである。
防具だけは、今後の成長を考えて用意しておらず、代わりに各種効果の付いた装飾品が入っている。
とりあえず、二人のために剣を二本と、防御力を上げる腕輪、素早さを上げる腕輪、瀕死に陥ったときに一度だけ身代わりになってくれるペンダントを出す。
「……アルフレッド。お前、初級魔術しか使えないと言うのは嘘か」
まあ、流石にばれるよな、と思いながら、アルフは頷いた。
「何故そんな嘘を?」
『師匠が、得手なものは隠せと』
「何故だ?」
『……その方が面白いから、と言ってはいた』
「………いや、いい。ここでどうこう言っても仕方のないことか。とりあえず、剣はありがたく借りよう」
何か言いたそうだったが、それを呑み込んでガードは剣を手に取った。
「……アルフレッド。この剣はどこで手に入れた?」
『おじい様に頂いた』
「……そうか、あの方か。それなら納得だ」
ガードはアルフの祖父を知っているので、それだけで納得できた。
一応、二人の得意属性に合わせて選んだ剣だ。
ガードが手にした深紅の剣の銘は紅蓮。魔力を通せば刃は焔を纏い、敵を焼き尽くす。
マリウスが手にした新緑の剣の銘は碧空。こちらは風の刃を生み出し触れるものを切り刻む。
さて、自分の分はどれにしよう、とリストを眺める。
どうやら屋内のようだし、長物はやめておこう、と剣に決める。
剣、と決めても、その剣がたくさんある。
(うーん、二人のが火と風だから、その辺を考えると……うん、これにしよう)
よし、と決めて、アルフは自分の分の剣を取り出す。
それは、柄も鞘も刀身も、全て漆黒の刀だった。
「何だそれは?」
「え?それも剣?変わった形だし――薄いね」
『刀、という種類の、斬ることに特化した剣だとおじい様にきいてる』
銘は黒曜。属性は闇。ブラックホールを発生させて全てを呑み込む。
黒曜を腰にはき、他の装備品を確認して、準備完了。
『とりあえず、ここから出よう』
言葉と同時に、アルフは結界を解いた。
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――――。
闇の中、ソレは蠢いた。
――誰か、来る。
久方ぶりの来訪者に、ソレは嬉しそうに身をくねらせた。




