14. 今後の指針
本格的な武術の訓練が開始されたのは、アルフが六歳になった頃だった。
「うーん、剣も悪くない、というかはっきり言ってかなり筋がいいし普通に達人になれるでしょうけど、長物はそれ以上ですね、アルフ様」
一通りの武器を試したあと、ヴィレクは感心して言った。
この頃になるとヴィレクも大分砕けてきて、アルフのことを愛称で呼ぶようになっていた。
ついでに、一々文字を書かなくてもある程度の意思の疎通が出来るようにもなっていた。
そうですか?と首を傾げるアルフに、ヴィレクはうんうんと頷く。
練習用の槍を、教えられた通りの型をなぞる。
教えたばかりのはずなのに、何年も鍛錬した者のように滑らかな動きに、ヴィレクはまた頷く。
「うん、やっぱり槍ですね。杖術という選択肢もありますが、やっぱり騎士だと浮きますからね。槍をメインに鍛錬して、剣もある程度は鍛えましょうね」
ビュッと槍が空気を切る音が鋭く響く。
「アルフ様は魔術も達者ですから、筋力の増強をすれば多少重めの穂先でも大丈夫ですね」
(筋力増強……確か、使用禁止されてたよな?)
「アルフ様はまだまだ成長しますからね。筋肉を作るのには細心の注意が必要です。ですから、普段は使用を禁じています。これからも、許可のない使用は禁止しますよ」
『はい』
頷きながら、文字を浮かべる。
頷くだけで意思は十分に伝わるが、大事なことだから文字も出したのだ。
「それにしても、アルフ様は武術の才能もすごいですね。アートライド家は術師の家系ですから正直驚きました」
『父上、強い』
「そうなんですか?」
『この前、うちの騎士の訓練場に乱入してた』
「……術、使わないでですか?」
目を丸くするヴィレクに、アルフはうんと頷く。
「……何やってんですかエトランド様……」
呆れた顔のヴィレクに、アルフはクスクスと笑う。
「きっとアレですね。アートライド家は魔術も武術も超一流になれる才能を持ってて、でも皆が皆武術よりも魔術のほうが好きで魔術でばっかり有名になってるんですね」
確かにそうかもしれないな、とアルフは思う。
アルフどころか、たまに母でさえ片手で抱き上げているところを見たことがあるし、父が本気で駆ける馬には誰も追い付けない。
手も硬く、父の執務室に置いてある剣は飾りではないだろう。
「では、主要武器を槍として、今後の訓練計画を立てましょう」
『はい』
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「そうか、アルフは槍かぁ」
夕飯の席で、アルフの話を聞いたエトランドは、楽しそうに笑う。
「どんな槍を使うかは、もう決めたのかい?」
『穂先が重めのものでも大丈夫だろう、と』
「うんうん。アルフは魔術も得意だからなぁ。重さは問題にならないだろう」
「槍と言えば、お義父様がお得意だったわよね」
(おとうさま?)
母の言葉に、アルフは首をかしげる。
「お父様の、お父様、ね。アルフにとってはお祖父様ね」
『お祖父様?』
「ああ、話したことはなかったか。あの人は、私に爵位を譲ってからあちこち旅をしていてね。まったく、アルフが生まれたというのに顔も見せないで」
下手したら孫の顔を見られなかったかもしれないのに、と内心で毒づくエトランド。
『今もお元気で?』
「元気も元気。ほら、時々新聞で取り上げられてる冒険者、わかるかな?」
『一人でドラゴンの巣を潰したとか、魔物領に突っ込んで一週間魔物を狩り続けたとかいう、あの方ですか?』
「そうそう。それがお祖父様。あの人は当主時代、立場のために境界より向こうに行けないことにそれはもうヤキモキしていてね。私に責任を押し付けたあとは、すぐに冒険者ギルドに登録してあっという間に最高ランクに上り詰めてしまったよ。そして今は最高ランクの特権を利用して、好き勝手に魔物領に入っては魔物を狩っているんだ」
「お義父様は、学院時代のお友達が魔物に殺されてしまったそうで、とてもお怒りなのよ。奥様のお腹には赤ちゃんもいたそうだから」
しみじみと言うマーリア。
「そうだ。あの人指名で依頼を出そうか。そうすれば一時的にでも帰ってくるだろう」
「あら、どんな依頼をだすのですか?」
首をかしげるマーリア。アルフも同感だ。
「アルフのための、槍を手に入れてもらおうかと」
(?)
アルフの顔に浮かんだ疑問を読み取って、エトランドは続ける。
「本当は私の剣を鍛えた職人に頼もうと思っていたんだが、あの人は専門は剣だからな。勿論槍でもそこらの職人に負けたりしないだろうが、折角だからね」
「お義父様なら、すごい槍を手に入れてきそうね」
楽しみだわ、とマーリアが笑ったところで、少し慌てた様子の侍従が食堂に入ってきて、侍従長に何かささやいた。
そして侍従長は、エトランドの側まで寄り、言った。
「ご歓談中失礼します。大旦那様がお帰りになられました」
食堂の扉が勢いよく開かれたのは、その直後だった。




