第159話 守るための覚悟④
「最適解と?」
「ああ、そうだ」
改めて俺は宣言する。
「なるほど嘘偽りでは無い、眼を見れば解る。天下無双の鎧よりも、一糸纏わぬ姿のが強いと、本気で信じている」
「今は、だ」
流石にフォタァザ相手だと無理がある。
だが今は、これこそ最適解なのだ。
「フッ……唯の童だったはずが、まさかここまで化けるとは」
御先祖が改めて刀の先を俺の首に向ける。
「我こそは城山家が当代、城山獅狼也! 久方振りに対峙する強者への礼儀とし、我が武の全てを以て相手しよう!!」
「中嶋尋。貴方の血を受け継ぎし、城山真央の彼氏だ。未来永劫、命より大切な彼女を守るため。人生の全てを集約し、全力の貴方を越えてみせる!!」
そこからは、ただ一心不乱に斬り合った。
プロキア兵士団の鉄剣は、二撃だけ耐えてくれた。転生者と渡り合ってきた業物なのだ、ただで折れるはずもなかった。
多分、俺のほうが多く剣を当てられたのだろう。それでも、俺のほうが圧倒的にダメージは大きい。
あっという間に肉が削がれ、脚は捥がれ、腕は弾け飛んだ。
「――――――ッッ!!」
だが、最後に放った技が決まり手となった。
それは残った片脚で跳び、声にならないような叫びと共に放った、武術もへったくへもない、原始的な首元への噛みつきだった。
意識は無かった。ただ真央の御先祖を倒す。その想いだけが、気を失った身体を動かしていたのだ。
「……天晴」
そう、俺を讃える声だけが聞こえ。
俺の身体は、動かなくなった。
〜〜〜〜〜〜
「……んぅ」
(よかった。目を覚ましてくれた)
どれくらいの時間が経っただろうか。教皇国の世界には昼夜の概念がないのか、いまも銀灰の空が広がっている。
だが俺は、五体満足で身体を軽々と動かせていることに驚いていた。
「腕と脚が、治ってる」
「当然だ……拙の遺物とやらを、渡したのだから」
そして、側で息を荒げて倒れている、真央の御先祖。
「それじゃあ、貴方は」
「ああ……『不死の生命』は終わりを迎える」
そうか、俺は示せたのか。
だけど、それが意味することは。
「そんな顔をするな、最高の終わりだ。受けた第二の生にて、君のような気高き若人に……我が子孫を任せられたのだ」
「……最初から、それが願いだったのでしょう」
「さて、な」
御先祖の身体がマナへと化してゆく。
満ち足りた故か、不死の能力が発動することはない。
「真央は俺が必ず幸せにします。彼女の幸せが、俺の幸せだから」
「……ああ。我が子孫を、頼ん、だ……」
そのまま俺は、大気に溶けていった侍を見送るように、天を仰いだ。
(これで、本当に良かったの?)
「ああ。行こう」
願いを背負い、改めてフォタァザの神殿へと向き直る。
「ん、あれ。そういえばエリサは?」
(それが……)
ニグアスが渋るように、口を開く。
すぐさま全身に緊張が走る。すぐさま狩人装備を纏い、神殿へと急いだ。
〜〜〜〜〜〜
極限を超えたヒロは、シロウの剣戟を殆ど見切ってみせた。
そのうえで針を通すように攻撃を当て続け、手脚をもがれようとも最後には勝利を掴み取ったのだ。
ワタシは彼の回復を信じて、いち早く神殿へ直行している。
囚われたキョウヤと、彼を助けんと動くミエコが心配でならなかったのだ。
「もっと速く、走って!」
「うるさいよ子泣きババア」
「ばぁっ!?」
身体能力で劣るゴスロリは、ミライやキョウヤに背負われないとすぐに引き離されてしまう。
にも関わらずワガママを放ち続けていたのか、ストレートな悪口で返され目に涙を浮かべていた。
「そろそろ着くから黙ってて」
「よ、よし。突撃ー!」
「正面から行くわけないでしょ」
「ひゅい!?」
水晶で造られた神殿を前にしたミライが大きく跳躍し、三階へと突入する。
そのまま中にいる者たちの心を読んで最適なルートを割り出し、気配を断ちながら突き進んでゆく。
「っ、やっぱりバレてるよね」
「何あの黒いのぉ!?」
「サリエラ……に憑依した神様の作った世界だと思う。呑み込まれたら最後、二度と出れないかも」
「や、や!!」
「誰だって嫌だよ。だから、ここからは藍情装備で予知しながら進む!」
海色の輝きが水晶に反射し、吟遊詩人の装備が顕現する。
急激に向上した身体能力と予知能力を行使し、強引に、かつ冷静に迷路のような狭い神殿の道を突き進み。
「サリエラッ!!」
「きょーやぁああああっ!!」
脆い水晶を砕いて、神の座する最奥部へと飛び込んだ。
「来たか。アルテンシアの転生者たち!」
「知ってたくせにッ!」
フォタァザが空間を割き、そこから悍ましい蟲のような生命体が溢れ出す。
異形たちは急速に落下しゆくミライを迎撃しようとするが、最強装備を纏う彼女の前では、ただ灼かれることしか出来なかった。
「……しつこいな。油汚れみたいだ」
「意味わかんないよぉ!」
「コイツに言われたらお終いじゃないの」
「黙れよ。というか、お前もさっきから何を念仏みたいにブツブツと」
ハルマが苛立ち混じりに、水晶の枷をはめられたキョウヤの方を向く。
そして同時に、目を見開いた。
「……フォタァザの魔水晶だぞ? そんなアッサリと」
「ずっと命令してたんだよ。いつでもぶっ壊せるように、なッ!」
「悪足掻きを、ッ!?」
解放されたキョウヤの突撃に、ハルマの反応が少し遅れた。
ヒロから受けたダメージが回復し切っていない。数千年振りに傷を受けたためか、慣れ切った身体が思うように動かなかったのだ。
「捕まえた」
肉食獣の右腕が古英雄を掴む。
「そんなことをして何に」
「何かになンだよ。目的はテメェだからな。そうだろ?」
同時に余った左腕が、翻訳者の伸ばした手を取った。
「今っ!」
「わ、わァーーーーッ!」
命令すると同時に、ミエコが片手をバッと開き、情けない声を大きく上げた。
瞬間、風を切る音と共に転生者たちの姿が消える。神殿には、古代より祀られし神しか残されていなかった。
「レティシアさんがやってたことの応用、上手くいってよかった」
「ひぃ……ひぃい」
「そこまでして勝ちたい? 訳がわからないんだけど」
辿り着いたのは、アルテンスの神殿。
予めマーキングのために残していた糸と、自分たちを含めたミライの身体を合成したのだ。
糸も元はミライの能力由来のため、合体による副作用は全くない。
ただ、キョウヤを救出したうえでハルマとフォタァザを引き剥がす。その一心で立てた作戦は成功した。
「……その、だ」
「うん?」
キョウヤがぎこちなく口を開き。
「礼は、言っとく」
「だったら目の前の敵を倒そう。一緒に」
「……ッ」
反論できなかった。
独りで最強の道を進んだ果てを、見てしまったから。
だからこそ、キョウヤはミライの隣に躍り出た。
「……独りだって馬鹿みてェな考えばっかしてた。ずっと、美恵子が居たってのに」
「ぎょーやぁぁ」
「オレに合わせろ。アイツをぶっ倒すぞ」
「まあ、今はそれでもいっか」
ミライが息を吸い直す。
「これより、ハルマ・キサラギを殲滅する!」
「唯我独尊。オレこそ絶対だァ!」
「つまらない冗談を言うなよ。弱々しいくせに」
実力差は歴然だ。何度もハルマに負けている。
それでも、諦めない。今度こそは。
ミライ達の瞳には、勝利への渇望がギラギラと滾っていた。




