第160話 守るための覚悟⑤
『ブッ壊れろッ!!』
『崩れろ』
命令と翻訳魔術の合体技がハルマへ走る。
駆け抜けた跡を粉砕するほどの圧を前にしても、古英雄は涼しい顔を崩さない。
「似たような台詞を言わないでほしいんだけど」
「ッ、やっぱダメか!」
「攻撃が来る。『防御しろ』!」
「みてェだな。『留まれ』!」
「何度やっても無駄だって」
「つっ……!」
「ぐぁああッ!?」
いつ出したのか、ハルマは王の鎧を身に纏っていた。
最強の装備から放たれた不可視の攻撃を喰らい、ミライとキョウヤが純白の神殿の外へと吹き飛ばされる。
「きょーやぁ!!」
「ッ、問題ねェ……けど、流石にアレ出すしかねェな」
「大丈夫。今ので大体わかったから」
「何が!」
「アイツの能力。動きを止める命令が効かず、防御系の魔術は効いた。つまり命令を無視する手段があるか、停止系を無視する力がある」
「死ねって命令も効かなかったしな。命令無視なんて、相性最悪じゃねェか」
「だから出すんでしょ。私には予知がある、問題ない!」
「じゃ……遠慮なくいかせて貰うぜ!」
キョウヤが心臓の辺りで握った拳から、血色の光が溢れ出る。
「叛逆、装備ッ!!」
それは泥のように肉食獣を包み込み。
やがて魔焔と化し、恐竜を模したフルアーマーを創り上げた。
「ブッ殺してやるよ……『ナカジマ』ァ!!」
「魂殻を出したところで結果は同じなのに」
魂殻と呼ばれる最強装備にはデメリットがある。
ヒロの装備は、気持ちを常に強く保っていなければ装着者を苦しめてしまう。
ミライの装備は、未来の様々な可能性が見えてしまうため脳に負担がかかりすぎる。
そしてキョウヤの装備は、ミエコ以外の全ての人が宿敵に見えてしまうのだ。
『死ね!!』
「無駄」
『貫き、爆ぜろ!!』
「っ、これは痛いな」
その分、能力を極限まで引き出せる。
おかげで耳栓などの対策も通じず周囲も巻き込まない、そんな利便性の高い能力へと昇華させていた。
『月まで、ブッ飛べ』
「この世界に月はないでしょ、ッ!?」
圧倒していた。狂戦士の重い一撃が刺さり続け、古英雄の身体を彼方まで吹き飛ばしてゆく。
「ッ、痛ェなァ!」
「カウンター……あんな短時間で出来るわけない。つまり」
「何かわかったの!?」
再びミエコを背負ったミライが、確信めいた口調で宣告する。
「うん、アイツの能力がわかった気がする。『時間』と『死』に関する能力。死んだら直前まで戻れるし、時も止められる。なんなら装備を出しているときは、未来も読んだりしてるかもしれない」
(流石にバレていたか。たしかに俺は、今日だけで五千万回は死んでる。アイツの命令だって何度も死んだり、有効期間が切れるまで時を止めるなりしてやり過ごしていた)
ハルマの表情が少し険しくなる。
「けど、何のために吹っ飛ばされたと?」
「っ、シノハラ!」
「無駄だって言ってんだろうが、ナカジマ共がァア!!」
ハルマの狙いは、わざと異世界人が密集する地域に吹き飛び、指名手配中の敵を襲わせることだった。
目論見通り、魚人や包帯人間たちが狂戦士へ襲いかかり、そして返り討ちにされてゆく。
「ッ、しまっ、た……」
「ぅう、私も、時間切れ……!」
だが魔力と体力の消耗が激しすぎた。
二人の装備が強制解除され、一気に形勢はハルマへと傾いてしまう。
「凡夫にしては、よくやったと思うよ」
「テメェ……」
「俺は死にたくないんだ。上界へ召される前からずっと。だからそろそろ君たちのことも、始末させてもら」
「二度も同じ手が通じると思ってんのか?」
「ん?」
瞬間。ハルマの背に走ったのは、心臓を突き刺すほどの殺意。
「あは〜?」
「っ、確かに人間体は気になってたけど。俺より強くない?」
二人ともマオの位置はわかっていた。だからこそ、あえて相手の作戦に乗ったのだ。
既にヒロへ仕掛けたことだ、通じるはずもない。
「で、こいつ倒せばいいんだよね?」
「足止めで構わない! 私の最終奥義を十秒以上刺せば、死に戻りされずに倒せるはず!」
「自分から手を明かすんだ」
「問題ないよ。だって」
マオが付け足すように宣言する。
「わたしたちが、貴方を完膚なきまでに殺すから」
「怖いな。君、モテたことないでしょ」
黒き古英雄と白き魔王。
最強の転生者による人類を守るための決戦が、いま始まろうとしていた。




