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リインカネーション  作者: 岐塔
幼少期編
12/64

11. 快気祝い

『アートライド公爵家の、継承権を放棄したく』


アルフはそう願った。



「――ほう」


目の前に現れた文字に、ナサナエルは軽く目を見開き、感心したように声をあげた。

興味深い目でまじまじと眺め、アルフに目を向ける。

「これはお前の魔力か。成る程、面白いことを考えたな」

それにアルフは頭を下げて応えた。


「エトランド。お前はアルフレッドの願いを知っているのか?」

「いえ、存じません」

「そうか……」

ふむ、と考え込むナサナエルに、エトランドはアルフの願いの内容を訊けない。

気にはなるが、訊けない。

ここは謁見の間であり、個人として会っているわけではないのだから。

内心「そんな事言われたら気になるだろうがはっきり言えよ」と思っていても、訊けない。

「アルフレッド、本気か?」

『はい』

迷いのないアルフの目に、ナサナエルは子供の戯言と片付けるのをやめた。

「理由を聞こう」

『声を失いました』

「こうして話をできるくらいに達者に魔術が使えるのなら、それは大したマイナスにはならんな」

『それだけでこなせるほど、貴族の当主というのは甘くないでしょう?』

「ほう、お前にはそれがわかっていると?」

ナサナエルは楽しそうに笑う。

エトランドの位置からは――いや、この場にいる誰からも、ナサナエルの前で綴られる文を目にすることが出来ない。

アルフが、この場では条件は変わらないからと、ナサナエルの目前で像を結ぶように可視化させているからだ。

だから、息子と従兄弟が何を話しているのか、ナサナエルの言葉から推測するしかない。

しかし聞こえてくる声からは、内容の推測が難しい。


「それで?その後お前はどうするつもりだ?」

『騎士になりたいと、思っています』

「ほう?」

『陛下に継承権放棄を願い、両親には弟を願います。私は、騎士に』

「…………」


ナサナエルはアルフをじっと見つめる。

アルフはその目を真っ直ぐに見返す。


「………ふ…」


「陛下?」


玉座に背中を預け、俯き気味に片手で顔を隠し、肩を振るわせるナサナエルに、困惑の声を上げたのは誰だったろうか。


「ふふ、ふはははは」


「へ、陛下…?」


周囲の困惑した様子に構わず、ひとしきり笑って満足したのか、最後に大きく息をついて呼吸を整える。目じりをぬぐったのは、笑いすぎて涙が出たのか。


「面白い。面白い息子を持ったな、エトランド。いいだろう、我が甥、アルフレッドの願い、聞き入れよう」


『ありがとうございます』


アルフは静かに礼をする。

エトランドは、困惑顔で二人を見比べ、ナサナエルに訊ねた。


「――陛下、どういうことか、教えていただいても?」

ナサナエルは無造作にそれに答えようとして、ふと思い直してニヤリと笑う。

「ならん。知りたくばアルフレッドに尋ねよ。それがアルフレッドの義務でもあろう。――ただ、忘れるなよ、エトランド。余はアルフレッドの願いを聞き入れたのだからな」


人の悪い笑みでそう言って、ナサナエルは謁見は終わりだと告げた。





----------





「それで、アルフ。陛下には何を願ったんだい?」

王城からの帰りの馬車で、我慢できなかったエトランドがアルフに訊ねた。

『継承権の放棄』

「………………は?」

端的なそれに、エトランドは読み間違えたのだろうかと何度も目を走らせる。

『ですから、アートライド公爵家の、継承権の放棄を』

何度読み直しても間違えていなかった上に、さらに重ねてもう一度。


「え……ええええええ!?」


常にないエトランドの叫びに、何事かと護衛についている騎士が外から声をかけるが、それに答える余裕はエトランドにはない。

「え、えええ?何で?どうしてそんなこと」

『喋れないのでは、舐められますから』

「いや、そりゃ、確かにそうだけど、でもそんな」

『父上と母上からの快気祝いは、弟がいいです』

「えええーー」

にっこりと笑う息子に、エトランドは最早言葉もなく、王都に一泊する予定を切り上げ、自領に戻るよう御者に告げるのが精一杯だった。


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