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第157話 守るための覚悟②

 エリサが偵察に出てから十数分ほど経った。


「よし、かなり動けるようになってきた!」


「おぉっ、速いね〜!」


「正直、速すぎな気がするけど」


 俺もそう思うが、動けるに越したことはない。

 一刻も早くサリエラを助けなければ。フォタァザが何かしでかす前に――


「っ、地震!?」


「にしては揺れ方がおかしい!」


 世界が外側から押し潰されているかのように、右へ、また左へと強く揺れている。

 まるで教皇国が、他の世界と合体しているかのように。


「真央ッ!」


「尋くんっ!」


 無意識に、俺は真央のほうへ走っていた。

 前世で掴めなかった手を、今度は。


「大丈夫だ。俺が居る!」


「うん……うんっ!」


 しっかりと繋ぎ、互いに二度と放すまいと力一杯に握り合った。


(……収まったけど)


「少しは、みぃたちの心配。してくれて良いんじゃないの」


「あっ」


「『あっ』って何、この浮かれポンチ」


 すっかり抜け落ちてた、とは言えなかった。

 真央も、見せつけるように舌出しながら抱きつくんじゃないよ。


(ごめん遅くなったぁー!)


「サリエラ達は!?」


(それが……とにかく、街道の方へ行ってみて!)


 圧に押され、言われるがままエリサの後を追う。

 道中、俺は違和感を感じた。黄金色だった空の色が、銀灰色になっていること。そして水平線しか見えなかった教皇国の外側に、新たな大地が見えたこと。

 他にも挙げればキリは無いが、ともかく何が起きたのか目にしなければ理解ができないのだろう、そう思いとにかく駆けていた。


「……マジか」


 そして目にした光景は、俺の想像を遥かに超えるのもだった。

 街道を埋め尽くすは、無数の人々。

 中には魚人と呼称すべき種、身体を和装と包帯で包んだ種、肥大化した顔に手脚が生えた種など、アルテンシアではない世界の者たちも混ざっていた。


「これ、まさか」


(そう、アルテンシア人だけじゃない。ほかの下界の種族も居る)


(さっきの地震は……フォタァザが創造した世界を統合したことで起きたってこと!?)


「なに、あの人たち……え、ウォルターさん達も居るんだけど!?」


 冷静に状況を飲み込めたのは、創造神の依代だったこともあるニグアスだけだった。

 アルテンシアの言葉は翻訳指輪のおかげで理解できるが、それ以外は全くわからない。

 だが街道に集められた人々も、戸惑いを隠せずにいることだけは理解できた。


『親愛なる下界の者たちへ。元いた世界がどのようになっているかは、君たちが一番よく知っているだろう?』


 そんな俺たちを見下すかのように、巨大な神のホログラムが空に映し出される。


「その声……まさか、サリエラか!?」


「何、では世界滅亡を目論んだのは奴だとでも謂うのか!?」


 戸惑う人々の中に、確かにウォルターとシゲシゲ皇子の姿が見えた。

 やがて困惑は不満へ変わり、神に向けた怒号が鳴り響く。


『なに、君たちの言い分は良くわかる。理不尽に祖国を滅ぼされかけて腹を立てる気持ちも承知している』


 サリエラの姿をした神が、手でなぞるようにして五つの人型を空に投影する。

 その姿は見覚えがあった。否、ありすぎた。


『だからチャンスをやろう。ここに映した奴らを狩り、遺物ドロップアイテムとかいうマナの塊を持ってくるがいい。その者の世界を元に戻してやる』


「俺らがターゲットってことか!」


「ミエコちゃん以外は割に合ってない気がするけどなぁ」


 アルテンシアから教皇国に乗り込んだ転生者五名。

 俺たちは、フォタァザの始めたゲームの標的にされてしまった。


「って待て、ミライ達は何処だ!?」


「置いてっちゃったかも!?」


(彼女たちは反対側に走ってった。もしかしたら、だけど)


「まさか、本拠地に乗り込もうとしてるのか!?」


「○◇☆?*=●!」


 狼狽したのがいけなかった。異世界人の一人が、天と俺たちを交互に指差し、騒ぎ始めてしまう。

 相変わらず言語を理解することはできないが、こちらに敵意を持っていることだけは理解できる。


「やばっ!?」


「アイツら、わたし達を倒す気満々だよ。めちゃくちゃ口悪いし!」


「ミライでも無いのに異世界語をナチュラル翻訳してるんじゃないよ!」


 恐らく真央は能力をコピーせずとも理解しているのだろう。

 翻訳の能力者は泣いていいと思う。


(気をつけて、ほかの世界にも魔術はある。それも、アルテンシア流では対策し辛いものもあるから)


「くっ、肌で猛者ばかりってのがわかる……最強装備アルティレッドフォームを出すしかないか!」


 本能を具象化した、俺の本当の装備。

 だが、まだ扱い慣れていないせいで燃費が非常に悪く、ここぞという時にしか使いたくないのが本音だ。


「なら、わたしに任せてもらいたいかな。尋くんは、ミライちゃん達をお願い」


「……」


(無茶だよ、なに言ってるの!? ここに居る者の中には、アルテンシアでいうサリエラやシゲシゲ、それ以上のレベルの猛者もいるんだよ!?)


「んじゃ尚更、わたしがやんなきゃだね」


「……わかった。けど一つ、約束してほしい」


「うん。何でも聞くよ」


 自信に満ちた可愛らしい笑顔を向けられ、すぅと俺は息を吸う。


「絶対に殺すなよ。世界を、元に戻さなきゃだから」


「オーケー。頑張るよっ!」


 瞬間、真央が街道へと飛び降りる。

 それと同時に、アルテンシア以外の魔術が一斉に放たれた。

 龍のごとくうねる潮の激流。

 霊魂を束ねた狐火。

 騎士のような思念体による銀閃。

 そのほか、向けられた全ての技術が、歴史の積み重ねによるものだろう。


「あはっ☆」


 だが、各異世界文化の結晶は。

 理から外れた少女によって、真正面から打ち砕かれた。


「よっと」


「マオ……で、良いのであろうな」


「そうだよ〜。この姿では初めましてだね、ウォルターさん」


「我が祖国を滅ぼした虚無の愚者を、数秒で討ち滅ぼした実力……まさかまことだとは」


「とにかく……アタシ達の味方、でいいんだよね?」


「もちろん。ここに居る人たちは誰も死なせない。尋くんに嫌われるのは嫌だから」


「呆。動悸が不純にも程があろう」


「あはは……それでも向かってくるのなら」


 再び矛を抜こうとする異世界人を睨むと同時に。


「喜劇を始めなきゃ、だよ?」


 緩かった雰囲気が引き締まり、襲撃者の腕が、そして手にしていた武器が弾け飛んだ。

 異世界の人々は恐れ慄き、アルテンシアの人々は歓喜する。

 嬉しいことに、俺たちが良く知る人々はフォタァザのゲームに反感を抱いてくれていた。


「これなら安心だ。俺たちの命は助かったのか!?」


「いやでも、世界が……!」


「……まて


 だが、何事にも例外は存在する。


「シロウが、居ない?」


 アルテンシアでも最上位の転生者が、気性の荒い異世界人と共に姿を消していた。

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