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リインカネーション  作者: 岐塔
幼少期編
17/64

16. 音響魔術と祖父の噂

最初に我に返ったのはマーリアだった。


「ええと、今アルフの声が聞こえたのだけれど……?」


困惑した顔で、首をかしげるマーリア。

他の者も似たような表情だ。


『再現してみました』

「いや、再現ってアルフ」


平然と言うアルフに、エトランドは言葉が見つからない。


「何だちびすけ。今何したんだ?」


リオンはアルフの手元の魔術陣をのぞきこむ。

肩を並べる位置関係なので、アルフはそのまま陣にペンを加える。

陣を部分ごとに分けて、これは空気の振動数、ここが音の指向性、と説明を書き加えていく。


「ほうほう。するとこれは、任意の音を発生させることが出来るんだな」


うん、と頷くアルフの頭を、リオンはそっと撫でる。


「俺に、お前の声を聞かせてくれたんだな」


うん、とまた頷いたアルフを、リオンは膝に抱き上げた。

「ところで」

ガシッと、それまで優しく撫でてくれていた手が、アルフの頭を掴んだ。


(へ?)


リオンは満面の笑みを浮かべて、言った。



「爺と呼ぶなと、俺は言ったよな?」


「………………」


(お、大人気ない……!!)


小さな子供相手に脅している。しかもふざけたり冗談ではなく、本気で。

アルフは口許がひきつるのを感じた。

「父上、子供相手に何凄んでるんですか。大人気ないですよ」

いつの間にか席を立っていたエトランドが、リオンの膝からひょいとアルフを抱き上げる。そしてそのまま、アルフが座っていた椅子に腰を下ろし、自分の膝の上にアルフを乗せる。

(……父上)

ここぞとばかりにスキンシップを取ろうとする父に、アルフは内心ため息をついた。

マーリアが「ずるーい」と言っているのは聞かなかったことにする。

まだ小さなアルフだが、母の膝に乗るには少々大きいのだ。




「それより父上、昨日発行された新聞の記事なんですけど」

「ん?新聞?」

話題を変えたエトランドに、何だったかとリオンは首を傾げる。

「村一つ潰したそうですが、詳細は?」

「あー、あれな」

いつの間にか横に椅子を持ってきて、笑顔の母の手からデザートを食べていたアルフは、ギョッとした。

村一つ潰したって、何だそれ。

「あの村、地下に魔物の巣ができててな。餌場にされてたから潰した」

リオンはあっさり言うが、とんでもないことだ。

「……他に被害は?」

「群は一つだけだったな。少なくとも、俺の探知範囲内には他にはなかった」


「そうですか……ではその前の、某貴族の屋敷半壊というのは?」

「うわ、それ訊くのか。あれはなぁ、同じこの国の貴族として恥ずかしい限りだったな。税はバカみたいに高いし、若い娘を連れ込むし、逆らったら斬られるしで、気付いたらそいつの屋敷に乗り込んで縛り上げてた。屋敷半壊もその時だ」

「ああ、それは仕方がないですね。冒険者シーヴの天誅が下って当然です」

そう言ったエトランドは、イイ笑顔。アルフは寒くないはずなのに寒気がした。


冒険者シーヴ、というのは、リオンのことだ。シュヴァリオン、をもじってシーヴ。捻りはないが、普通は気づかない。

顔を見られるとバレバレなのだが、流石に本名で日々紙面を賑わせるわけにもいかないので、リオンが冒険者活動をするときはシーヴと名乗っているのだ。

華々しい活躍は紙面を飾り、その活躍に子供たちは純粋に憧れの念を抱き、冒険者家業の厳しさを知る大人たちは、子供たちが冒険者になると言うのに苦い顔。

しかしシーヴに対する悪感情があるわけではない。むしろ子供たちと同じく、憧れだってある。酒場では酔っ払いがシーヴを讃えている。


冒険者シーヴは、現代における英雄なのだ。



------------



いつの間にか、話の席は食堂からエトランドの私室へと移っていた。アルフがデザートを食べ終えるのを見計らって移動したのだ。勿論アルフは、エトランドに抱えられたまま。

今はアルフを間に挟んでエトランドとマーリアが座り、その向かいにリオンが一人で腰掛けている。

当然そこには、アルフを寄越せ誰がやるかという男二人の争いがあったことは言及しないでおく。


「それでですね、父上に一つお願いがあるのですが」

「お前にお願いされても嬉しくないなぁ?」

「実は、アルフのために槍を捜していましてね」

からかいを含んだリオンの言葉を、エトランドはさらりと流した。

それを気にした風もなく、リオンは会話を続ける。

「お?槍か。俺と同じだな、ちびすけ」

どうやらリオンの中で、アルフの呼び方はちびすけで定着したようだ。

リオンを見ていると、抗議しても無駄だろうという事は良くわかったので、リオンがアルフをちびすけと呼ぶ限り、こちらもリオンのことはお祖父様と呼んでやろうと決めた。


「うんうん、解った。重さは気にしなくていいんだな。大丈夫だ、いいのがある。ただ、ちょっと準備があるから明日まで待て。この俺が、とびっきりの槍をプレゼントしてやろう」


リオンが自信満々で胸を張って言った所で、そろそろ、と促されてアルフは自室へ戻った。









一人になった自室で、アルフは食堂で使った魔術陣が描かれた紙を取り出す。




じっと見つめて、火をつけて燃やした。



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