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異国のカフェで、壊れかけた私を拾ったのは無愛想な菓子職人でした  作者: 深町 灯


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15話 「奥さんたちのランチ」

 「今度ランチしません?」


 そのメッセージが届いたのは、翌日の朝だった。


 送り主は、昨日カフェで会った駐在妻の一人。


 私はスマホを見つめたまま固まる。


 嫌ではない。


 むしろ、普通ならありがたい誘いだ。


 リューベルに来たばかりの頃は、そういう繋がりが欲しくて仕方なかった。


 でも今は。


 胸の奥がざわつく。


 ――昨日のこと、何か思われてるかな。


 そんな考えが浮かんでしまう。


「ママ、パン焦げてる!」


「あっ」


 慌ててトースターを開けると、黒くなりかけた食パンから煙が上がっていた。


 娘がくすくす笑う。


「ぼーっとしてるー」


「最近多いよねぇ」


「恋?」


「ち、違います!」


 思わず大きな声が出た。


 娘はきょとんとしてから、さらに笑う。


「冗談なのに」


 私は耳まで熱くなるのを感じながら、焦げた部分を削った。


 数日後。


 私は駅近くのホテルラウンジにいた。


 駐在妻のランチ会。


 綺麗な服装。

 丁寧なネイル。

 上品な笑い声。


 みんなちゃんとして見える。


「ユヅキさん、ドイツ語学校行ってるんですよね?」


「はい、少しだけ」


「えらーい。私もう諦めました」


 そんな会話をしながら、私はどこか落ち着かなかった。


 話題は自然と、

 夫の会社、

 一時帰国、

 子どもの塾、

 おすすめ美容院へ流れていく。


「旦那さん忙しいですか?」


「最近ずっと出張で」


「あー、うちもです」


 笑い合う空気。


 なのに私は、少し息苦しい。


 その時。


「そういえば祐月さん、あのカフェよく行くんですか?」


 空気が一瞬止まった気がした。


 私はグラスを持つ手に力が入る。


「……たまにです」


「店長さん日本人ですよね?」


「かっこよくない?」


 別の人が笑いながら言う。


 みんなも軽く笑う。


 ただの雑談。


 ただそれだけ。


 なのに。


 私はなぜか責められている気持ちになった。


「コーヒー美味しいですよね」


 できるだけ普通に返す。


「ですよねー!」


 話題はすぐ別へ移った。


 けれど私は、その後ほとんど味を覚えていなかった。


 帰り道。


 冷たい風が頬を刺す。


 気づけば私は、無意識にカフェの前まで来ていた。


 扉の向こうに、暖かい灯り。


 逃げ込むみたいだ、と思う。


 それでも。


 私は静かにドアを開けた。

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