25. 昇級試験
三年間の基礎課程が終わった後は、専門課程に入る。
専門課程は、決まった年数はない。
年度末ごとに昇級試験があるが、年度の途中でも、十分に身についたと思えば試験を受け、昇級することができる。
しかし、試験に合格できない限り、昇級はできない。
昇級試験は何度でも受けることが出来るが、昇級一つごとの猶予は三年間。
三年間昇級できないでいると、残念ながら退学ということになる。
そして今、アルフとマリウスは、四学年に進級して一月で、実技・剣術の昇級試験を受けていた。
「はっ!」
鋭い呼気と共に繰り出された突きを、僅かに体を捻ることでアルフはかわす。
続いて繰り出される斬撃も、最小限の動きでかわす。
その後に続く攻撃も、危なげなくかわし続ける。
チラリ、と訓練所の壁にかけられた時計を確認し、指定された制限時間が迫っているのを確認して、剣を握る手に改めて力を入れる。
「!」
それからまた数回かわし、時間がなくなる直前に、剣を跳ね上げた。
「そこまで!勝者、アートライド!」
試合を見届けていた教師が試合終了を告げる。
「あーあ、結局ダメか」
差し出されたアルフの手を握りながら、マリウスがぼやく。
マリウスの視線はアルフの足元にある。
そこには、アルフの右の爪先を軸とした円が描かれている。
つまり、今の試合の間、アルフはその場から動いていないということだ。
「今日こそは動かしてやろうと思ってたのに」
くそう、と悔しがるマリウスを、アルフは笑顔で引き上げる。
「……アートライド、レインフォール、二人とも剣術は上級クラスへ行っていい」
手に持ったボードの上で何かを書いていた教師が、二枚の紙を二人に差し出す。
その表情には、少し呆れの色が伺える。
「えっ、俺もいいんですか?」
教師の言葉に、マリウスは驚いた声を上げる。
「この試験は、勝ち負けは関係ない。試合を通じて、技量を私――試験官に見せるためのものだ」
「でも俺、アルフには遠く及ばないんですけど」
「…………。レインフォール、君はアートライドと一緒にいるから、自分の実力をきちんと把握できていないようだな」
「え?」
教師が、頭痛を和らげるかのようにこめかみを揉む。
どうしてくれようかこいつ、とでも言いたそうな光を、アルフは教師の目に見た。
「君は確かにアートライドに劣る。しかし、君自身の技量が低いわけでは決してない」
「そうなんですか?」
「そうだ。……君は、実技のときにアートライド以外とも組むべきだな。アートライドとばかり組んでいるから、いつも負けてばかりで自分が弱いと思い込んでいるんだろう」
それについては、アルフも申し訳なく思う。
確かにマリウスはアルフよりも弱い。しかし、他のクラスメイトたちはさらに弱いのだ。
マリウスに対してならば、ある程度の制約を己に課せば勝負になる。他の生徒では、それすら難しい。
必然、アルフがパートナーに選ぶのはマリウスばかりになった。
そしてアルフが相手だと、マリウスは勝てない。
「いやいや、先生。いくらなんでも弱いとまでは思ってないですよ。ただ、上級までいっていいのかな、と思いまして」
くさってもおかしくない状況に置かれていたマリウスだが、当の本人はあっけらかんとした様子で言う。
まあ、それはそうだろう。
確かに学院ではアルフに負け続けだが、マリウスとて家で教師が待っている。
その教師は、既に負かしている。
もっとも、それは試合形式のときのみで、実戦式になると途端に負ける。
つまり、剣の技量では超えたが、経験で圧倒的に負けているのだ。
「問題ない。君の技量は上級クラスでも上位に入るだろう」
(ん?)
ふと、アルフは首を傾げた。
「…………」
教師の言葉に疑問を覚え、アルフは亜空間からボードを取り出し文字を綴る。
アルフの動きに気づいたマリウスと教師は、アルフが書き終わるのを待つ。
『上級クラスには、マリウスを負かす人がいる、ということですか?』
アルフが書いた文字を読んで、ああ、と教師は頷いた。
「何人かいるな。一人は、君も知っているだろう。ウィンガード殿下だ」
へえ、ガードが、とアルフは少し驚いた。
ウィンガード・ヴァン・カーフィ・ミレイド・エルフール・アランシア・シグサイ。
ガルドの弟で、第二王子だ。
ガルドに紹介されて会ったが、アルフとはあまり合わないようで、彼のほうからわざわざ会いに来ることはない。
仲が悪いわけではないが、アルフとの話のテンポが掴み辛いようで、嫌いではないがどうにも苦手、という事らしい。
こればかりは、アルフにはどうしようもない。慣れてくれるのを待つばかりだが、慣れるほど会っていないのが現状だ。
「……まあ、それでもアートライドより強い生徒はいないのだがな」
教師はボソッと零した。
生徒どころか、教官として騎士団から出向している者でも勝てる者がいるかどうか、と心配している。
そうなると、アルフは学院で学ぶべきことが、実技においてないことになってしまう。
アルフのために特別な教官を用意するべきか、と教師は悩んだ。
一般の騎士では無理だ、とあっさり切り捨てる。分隊長、小隊長、中隊長、大隊長。と考えて、ふと我に返る。生徒一人のために、役職持ちが来てくれるわけないか、と。
「まあ、とにかく。二人とも、次からは上級クラスだ。しかし、あくまでも実技は、だからな。座学もしっかり励まんと、卒業は出来んからな」
「はい。ありがとうございました」
「……」
ゴホン、と咳払いをして、話を戻す教師。
アルフとマリウスは、教師に礼をして訓練所を後にした。




