26. 図書館
学院の図書館には、四学年以降にしか立ち入りを許可されていない区画がある。
というか、三学年以下には図書館の一部分しか解放されていないのだ。
アルフは四学年に進級以降、ようやく全解放された図書館に、時間を見つけては入り浸っていた。
(フンフンフ~ン~~♪)
アルフはこの日も、上機嫌で本棚を物色していた。
既に何冊か、興味深い本を見つけて貸し出しのために確保してある。
が、次に借りる本の辺りをつけてから帰るのが常なのだ。
今は昼休みだが、昼休みに借りた本を放課後には返すことも少なくない。それほど、気がつけばアルフは本を読んでいる。
(流石に立ち入りを制限するだけのことはある。家にもない貴重本がたくさん。城の図書室に好きに入っていいとは言われても、毎日通うわけにはいかないしな)
入口から遠い、滅多に、というかアルフ以外に立ち入る者のない区画で、背表紙を確認し、時折手にとって中身の確認をしながら本を選ぶ。
この辺りは、遺跡から発掘された古い魔術書が置いてある。
(……ん?念話……?)
ふと、手が止まる。
パラパラとページをめくり、そしてその手が止まる。
(おお……これはいい。これが使えれば、一々字を書かなくてすむ)
アルフはその場に座り込んで、本の中身に没頭した。
(前の世界で言えばテレパシーみたいなもんだな。あれは超能力だけど、魔術でも出来るんだな)
念話について書かれた本を、一心不乱に読みふける。
古い魔術書は、術については陣で描かれている。言葉を幾つも重ねるよりも、陣を描けば、読み解く側の能力にもよるが、一発で解る。
もちろん、陣を使用するアルフも解る。
そもそも、現代の魔術は教本にするのは難しい。感覚的なものだし、個人によってやり方も変わってくるからだ。
つくづく、何故魔術陣が衰退したのかアルフには理解しがたい。
運用時に陣を描く手間がどうとか、正確に陣を描けず誤字があるとか、まあ一応理由はあるのだが、アルフにしてみればその程度は衰退する理由にはならないのだ。
かろうじて魔具職人の間には残っているようだが、未熟なものが誤って描いた陣のせいで誤作動や爆発が起きることも少なくないようだ。
とにかく、陣を読み解き、書かれている解説を読み、術を自分のモノにしていく。
一通り理解して、さて、実際に使ってみたいけど誰に使おうか、と本を閉じたとき。
「アルフ、またここにいた」
「?」
突然かけられたマリウスの声に、アルフは驚いて目を瞬かせた。
通常なら近づかれる前に気づくはずだが、本に没頭しているとこういう事はままある。
「昼休み、もう終わったって。また気づかずに本読んでたんだな」
『ごめん』
咄嗟に謝ったが、反射だったのはバレバレなようで、反省してないだろう、という目でマリウスはアルフを見る。
マリウスの向こうにウィンガード――ガードの姿が見えるのは、次の授業が剣の実技だからだろう。
実技のクラスが上級クラスに移ってから、接点が増えたためか、アルフとガードの距離は以前よりも近づいた。
というか、流石に四学年に上がって一月で上級クラスというのは前例がなく、しかもマリウスは上級クラスの中でも上位の腕前だし、アルフに至っては教官として来ている騎士にすら勝ってしまう。
周りもどう扱っていいかわからず遠巻きにしていたので、責任感からガードが構うようになった、というのが実情だ。
従兄弟という間柄ではあるが、未だにガードはアルフをアルフレッドと呼ぶし、マリウスのことはレインフォールと呼ぶ。
まあ、ガードは身分上、よほど親しい仲でなければ名前で呼ぶことはしないのだろうが。
(あ、そうだ)
ふと、アルフは思いついた。
『マリウス、今からちょっと術かけていい?』
「え、術?何の?」
『それはかけてからのお楽しみ』
「おい、待てアルフレッド。こんなところで術を使うなど、非常識だろう」
急に言われて首を傾げるマリウスと、注意してくるガード。
『大丈夫、危険はないから』
「うーん、危険じゃないなら、まあ、いいかなぁ?」
『ありがとう、マリウス』
「いや、危険じゃないとかそういう問題ではなくてだな」
ガードはまだ文句を言っているが、当のマリウスが許可を出したので、アルフは早速覚えたばかりの念話の術を発動させた。
「ん?」
「何をしたんだ?」
ふわり、と魔力が動いたのは感じたが、何の現象も起きていないのに二人は首を傾げる。
[マリウス、聞こえる?]
「――え!?」
「どうした、レインフォール」
「今、何か、声が――」
[あ、やった。ちゃんと聞こえるんだね]
「え?……まさかこの声、アルフ?」
「声?どういうことだ?」
何のことかわからないでいるガードに、アルフは手に持っていた本の表表紙を向ける。
「……?これは、魔術の本か」
受け取って、表紙をめくる。そしてすぐに顔をしかめた。
「……アルフレッド、お前これを読むのか」
そこに書かれている文字は、現在のものとは違う。古い時代のその文字は、辞書とつき合わせて時間をかければ読めるだろうが、このままではとても読めはしない。
『声に出さずに、相手に言葉を伝える術。この本には一対一の術しか書いてないみたい』
探せば同時に複数に言葉を伝える術があるかも、とアルフは本棚に目を向ける。
「おい、アルフレッド。それは後でいいだろう。今は授業に――」
ガードの言葉は、アルフが本棚に手をついた時に一緒に押してしまった本が奥に押し込まれ、カチリと音を立てたのを聞いて止まった。
今のは何の音だ、と三人で顔を見合わせた一拍後、鈍い音を立てて本棚が動き出した。




