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異国のカフェで、壊れかけた私を拾ったのは無愛想な菓子職人でした  作者: 深町 灯


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14話 「曇った窓」

 翌朝。


 窓ガラスは白く曇っていた。


 娘を学校へ送り出したあと、私はしばらく玄関の前で立ち尽くしていた。


 ……行くの?


 スマホには昨夜のメッセージ。


《新しいケーキ試食してほしい》


 たぶん、本当にそれだけの意味。


 でも私は、その一文を何度も読み返してしまっている。


 結局。


 気づけば、いつものカフェの前に立っていた。


 ドアを開けるベルの音。


 颯真さんが顔を上げる。


「来た」


 その言い方が、少しだけ嬉しそうで。


 私は胸の奥が落ち着かなくなる。


「試食係ですから」


「責任重大だな」


 カウンターに並んでいたのは、小さな苺のタルトだった。


 白いクリームの上に、赤い苺。


 雪の日の色みたいだと思った。


「かわいい……」


「味は?」


 一口食べる。


 サクッという音と一緒に、甘酸っぱさが広がった。


「……美味しい」


「ほんと?」


「これ絶対人気出ます」


 颯真さんがふっと笑う。


 その笑顔を見るたび、困る。


 心が静かじゃなくなる。


 私は誤魔化すようにコーヒーカップへ視線を落とした。


「名前は決めたんですか?」


「まだ」


「じゃあ、“初雪”とか」


「安直すぎない?」


「えー、いいと思ったのに」


 思わず二人で笑った。


 その瞬間。


 カフェの入り口のベルが鳴る。


「こんにちはー」


 入ってきたのは、日本人の女性二人組だった。


 私は一瞬で姿勢を正す。


 駐在妻らしい、綺麗な服装。


 なんとなく視線が気になった。


「あれ、祐月さん?」


 片方の女性が私に気づく。


 娘の学校で何度か会ったことのある人だった。


「あ……こんにちは」


「よく来るんですか?ここ」


「たまに……」


 自分でも分かるくらい、声がぎこちない。


 女性はにこやかに笑う。


「このカフェ人気ですよね。旦那さんと?」


 一瞬、言葉が詰まる。


「……ひとりです」


 その空気を察したみたいに、颯真さんが自然に口を挟んだ。


「新メニューの感想聞いてもらってたんです」


「へぇー」


 女性たちはそれ以上何も言わなかった。


 でも。


 “何も言わない”ことが、逆に少し怖かった。


 私は急に居心地が悪くなる。


「……そろそろ帰ります」


「え、もう?」


 颯真さんの声が少しだけ低くなる。


「娘帰ってくるので」


 私はバッグを掴んで立ち上がった。


 外に出ると、冷たい空気が頬に刺さる。


 曇ったカフェの窓越しに、颯真さんの姿がぼんやり見えた。


 近いはずなのに。


 急に遠く感じた。

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