第156話 守るための覚悟①
教皇国に響き渡る、復活した神の宣告。
それよりも、俺たちはサリエラが乗っ取られたことに気を取られすぎていた。
「そうか、空になったエリサの器に入ったのか。これでフォタァザも安泰だ」
「っ、待て、逃がすものか!」
「このまま逃げ切ってやる。アルテンシアの終焉を、指咥えて見てるがいい!」
瞬きよりも早く、ハルマは豆粒に見えるくらい遠くへ離れていた。
だが、俺には願いを叶える能力がある。奴を絶対に逃がすものか、そう強く念を込めるが。
「なんで願いが叶わない!」
「尋くん、装備が消えてる!」
「っ、しまった……うぅっ」
「うぇえ、大丈夫!?」
失念した、身体が重い。ダメージが回復し切っていないうえ、魔力も残り僅かだ。
きっと本能で装備を解除したのだろう。自分の状態に気付かなかったことが情けない。
「大丈夫。魔力切れじゃないから回復は出来るけど、時間かかりそう……」
「だね〜、すっごい能力だもんね。わたしも頑張るよ〜!」
真央が能力でマナを集め、俺に注入し始める。
本当にありがたい。なら今は、とにかく回復を意識し続けないと。
「ヒロ、サリエラが!」
瞑想の要領で深呼吸に集中していると、ミライとハサマが追ってきてくれた。
そうだ、仲間がフォタァザに乗っ取られる様を間近で見ていたのだ。焦らないわけがない。
「ああ聞いた。フォタァザに乗っ取られたって」
「そ、それよりも。きょーやが!」
「なんだって?」
「たしかに居ないね。どしたの?」
ハサマがこの世の終わりみたいな顔を浮かべている。
シノハラがピンチになったらいつもの事だが、今回は何やら様子がおかしい。
「銀髪女と一緒に、どっか消えてっちゃったぁ!!」
「正確にはフォタァザとシノハラの身体を、コイツが無理やりくっ付けた。シノハラの指示で」
「っ、アイツなに考えてやがる!」
「ロクでも無いことは確かだね〜」
「ところで、説明してくれてもいいんじゃない?」
「能力のこと?」
「マオのことも」
「あー……確かに置いてけぼりにしちゃってたな」
今後ミライ達と齟齬が出ても困るし、俺の見解も交える形になるけど話しておかなければ。
「まず、俺の本当の能力は『願望の成就』みたいだ。心からの願いを叶える能力で、最初は他人限定。自分の願いは叶わない」
「だから、わたしがお願いした装備を出せたんだね」
「うん。そんで真央に想いが届いたから、自分の願いも叶えられるようになった」
「おぉ、おめでと」
「ありがと。そして、経験値って言ったらいいのかな。沢山マナを摂取して鍛え続けてきたから、一気に装備まで出せるようになったって感じかな」
「じゃあ、フォタァザとサリエラの分離を願えば」
「きょーやを連れ戻したいって願えば!」
「いずれやるけど、今は無理。シラフだと、せいぜい人がギリ起こせるレベルの願いしか叶わないんだ」
「世界改変レベルだと、装備がないと無理りそうだね〜。でも、それなら何でわたしの身体は元に戻せたの?」
「それはまあ……真央だからとしか」
「あー……」
「わかる、うん」
「?」
同じ事をミライやシノハラ、サリエラ達にやろうとしても無理だろう。
ただでさえ能力無効、無属性や第零位へ初見で到達などと人智を超えた偉業を成しているのだ。
結局、真央以外の全員が「彼女が規格外だから戻れた」という見解で落ち着いた。
「って事で、回復するまでシノハラを助けにいけないんだ。偵察もしたいところだけど……」
(それなら、ワタシに任せてよ)
「……え」
疲れているのだろうか。
成仏したであろう古代人の霊が見える。それも二つ。
「あはっ。エリサちゃんとニグアスくん、だっけ」
(え何この人、ワタシのこと見えるし声も聞こえんの?)
(おかしいな。全ての大国宝に触れて、ぼくたちの魂の輪郭に触れたヒロにしか見えないと思ってたのに)
実際ミライ達は、うっすらと浮かんでる幽霊に気付いていないようだ。気が狂った思われているかもしれない。
「せめて翻訳の能力者さんには気付いてほしかったけどね〜」
「それで、なんで生きてんのアンタら」
「え、無視?」
(完全にマナ化するまで、まだ猶予があるからね。助けて貰ったんだし、これくらいはしたいなって)
(正確には、マオの能力で引き寄せられたんだけどね……)
「あはっ」
じゃないんだよ。わかれ。転生者も原住民も遥かに凌駕するチートって何だよ。
「と、ともかく。手伝ってくれるのは本当に嬉しいよ」
(じゃ、さっそく見てくる。居場所は掴んでるから)
それだけ告げると、エリサは風に乗って巨大な神殿へと向かっていった。
〜〜〜〜〜〜
創造神フォタァザを祀る神殿は、すべてが魔水晶で出来ている。
ニグアスから聞いた話ではあるが、旧世界ではただの水晶だったものが、マナを吸収して威圧感のある輝きを放つようになったらしい。
(……やっぱり囚われている)
中に侵入して様子を見ると、そこではサリエラの姿をしたフォタァザが、結晶の枷でキョウヤの手脚を縛りつけている様が確認できた。
「なるほど、凄まじい成長速度だ。戦闘者としての素質は特級品と言っていいだろうな」
「……チッ」
「そう睨まないでくれよ。ワタシだってイレギュラーの対応に困っているんだ」
「よく言うよ。マオ・シロヤマの身体のが良かったじゃん」
「アレはワタシの手にも余る。素質も実力も君以上じゃないかな?」
「……」
満身創痍のハルマは言い返せなかった。ただ何も発さず、傷だらけの身体を労るように座り込む。
「そうか、ナカジマにボコられたのか。ザマァねェぜ」
「……ァるマざマぁ」
「あ……!?」
瞬間、軽口を叩いていた囚われの男が全身から竦み上がった。
扉の奥からノソリと現れたのは、十の人面が混ざった腐肉の塊。
地上の動物名では敬称できないほど冒涜的な姿をしたソレを理解してしまった瞬間。
(モンスターか? いや違う、そんなもんじゃねェ。アレは……資格もねェのに理を破った者の末路だ)
終焉とは、果てとは何かを理解してしまい。
胃に含んでいたものを全て足元めがけて吐き出してしまった。
「あぁ、コレ? アルテンシアから着いてきた仲間だよ」
「仲間? なに、言って」
「その様子じゃ、第零位にはとても及ばなそうだ。成れの果て、あらゆる道の終わりを理解して再現するものなのに」
そんなもの理解りたくない、そう反論する。
「無属性は最初から使えたけど、俺も第零位が使えたのはコイツらがこうなってからだしな。そのうちできるようになるって」
「舐めんじゃねェ……そんなの、要らねェ!」
「必要ない。無属性は願いに反する呪い、滅びの力。誰もが使える代わりに、伝染して世界すら脅かす。だからこそ管理しなきゃいけないんだ」
理解しなくていい。キョウヤは改めて確信する。
「この現実を見せられても、なぜ君の心が折れないのか。ワタシには理解が出来ないな」
「……」
「神に挑んでなお覇気が消えないなんて、本当に人なのか?」
「……ハッ。当たり前だろ」
眼前にいるのは人の姿をした神。
価値観も倫理観も異なる者の戯言を、キョウヤは鼻で笑い飛ばした。
「テメェ、この世界創った神サマなんだってな。もしオレがテメェより強くなったらどうなる? 総理大臣になっちまうかもなァ」
「なにを言っている?」
「神サマだけじゃねェ。そこの虚無感語ってるテメェよりも、そしてナカジマよりも。オレは絶対に強くなってやる」
「その程度で?」
「たとえ何度負けようとなァ! そのたび立ち上がって最後に勝てりゃあいい、それが真に強ェ奴ってこった!!」
「みっともない。手も足も出なかったくせに」
「ああそうさ。だから回復するまで待ってやる、そしたら覚えとけ」
手脚を縛られようが、肉食獣のような瞳のギラつきは変わらない。
「テメェら全員、オレがブチ負かしてやる」
全てを呑み喰らわんとするほどの貪欲さ。
それは創造神をも唸らせるものがあったらしく、思わず手を叩いていた。
「しっかし今回は素晴らしいな、ここまで強力な生物が育つなんて。他の世界も気になるな」
「んだと?」
「言ってなかったか? 下界はアルテンシアだけではない。ミズガルディア、クラキノチ、ドンディアンパなどなど……ワタシに斃された神の数だけ、下界は存在している」
「ハッ、じゃあ何か? オレらが転生した世界は」
「だからこそ、良い考えを思いついた」
そしてこの啖呵をトリガーに。
創造神の最悪な余興が、始まろうとしていた。




