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異国のカフェで、壊れかけた私を拾ったのは無愛想な菓子職人でした  作者: 深町 灯


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49話 春風の中で

 四月の終わり。


 空はどこまでも青かった。


 冬の重たい雲はもうなくて、街全体が明るく見える。


 私は朝から落ち着かなかった。


 理由は分かっている。


 今日こそ伝えようと決めていたからだ。


 何度も迷った。


 何度もやめようと思った。


 でも、もう逃げたくなかった。


 伝えなかった後悔だけは残したくない。


 午後。


 私は悠真さんをライン川沿いへ誘った。


「珍しい」


 彼が笑う。


「ユヅキから誘うなんて」


「たまには」


 心臓がうるさい。


 歩きながらも、自分の鼓動が聞こえる気がした。


 川沿いのベンチに座る。


 春の風が吹く。


 遠くで自転車が通り過ぎる。


 子どもたちの笑い声も聞こえる。


 いつもと同じ景色。


 でも今日は違った。


「悠真さん」


「ん?」


 彼が振り向く。


 私はぎゅっと手を握った。


 怖い。


 本当に怖い。


 だけど。


 言わなきゃ。


「私ね」


 声が震える。


 情けないくらい。


「ドイツ来た時、毎日不安だった」


 悠真さんは黙って聞いている。


「帰りたかったし、泣きたかったし、自分が何したいのかも分からなかった」


 春の風が髪を揺らした。


「でも」


 私は彼を見る。


「悠真さんがいてくれた」


 言葉が少しずつ溢れる。


「一緒にスーパー行ったり、ご飯食べたり、話聞いてくれたり」


 思い出が次々浮かぶ。


 夜のキッチン。


 ホットミルク。


 雪の日。


 川沿いの散歩。


 全部。


 大切だった。


「だから」


 胸が苦しい。


 それでも続ける。


「好きになった」


 言ってしまった。


 風の音が大きく聞こえる。


 数秒。


 いや、もっと長かったかもしれない。


 時間が止まる。


 悠真さんは何も言わなかった。


 私は俯きそうになる。


 怖かった。


 返事を聞くのが。


 でも。


「知ってた」


 静かな声がした。


 私は顔を上げる。


「え?」


 悠真さんが少し笑う。


「なんとなく」


 信じられない。


 恥ずかしくて消えたくなる。


「それ早く言って」


「言ったら意味ないだろ」


 私は思わず笑った。


 涙が出そうなのに。


 笑ってしまった。


 すると。


 悠真さんが真っ直ぐ私を見る。


 今まで見たことがないくらい真剣な目だった。


「俺も好きだよ」


 その言葉を聞いた瞬間。


 胸の奥に積もっていたものが、全部ほどけた気がした。


 春の風が吹く。


 空は青い。


 ライン川が静かに流れている。


 私は笑った。


 泣きそうなくらい幸せだった。


 そして、新しい季節が始まった。

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