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異国のカフェで、壊れかけた私を拾ったのは無愛想な菓子職人でした  作者: 深町 灯


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19話 「雪の日の約束」

 数日後。


 リューベルにはまた雪が降っていた。


 私は娘を学校へ送った帰り道、カフェの前で立ち止まる。


 白い息。


 曇った窓。


 中から見える暖かい灯り。


 ――少しだけ寄るだけ。


 自分に言い訳しながら、私はドアを開けた。


「いらっしゃい」


 颯真さんはカウンターの奥で焼きたてのクロワッサンを並べていた。


 バターの香りが店いっぱいに広がっている。


「今日すごい匂いですね」


「朝から焼きすぎた」


「幸せの匂いです」


 私がそう言うと、颯真さんが小さく笑った。


「その表現、いいね」


 私は窓際の席に座る。


 雪を眺めながら飲むラテが、最近の小さな楽しみになっていた。


 それが危ないことだと、ちゃんと分かっているのに。


「娘さん元気?」


「昨日、学校で雪合戦したらしいです」


「ドイツの冬満喫してるなぁ」


「子どもの適応力ってすごいですよね」


 そんな何気ない会話が、心地いい。


 静かで。

 無理がなくて。


 私はふと気づく。


 ここでは、ちゃんと笑えている。


 その時。


 颯真さんがカウンター越しに聞いた。


「クリスマスマーケット、もう行った?」


「まだです」


「え、絶対行った方がいいよ」


「でも一人で行く勇気なくて」


 言った瞬間、少し後悔した。


 “寂しい人”みたいだったかもしれない。


 でも颯真さんは自然に言った。


「じゃあ今度一緒に行く?」


 時間が止まった気がした。


 私は目を瞬かせる。


「……え?」


「昼なら混んでないし」


 軽い口調。


 でも私は、胸の奥が一気に熱くなる。


 それって。


 それは。


 “二人で出かける”ってことだ。


 私はカップを持つ手に力を入れる。


「娘も一緒なら」


 気づけば、そう言っていた。


 颯真さんが少しだけ笑う。


「もちろん」


 その笑顔に、ほっとする自分と。


 少しだけ残念に思う自分がいた。


 窓の外では雪が静かに降り続いている。


 私はその白さを見つめながら、

 もう後戻りできない場所まで来ている気がしていた。

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