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90.大型浴場

 約一ヶ月ぶりにキッタカールに帰ってきた。少し見ない間に本当に大きく変わっていた。

 帰路でノエルに話を聞いていなかったら別の場所に帰ってきたかと勘違いしてしまったかもしれない。


 キッタカールの最奥にある屋敷でハーピーの籠を降りることもできたがノエルの指示で以前の村の入口の前で降りることになった。


「タロウ様、どうです、びっくりしました?」

 ノエルが自信満々に聞いてくる。一年前に比べるとこういうところは大きく成長したように感じる。


 自信満々に聞くだけあって、確かに驚かされた。

 まず今までの入口の南側に第二区画が整備が終わっていた。オークやゴブリン達の居住区の移動も完了したようだ。

 エミルが声をかけて移住してきた人たちの仮設住居も第一区画に見える。


「はい、びっくりしました。ここまで新しい区画の整備が完了しているとは思いませんでした」


「そう言ってもらえると私も頑張った甲斐があります!」


「住人全員で頑張ったのが伝わりますよ!」


 この世界の住居は水道やガスの配管やテレビやネットのケーブルが来ているわけでは無いので建物の移設はそれを運ぶ腕力と人手、再度組み立てる技術があれば元の世界より比較的簡単にできる。実際にリリ達の研究所もそうやって移設してきた物だ。

 オーク達が基本的に建物の移設の要になのだが、ノエルの魔法の手も本来やりにくいことを解決するのに大きな助けになっている。恐らくノエルがいないとここまで早くはできないだろう。


「さぁ、お楽しみはこちらですよ! 行きましょう」


 ノエルに連れられて現在は第一区画になった地区を進んでいく。

 帰路で話に出ていたズサが管理する宿屋も食事処も完成していた。予想していたよりも立派な建物に仕上がっていて驚いた。


「この二つの建物も立派ですね。外から来る人達にも喜んでもらえそうです。これが俺を驚かせたいことですか?」


「こちらも驚いては貰いたかったですがそうではないですよ」


 ノエルはそう言って東側の湖に続く道へ俺を連れていく。こちらは俺の家や公衆浴場、リリ達の研究所やドワーフ達の工房がある方向だ。

 しかし、俺の家や公衆浴場は見えるのだが、研究所や工房が見当たらない。


「リリ達も区画整備に合わせて引越したのですか?」


「もうすぐ分かりますよ!」


 ノエルが嬉しそうに笑いながら先を促す。

 すると少し先に変わった建物が見えてきた。


「あんな建物、計画にありましたっけ?」


「あそこが目的地ですよ! さぁ、行きましょう」


 ノエルに連れられて新しい建物に入る。

 そこにはリリとティケット、ドワーフ達が待っていた。


「こちらが新しく建設した複合施設になります!」

 ノエルがそう言うと他のみんなが拍手をした。


「タロウさん、ここは私たちの薬の研究所とドワーフさんたちの鋳造所と酒造の研究所を合わせたものになります! そして火をいつでも使えるようにとゴミの焼却炉を作り、そこでタロウさんが不在の時にも火を使いやすくしました」


「そこで発生した熱を使ってお湯を沸かして今よりもたくさんの人が使える大浴場を作りました」

 リリの説明をノエルが補足してくれた。


「ただ、それをするためにはレンガも足りないので私たちの家の素材を解体して使ってもらいました」


「ティケット達はそれでよかったの?」

 ティケットの説明に俺は質問した。


「大丈夫です。元の建物にも長く住んでいたわけではありませんし、より良い施設になるなら使ってもらった方が嬉しいです」


 今までキッタカールでは資源も無く様々なものを循環させていたので燃やすようなゴミが発生することはなかった。しかし、人口が増え少し豊かになってくると燃えるゴミが出てきてどうするかが課題だったのだ。

 それにしてもゴミを燃やす火の熱を温浴施設に活用するのは元の世界でもあったし、とてもよく思い付いたと思った。


 建物としてはゴミの焼却施設が半地下になっていて、その上に大型の公衆浴場がある。水を水路から引き込み使ったら返す仕組みもちゃんと設計されているようだ。

 その北側にドワーフの施設、南側にリリとティケットの施設がある。リリ達の施設の外には下水の浄化する設備は堆肥を作る場所もある。これは不快な臭いをどうやって軽減するかの研究をするための場所なのも兼ねている。


「これで鉄鉱石の加工も酒造もしやすくなって助かったぞ」

 ドワーフ達が大きく笑った。


「それでタロウ様にはこの施設長になって欲しいです。今は執政官補佐ですが、ジョルジュの補佐よりも他の仕事の方が多いですし、こういう場所での働きの方が合っていると思いまして」

 確かに今の俺は執政官補佐というよりは浴場の管理人だ。


「それはもちろんありがたいのですが、俺は鋳造も酒造りも薬の研究も何も分からない素人ですよ? 大丈夫でしょうか」


「わし達は火をたくさん使う。タロウが長になって火を管理してくれるならありがたい」


「私たちも何も問題ないよ、ね?」


「はい、問題ありません」


 リリとティケット、それにドワーフ達もそれで大丈夫なようだ。


「それでしたら、その話受けさせていただきます」


「こちらの施設の火炎石はキッタカール総合研究所という名目で街のお金から購入しましたので、ご安心ください」


 火炎石で思い出したのだが、元の施設はどうしたものか。

 それならと今思い付いた考えをノエルに伝える。


「元の施設なのですが、少し改良してこの建物の近くに移設させてもらえないでしょうか? 浴場の部分は四分の一くらいにして今後も来るであろうモニカ様も含めた王族専用の浴場にして、残りの部分は改良して王女宮にある宿舎のような作りにしましょう。そこで今後王都から送られてくる生活用魔道具を試す場にするのです。そうすれば私も研究所所長らしく魔道具へ魔法を注入しながら使い勝手を試すことができて、少しは所長らしくなるかと思いまして……住む場所は宿舎の二階部分を使わせていただけたらと思います」

 これは所長という肩書きを少しでもそれらしくする言い訳と魔道具を使える家を自分の住処にすれば生活が少し豊かになるだろうというズルい算段はあった。


「それはいいですね! 魔道具のことはどうしたらいいな悩んでいたのでタロウ様がそうおっしゃってくれるなら活用もできそうですし、是非早速取り掛かりましょう!」


 ノエルは大賛成してくれた。

 王都で経験したことによってキッタカールでの俺の生活環境はかなり上昇しそうで楽しみだ。

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