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異国のカフェで、壊れかけた私を拾ったのは無愛想な菓子職人でした  作者: 深町 灯


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25/50

25話 通知音

 翌日の夕方。


 カフェは珍しく混んでいた。


 エスプレッソマシンの音。


 食器の触れ合う音。


 ドイツ語と英語が入り混じる店内。


 私はレジ横で紙袋を折りながら、小さく肩を回した。


「疲れてる?」


 リサが心配そうに聞く。


「顔に出てた?」


「ちょっとだけ」


 私は苦笑した。


 昨夜、結局あまり眠れなかった。


 悠真さんと話したあと、余計に胸が落ち着かなくなってしまったからだ。


 好き。


 その感情を認めてしまった瞬間から、少し世界が変わって見える。


 でも。


 言えるわけがない。


 今の関係を壊したくなかった。


 その時。


 ポケットのスマホが小さく震えた。


 私は何気なく画面を見る。


 ――颯真


 一瞬、呼吸が止まった。


 数ヶ月ぶりの名前。


 心臓がどく、と強く鳴る。


「ユヅキ?」


 リサの声で我に返る。


「……あ、ごめん」


 慌ててスマホを伏せた。


 でも指先が少し震えている。


 休憩に入ってから、私はバックヤードでそのメッセージを開いた。


『久しぶり。

 まだドイツ?』


 たったそれだけ。


 なのに、昔の記憶が一気に蘇る。


 日本の駅前。


 コンビニ帰りの夜。


 長電話。


 曖昧な距離感。


 ちゃんと好きだったのかも分からない関係。


 でも、確かに特別だった人。


 私はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。


 どうして今なんだろう。


 もう忘れかけていたのに。


 スマホを閉じようとした瞬間、追加の通知が来る。


『来月、ドイツ行くかもしれない』


 胸がざわつく。


 嫌じゃない。


 でも、苦しい。


 その感情に自分で戸惑った。


 ――カラン。


 バックヤードのドアが開く。


「休憩終わりー」


 悠真さんだった。


 私は反射的にスマホを伏せる。


 その動きに、彼の視線が一瞬だけ止まった。


「……誰?」


 何気ない聞き方。


 でも妙に心臓が跳ねる。


「え」


「なんか顔、固まってたから」


 私は言葉に詰まった。


 隠す必要なんてないのに。


 なのに、うまく呼吸ができない。


「……日本の友達」


 嘘ではない。


 でも本当でもない気がした。


 悠真さんは数秒だけ黙る。


「そっか」


 それだけ言って、彼は視線を外した。


 たった一言。


 なのに。


 どうしてこんなに胸が痛いんだろう。

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