24話 深夜一時のホットミルク
夜中に目が覚めた。
時計を見ると、一時を少し過ぎている。
窓の外は真っ暗で、街灯の光だけが薄く滲んでいた。
喉が渇いて、私は静かにベッドを抜け出す。
床が少し冷たい。
廊下を歩きながら、ぼんやりため息をついた。
また眠れない。
最近、時々こうなる。
疲れているはずなのに、頭だけが妙に冴えてしまう。
キッチンへ行くと、小さな明かりがついていた。
「……あ」
悠真さんがいた。
黒いスウェット姿で、マグカップを片手に立っている。
「起きてたんだ」
「そっちこそ」
彼は少し驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。
「眠れない?」
「まぁ……ちょっと」
「同じ」
夜中のキッチンは不思議だ。
昼より静かで。
なんだか秘密基地みたいになる。
私は椅子へ座った。
「何飲んでるの?」
「ホットミルク」
「子どもみたい」
「うるさい」
でも彼は少し笑っていた。
「作る?」
「……ほしい」
悠真さんは冷蔵庫から牛乳を出して、小鍋へ注ぐ。
その後ろ姿をぼんやり見つめる。
コンロの火。
静かな音。
窓に映る夜。
「考え事?」
背中越しに聞かれた。
「うん」
「未来系?」
「なんで分かるの」
「その顔してる」
私は小さく笑った。
「そんな顔あるんだ」
「ある」
彼はマグカップへ温めた牛乳を注ぐ。
白い湯気がふわっと上がった。
「はい」
「ありがとう」
両手で包むと、じんわり温かい。
少しだけ安心する。
しばらく無言の時間が流れた。
でも不思議と気まずくない。
むしろ静かな方が落ち着く。
「ねぇ」
私がぽつりと言う。
「ん?」
「もしさ」
「うん」
「全部うまくいかなかったらどうしようって、考える時ない?」
悠真さんは少しだけ考えてから答えた。
「あるよ」
即答だった。
「あるんだ」
「普通に」
彼は向かいの椅子へ座る。
「でも、考えても未来変わらないしなって最近思う」
「達観してる……」
「してない。諦めがいいだけ」
「それ違う気がする」
私が言うと、彼は少し笑った。
「じゃあ何」
「……ちゃんと生きてる人の考え方」
一瞬、彼が黙る。
その沈黙が少しだけ長く感じた。
やばい。
なんか恥ずかしいこと言った。
私は慌ててホットミルクを飲む。
熱い。
「……それ、結構嬉しいかも」
小さな声だった。
私は顔を上げる。
悠真さんは困ったみたいに笑っていた。
その顔を見た瞬間。
胸が、静かに苦しくなる。
好き。
たぶんもう、かなり前から。
でも、その言葉だけはまだ飲み込んだままだった。




