89.キッタカールの大型開発
サディックと飲んだ翌朝は二日酔い気味で迎えた。転生前からそんなに酒に強くなかったのだが、昨日は久し振りに楽しい雰囲気を感じて飲み過ぎてしまった。
城へ向かいメルチェや他の王女へ挨拶をしてキッタカールへ帰る。
「まだ何が起こるか分からないから、くれぐれも油断することのないように。それと気になることがあれば常に通信石で連絡を取り合うこと」
別れ際にメルチェはそんなことを全員に伝えていた。
王都からキッタカールへはハーピーの空路で戻ることになった。
籠の乗り心地に慣れれば移動時間がかなり短縮されるので有り難い。
「改めてブラメロの戦い、王都でのお勤め、お疲れ様でした」
「いや、俺はどこでもそこにいただけなので。ブラメロはタモツの活躍が大きかったです」
「そんなことないですよ。タロウ様がいることでみんな心強く思ってるのですよ」
今回こそそんなことはないと思ったが、ノエルがそう言うなら否定をするのも申し訳なく思うのでお礼を伝えた。
「ありがとうございます。それにブラメロと文化交流ができることになったのも嬉しいですね」
ミネスが言うにはヨーンに支援を受けていた若手芸術家達の中には今の住居の家賃を払えなくなりそうな者達がそれなりの数でいるとのことだった。一時的にブラメロで支えるにしても限界があるので受け入れ先を探していたのだ。
ノエルとミネスの話し合いによって、キッタカールも裕福なわけでは無いが簡易的な居住の提供と他の仕事も手伝うことで数人受け入れることになった。ノエルが言うには宿屋や食事処を分離させて大きくする工事を行っているので、食事処で踊りや音楽を提供する場を作りたい構想があり、そこで活躍してもらいたいそうだ。とても良い案だと思うので俺は賛成した。
「ブラメロから来る人たちも慣れない環境で不安かもしれませんが、新しい風を吹かせてくれるのを楽しみにしてます」
「俺もそう思います。楽しみですね」
「キッタカールはどんどん大きくなっているので、管理するのも大変になってきそうです。ジョルジュには頑張ってもらわないといけませんね」
ノエルはそう言って嬉しそうに笑った。
宿屋、食事処、よろず屋を今まで一つの建物でズサたちが管理していたものをそれぞれに分離して個々の施設を大きくする。今まで使っていた建物はゲオルグの家族の時や今回のブラメロからの芸術家達の移住時の一時的な仮住まいとして使用する予定になっている。
実は外部からの移住希望者が増えてきているので、この仮住居は必要だったのだ。ブラメロで学んだのだがこの世界はまだまだ都市が発展をしているわけではないので、ゲオルグの家族のように単体の一族で住んでいたり二十から三十人の小規模の集落で暮らしている人たちも、この世界には多い。それでキッタカールが発展したことでキッタカールの作物を襲っていた野生の獣が他の地域へ移り作物を荒らすようになってしまっていたのだ。それで保護を求めてキッタカールへ移住を希望する人たちが増えてきた。もちろん、その反面キッタカールを恨んでいる人たちもいるようだが王女が治める地ということであからさまな反発をしてくる人はいない。
では、土地は大丈夫かというと、元々移住者を増やす想定で水路の工事をしたのだが牧場のことを考えていなかったので手狭になってきていた。ゲンサンとグリーンのことを慕ってゴルド王国内のほぼ全てのオークとゴブリンがキッタカールに集まってしまったらしいので区画の拡張もちょうどいいタイミングだった。
そこで、今の外側に第二区画を作りオークやゴブリン、ハーピー達と一部の人間はそちらに移住してもらった。エミルが区長に就任し管轄することになり、魔獣の出現は止まらないのでキッタカールの防衛の前線になることからブライを隊長として防衛隊も発足しそちらに拠点を作った。
少し前からオークやゴブリンをエミルは上手くまとめてくれている。エミルは自身の魔法を活かして彼らと協力して北の管理区域内で孤立している集落がないかの調査も始めていて外側に自身の拠点を作れることは喜んていた。
ゲオルグ達のような家畜を伴った移住者も増えてきていた。そこで湖から水路を作った時に誕生して活用に困っていた三角州を牧場として活用することになった。水路に囲まれているので外からの魔獣の襲撃も簡単に受けることはないだろうし、土地としてはかなり広い。使わない手はないということでそう決まった。
合わせて道や橋の整備も進んでいっているとノエルは言った。
「一年前、私が来た時は何もない土地だったのに今ではどんどん街になってきています。あの時、タロウ様が道を照らしてくれたおかげです」
ノエルはそう言って両手で俺の手を握った。不意だったので俺は少しドキドキしてしまった。
「俺もただあの時こちらの世界のことを知らなくて必死だったんですよ。今考えると失礼なこともあったと思います。それは申し訳ありませんでした」
「そんな頭を上げてください。私は本当に感謝してるのですよ。実はタロウ様への日頃のお礼とこちらの世界で一年を過ごした記念で贈り物を用意してあります。キッタカールに帰るの楽しみにしていてくださいね!」
何やらノエルからのサプライズがあるようだ。ここで言ってしまうからサプライズじゃないのかもしれないし、この世界にはサプライズという概念はないのだろうと思い直した。
どちらにしても楽しみだ。




