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88.団長

「まだ時間あるなら少し付き合ってよ。こんなところじゃなくていいから普通に飲み直そうよ」

 助けた少年からそう提案された。

 歓楽街の飲み屋の様子も気になったが、それよりも気になることがある。


「いや、君、お酒飲んでいい年齢なの?」

 この世界の詳しい法律までは知らないがノエル達の振る舞いを見てると一定の年齢まではお酒は飲んではいけない法律がありそうだった。

 それともこの少年はそういう法律は無視して酒を飲むタイプなのか。まぁ、元の世界にもそういう人間はいるし、こちらの世界の方がもっと多そうだとも思った。


「お兄さんたちもさっきの奴らも勘違いしてるけど、僕はこれでも三十歳なんだよ」


「えっ?!」

 こちらの世界に来てからある意味一番の衝撃だった。あまりに驚いて声が出てしまった。元の世界よりは日数が少ないから自分の感覚よりは若いのだろうが、それにしても若過ぎる。ノエル達とそんなに変わらないように見える。


「まぁ、驚くよね。だから気にせずに飲みに行こう。助けてくれたお礼に奢るからさ」


 俺たちは先ほど飲んでいた店へまた戻ってきた。


「えーっと、それであなたはフラン様やサクラさんとどういう関係なんですか?」


 ビールと思われる麦酒を三杯とつまみになりそうなものを注文してから俺は早速切り出した。


「どうしてだと思う?」

 少年だと思われた男性は問い返してきたが分かるわけがなかった。


「もしかして、フラン様……と兄弟ということはないでござるから、サクラ殿と兄弟とかでござるか?」

 タモツがとんでも推理を展開していたと思ったが、ありえないことでもないのか。


「残念、ハズレ」


 俺たちが全然答えられそうにないので男性は答えらしきものを出してきた。


「ベルモスのサディックって知らない?」

 男性がそう言っても俺もタモツもピンとこずに黙ってしまった。


「あれ? こう言っても分からない? お兄さんたちゴルドやフィルニアの人じゃないの? ブリタから来た人?」

 やっと知ってる単語が出てきた。タモツは俺より日が浅いからガルメロに接しているブリタはともかくフィルニアは分かってないかもしれない。


「じゃあ、武装商団は分かる?」

 それは分かるから俺は頷く。


「ベルモスは東の領の地名、武装商団の団長の名前がサディック。僕が武装商団の団長ってわけ」


「えーっ?!」

 俺は年甲斐もなく大きな声で驚いてしまった。この世界に来て一番驚いた内容を更新してしまった。


「タロウ殿、武装商団って何でござるか?」

 タモツの質問にサディックと名乗った男が俺の代わりに説明してくれた。

 東の国フィルニアは連邦共和国で紛争が絶えないこと、そこと貿易をするために危険を伴うために武装していること、人間だけでなく魔獣と戦うほどの強さを要していること、それらを分かりやすく伝えてくれた。さすが交渉ごとにも長けている商人たちの長だ。


「なるほどでござるな。まだまだこちらの世界には知らないことが多いでござる」


「こちらの世界って……おにいさん達、転生者?」

 タモツの呟きにサディックは反応した。武装商団の長なら転生者に関する知識も一般の人よりは持っているだろうし隠すよりも情報を伝えておいた方が後々得かもしれない。


「実はそうなんです。隠していたわけでもなくてすみません。俺はキッタカール、彼はブラメロで普段は暮らしてます。色々あってキッタカールには元武装商団のズサが暮らしてます」

 俺はズサがキッタカールに来た経緯も説明した。


「あいつは戦うのも商人としても良かったけど、うちの団には合っていなかったからなぁ。うちの中で罪を犯したわけじゃないなら去るものは追わないし、今元気にやっているならそれでいいよ。戻ったら僕に会ったことを伝えておいてよ」


「明日には王都を立ってキッタカールに戻るので、彼に伝えておきます」


「今回、王都に来ていたのは少し前にベルモスに魔人が複数襲来してきてその撃退に協力した報酬を貰いに来たんだよね。フランやサクラが来てるのは知らなかったんだ。それで王都に来たついでに情報収集をしてたところでお兄さんたちに会ったんだよ。別に女の子のいる店で飲みたかったわけじゃなくて……」

 サディックは最後の方言い訳っぽくなっていたが、何やら理由があるらしい。お酒が進んでるからかサディックは一人で話続ける。ただ、武装商団の団長だ、これも交渉の時の演技かもしれない。


「さっき言ったんだけどさ。団の中で罪を犯した奴は団で裁かないといけないんだけど、逃げたまま見つからないんだよ。僕たちは武装してるけど戦争をしたいわけじゃないんだよ。武装するのは自分たちの身を守るため。それなのに武器を横流ししていた馬鹿がいて。情けないことに気付いた時には逃げられちゃって。何か知ってることある?」

 サディックの問いかけに俺もタモツを横に首を振るしかなかった。


「そうだよね。もし何か少しでも見聞きしたら教えてよ」

 サディックにそう言われたものの、どうやって伝えたらいちのか分からない。


「あぁ、うちにこの国の商人はどこかしらでうちと繋がるからお兄さんたちの街に出入りしてる商人にでも伝えてよ。そっちのお兄さんはズサに伝えてくれたら早いかも」

 そう言ってサディックは俺を指した。


「ここの代金は僕が出すからよろしくね。それにしても転生者と知り合えてついてるなぁ」

 サディックはそう言って酒を飲み続けた。


 悪人では無いのだろうが、武装商団のサディックに奢られたことで今後余計なトラブルに巻き込まれないことを願いたいと重いながら、俺はタモツと共に宿に戻った。

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