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異国のカフェで、壊れかけた私を拾ったのは無愛想な菓子職人でした  作者: 深町 灯


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20話 「クリスマスマーケット」

 約束の日。


 リューベルの旧市街は、クリスマスマーケットの灯りで溢れていた。


 木の屋台。

 シナモンの香り。

 ホットワインの湯気。


 娘は目を輝かせながら辺りを見回している。


「ママー!見て!星のクッキー!」


「ほんとだ、かわいい」


 その横で、颯真さんが苦笑する。


「完全にテンション上がってるね」


「朝からずっとこの調子です」


 娘はすっかり懐いていた。


 最初は少し緊張していたのに、今では普通に話しかけている。


「颯真さん、ドイツ語しゃべって!」


「急だなぁ」


「グリューワインって言って!」


「そこ?」


 三人で笑う。


 まるで。


 本当の家族みたいだと思ってしまって、私は慌ててその考えを打ち消した。


 絶対だめ。


 こんなの。


 でも。


 今この瞬間が幸せなのも、本当だった。


 娘が屋台へ走っていく。


「ちょ、転ばないで!」


 私は慌てて追いかけようとした。


 その時。


 人混みの中で足を滑らせる。


「危なっ」


 腕を掴まれた。


 颯真さんだった。


 近い。


 近すぎる。


 冬の冷たい空気の中で、触れられた場所だけ熱い。


「大丈夫?」


「……はい」


 うまく顔を見られない。


 心臓がうるさい。


 颯真さんも少し黙ったまま、ゆっくり手を離した。


 その空気が妙にリアルで。


 私は息が苦しくなる。


「ママー!早くー!」


 娘の声で、私たちは同時に我に返った。


「行こっか」


「……はい」


 それからも三人でマーケットを歩いた。


 焼きアーモンドを食べて。

 娘がオーナメントを選んで。

 観覧車を見上げて。


 幸せだった。


 だからこそ怖かった。


 帰り道。


 娘は疲れて、電車の中で眠ってしまった。


 私は小さな体を抱き寄せる。


「寝ちゃったね」


「いっぱい歩いたから」


 窓の外には、流れていく冬の街灯。


 静かな車内。


 その時、颯真さんがぽつりと言った。


「今日、楽しかった」


 私は胸が締めつけられる。


「……私もです」


 言った瞬間。


 颯真さんが、少しだけ困ったように笑った。


「困るな」


「え?」


「これ以上、好きになりそう」


世界が止まった。


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