22. 従兄弟
さて、アルフがわざわざ地面に字を書いているのには、理由があった。
アルフは学院で、魔術が得意なことを隠すことになっていた。
ヴィレクの提案なのだが、最低限の魔術を無詠唱で使えるということにしておこうと言うのだ。
魔術陣も使用せず、最低限の魔術と剣の腕で、卒業しろと。
得意な魔術を不得手とし、得意な得物も使用しない。
どうして?と尋ねたところ、その方が面白そうだから、と笑った。
今一納得は出来なかったが、特に害になるような事は無いだろうと判断して、その通りにすることにした。
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試験の翌月、アルフは学院の制服に身を包み、馬車に乗っていた。
アルフの他には両親が同乗している。
行き先は学院――ではなく、城だ。
「まったく、陛下は。今日はアルフの入学式だというのに朝から呼び出すとは」
エトランドは不機嫌なのを隠そうともせず、呟く。
もともと余裕を持って準備はしていたのだが、朝食の最中に急に呼び出されて不機嫌なのだ。
王都内にはいくつかの学院があるが、アルフが入る学院は王立なので、王都の中心に近い、貴族街と高級住宅街の境にある。
寮も併設されているので、大抵の奨学生は寮に入っている。アルフは通いだ。
アートライド邸は貴族街の中でも城のすぐ側で、正直言って馬車を使うのも馬鹿らしい距離なのだが、慣習というか、決まりごとで、城に徒歩で入るものは騎士たちや裏門から入る使用人たちくらいなものだ。
「お兄様はあまり計画的な方ではありませんからね」
「まったくだ。そのくせ何故か失敗しないんだからな」
(……陛下って一体……)
身内とはいえ王にそれはないだろうという評価をする両親も両親だが、その両親の言葉を信じるならナサナエル国王がどういう人物かわからなくなった。
「陛下は天才ってやつだな。まあちょっと紙一重みたいなところもあるが」
アルフの微妙な表情に気づいて、エトランドが説明をする。が、それは説明なのか少々疑問だが。
ほとんど距離がないのであっという間に城に着き、城内に通される。
今回通されたのは謁見の間ではなく、王の執務室に通された。
「おー、来たか」
手に持っていた書類を置いて、三人に長いすを勧める。
執務室には王の執務机と補佐官の机、そしてテーブルセットがあった。あとは壁を埋め尽くす本棚。
「いやー、悪いな。今朝になって思いたったもんで」
(……フランク)
以前に会った時と、態度が全然違う。
あの時も、最初の挨拶以降は砕けたと思っていたが、今はそれの比ではない。
おそらくこれは、完全に身内に対する態度なのだろう。
「まったく、こんな朝っぱらから何の用ですか。アルフは大事な入学式を控えているというのに」
「おお、それだ。そういえば今日は入学式だったなと思い出してな。急遽呼んだわけだ」
「朝でないとダメなんですか?式の後とか」
「前のほうがいいと思ったんだよ」
執務机からテーブルに移動してきたナサナエルにエトランドが苦情を言うが、ナサナエルに気にした様子はない。
二人が軽い応酬をしていると、執務室の扉がノックされた。
「父上、ウルガルドです」
「おお、入れ」
「失礼します」
入ってきたのは、アルフよりも少し年上の少年だ。
頭の形に沿うように切られた淡い金髪に、琥珀色の瞳。優しげな顔立ちに、口もとには柔らかな笑みを浮かべている。
「殿下、お久しぶりです」
エトランドとマーリアが立ち上がるのにあわせて、アルフも席を立つ。
「叔父上、叔母上、お久しぶりです。――それに、君がアルフレッド、だね」
アルフはぺこりと頭を下げた。
「まあ、いいから座れ。あまり時間もないしな」
ナサナエルの言葉に、アルフたちはウルガルドがナサナエルの隣に座るのを待って腰を下ろした。
「今日呼び出したのはな、アルフにこいつを会わせる為だ」
「初めまして、アルフレッド。ウルガルド・ネイド・バートライ・トール・エルフール・アランシア・シグサイです。ガルドと呼んでくれると嬉しいな」
すっと差し出された手を、躊躇いながらも握り返す。
名乗られたのだから返さなければ、と思ったが、その前にウルガルド――ガルドが遮った。
「君の事情も、名前も、父上から聞いて知っているよ。僕も君の事を、アルフと呼んでいいかな?」
一々字を書かなくても、仕草で伝えられることはそれでいい、と言われて、アルフは頷いた。
「それでな、アルフ。ガルドは俺の長男で、お前の――三つ上か。学院でも先輩に当たるから、何か困ったことがあったらガルドを頼るといい。入学式の前に会わせておこうと思って呼んだんだ」
「アルフの一つ上に弟もいるんだけど、もっと時間が有るときにでも紹介するよ」
(ほー、王子様。ん?俺の従兄弟ってことか)
きらきらしてる、というのが、アルフが初めて会った王子に抱いた感想だった。
その後、もう時間がない、ということで、城を辞した。
ガルドは学生会に所属していて、入学式の準備があるというのでアートライド家の馬車に同乗して学院に向かった。
馬車の中で少し話をして、アルフはガルドと打ち解けることが出来た。
アルフの三つ上だから、まだ十歳のはずだが、芯のしっかりした人物だった。




