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異国のカフェで、壊れかけた私を拾ったのは無愛想な菓子職人でした  作者: 深町 灯


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45話 雪解け

 三月の終わり。


 長かった冬が、ようやく終わろうとしていた。


 ライン川沿いの木々には小さな芽がつき始め、冷たかった風も少しだけ柔らかくなっている。


 私は川沿いのベンチに座っていた。


 隣には悠真さん。


 少し前まで厚手のコートが必要だったのに、今日は薄いジャケットだけで十分だった。


「春だね」


 私が言うと、悠真さんは川を見ながら頷いた。


「やっと」


 静かな返事。


 でもどこか嬉しそうだった。


 この数か月、本当にいろいろなことがあった。


 颯真との再会。


 日本へ帰るかどうかの迷い。


 将来への不安。


 自分自身との向き合い。


 何度も立ち止まりそうになった。


 それでも。


 今は少しだけ前を向けている。


「帰国、決めたんだっけ」


 悠真さんが聞いた。


「うん」


 私は頷く。


「来年の夏」


 言葉にすると、不思議と実感が湧いた。


 日本へ帰る。


 仕事も勉強も、また新しく始める。


 怖くないわけじゃない。


 でも以前ほど不安ではなかった。


「そっか」


 悠真さんは少し笑う。


「ユヅキらしい」


「何それ」


「悩むだけ悩んで、最後はちゃんと決める」


 私は思わず吹き出した。


「そんなイメージ?」


「そんなイメージ」


 川面がきらきら光る。


 遠くで子どもたちの笑い声が聞こえた。


 私はその景色を見ながら、静かに息を吐く。


「ねぇ」


「ん?」


「私、ドイツに来てよかったと思う」


 悠真さんがこちらを見る。


「最初は毎日帰りたかったけど」


「知ってる」


「知ってたんだ」


「顔に書いてあった」


 まただ。


 この人は昔からそうだ。


 何も言わなくても、気づいてしまう。


「でも今は」


 私は空を見上げた。


 高くて青い空。


 冬には見えなかった色。


「ここで過ごした時間、全部大事だったなって思う」


 悠真さんは何も言わなかった。


 ただ静かに聞いていた。


 その沈黙が心地いい。


 しばらくして。


「俺も」


 小さな声が聞こえた。


「え?」


「会えてよかった」


 時間が止まった気がした。


 私はゆっくり彼を見る。


 悠真さんは少しだけ照れたように笑っていた。


 胸が熱くなる。


 ずっと伝えたかった言葉が、喉の奥まで込み上げてくる。


 でも。


 今はまだ。


 この春の風の中にしまっておこうと思った。


 焦らなくていい。


 私たちには、まだ時間がある。


 雪は溶けた。


 そして、新しい季節が始まろうとしていた。

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