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異国のカフェで、壊れかけた私を拾ったのは無愛想な菓子職人でした  作者: 深町 灯


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23話 夜のスーパー

 その日の夜。


 結局、私は悠真さんと一緒にスーパーへ来ていた。


「ネギってこっちだっけ」


「たぶん野菜コーナーの奥」


 ドイツの大型スーパーは、何度来ても少し迷う。


 天井は高いし、照明は明るいし、日本みたいに“ちょうどいいサイズ感”じゃない。


 でも、閉店前の静かな空気は少し好きだった。


 仕事帰りの人たち。


 疲れた顔。


 ワインを一本だけ買う人。


 大量のヨーグルトを抱えた学生。


 いろんな生活が、静かに混ざっている。


「スープ何味?」


 私がカゴを持ちながら聞くと、悠真さんは少し考えた。


「クリーム系」


「絶対寒い日に作るやつだ」


「今日寒いじゃん」


「まぁそうだけど」


 私は笑いながら牛乳を手に取った。


 その時。


「……あ」


 向こうの棚に、日本のインスタント味噌汁が並んでいるのを見つけた。


 思わず立ち止まる。


 悠真さんも隣へ来た。


「好き?」


「うん。なんか、疲れた日に飲みたくなる」


「買えば?」


「でも高いんだよね……」


 海外の日本食は、時々びっくりするくらい高い。


 小さな豆腐。


 薄い食パン。


 普通のポン酢。


 日本では当たり前だったものが、“ちょっと贅沢品”になる。


 私は棚を見つめながら、小さく笑った。


「前はさ、日本のもの見るとホームシックすごかった」


「今は?」


「……前より平気」


「慣れた?」


「どうなんだろ」


 少し考えてから答える。


「慣れたっていうより、“ここで生活してる”感じになったのかも」


 言葉にして、自分でも少し驚いた。


 生活。


 その言葉が、ちゃんとこの街に結びついた気がした。


 悠真さんは静かに頷く。


「いい顔してる」


「またそういうこと言う」


「本当だから」


 さらっと言うの、反則だと思う。


 私は誤魔化すみたいに歩き出した。


「早く行こ。閉店しちゃう」


「逃げた」


「逃げてない」


「はいはい」


 後ろから少し笑った声が追いかけてくる。


 レジを抜けて外へ出ると、冷たい夜風が頬に触れた。


 吐く息が白い。


 スーパーの袋を片手に歩きながら、私はふと思う。


 昔の私は、“海外生活”ってもっとキラキラしたものだと思っていた。


 おしゃれなカフェ。


 美しい街並み。


 異文化。


 もちろん、それもある。


 でも本当は。


 こういう夜なのかもしれない。


 誰かとスーパーへ行って。


 何を食べるか話して。


 寒いねって笑う。


 そんな、小さな日常。


「寒い?」


 悠真さんが聞く。


「ちょっと」


 すると彼は、少しだけ歩幅を緩めた。


 それだけなのに。


 胸の奥が、じんわり温かくなった。

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