第155話 これが俺の装備だ⑤
「これが、ヒロの本当の装備!」
「すごい。見てるだけで、希望が湧いてくる」
「キサラギなんて比べ物にならねェ。なんつー力だ……!」
「きょ、きょーやのが強いもん。絶対そう!」
ようやく俺は、本当の自分を出せた。
「……やっぱ凄いや。尋くんは」
ごめん、真央。二人で考えた装備じゃなくて、俺の我儘を出しちゃって。
だけど、これが俺の本能。本心。
大切な人たちを助けたい、そんな願いを叶えるための最強装備なんだ。
「さて。行くぞ」
「本当の魂殻を出したくらいで、調子に、乗るなっ!!」
ハルマによる、フェイント混じりの突進。
「なっ!?」
「見えている」
後ろへ回り込んだ奴に、一閃を放つ。
「ぐぅぁっ!!」
虹の剣を横に薙いだだけで、数千年も劣化しなかった純白の神殿が真っ二つになった。
それと意志に応じて、剣身が無限に伸びる。
吹き飛ばされた勢いで逃げようとするハルマを見て一瞬驚いたが、すぐに切り替えて体勢を低くする。
「逃がさない」
「追いつけるものなら」
「遅すぎる!」
「っあ!?」
瞬きの間に、ジェット機のような速度で滑空する奴を手の届く範囲に捉える。
すぐさま兜を掴み、豆粒に見えるほど下に浮かぶ庭園へと力一杯叩きつけた。
「なんなんだ、お前は……!」
「アルテンシアの、勇者だ」
「あんな神のお情けで生かされている下等世界、守る意味がわからない!」
お前もアルテンシアから来たんだろ。
どうして、そんな考えに至ってしまったんだ。
「何でも出来たのに、全部が当たり前なのに……こんなの、初めてだ」
「ならば知れ。生まれて初めての、敗北を!!」
「巫山戯るなぁっ!!」
ふざけているのは、お前の方だ。
俺は何度も敗北し、その度に立ち上がってきた。
だけど、お前はどうだ。
「っ、たった片手で。何層防壁を張っている!?」
「勝ちしか知らないで腐っていったお前なんかに、俺が負ける道理なんて、ないッ!!」
無茶苦茶な論理でも自信を常に持て。マナは必ず応えてくれる。
現にこうして不可視の一撃を防ぎ、さらに押し返せている。
「まだだ。俺たちには、無属性と第零位がある」
(真央が使ってた奴か……!)
金色の空に投げ出されたハルマが、そのまま宙に浮かびながら左手を地に、右手を天に掲げる。
直感でわかる、決して観察してはいけない。覗けば心が闇に囚われ、マナが俺の心を蝕み尽くすだろう。
「言葉は不要。絶望に染まれ」
反転した太陽が光を喰らう。負のエネルギーが、俺の周りを漂うマナを霧散させてゆく。
「いいや。今の俺にあるのは、希望だけだ!」
それでも。俺には真央が、アルテンシアの皆がいる。
「我は至高にして超絶にして究極の英雄なり」
虹の剣を掲げ、希望を込める。
「世界を混沌たらしめる者には、それを上回る混沌で制するまで」
極光が螺旋を描き、清濁すべてを呑みモノクロの世界を照らし直す。
「聖なる女神と闇なる魔王の力を、いま、一つに!」
真央と共に思い描いた、世界を救う必殺技。
絶望一辺倒なんて、認めない。
この悲劇を、ここで終わらせる!!
「聖魔超神、斬ァアアンッッ!!」
耳鳴りだけが鼓膜を支配していた。
音もなく、光もなく、肌を伝う感覚もなく。
時間の概念すらわからなくなるほどの衝撃が黒き太陽を喰らい尽くし。
「くっ……」
「俺の、勝ちだ」
足で踏む地面の感触が脳に伝わる。
ハルマは満身創痍で、うつ伏せになりながら俺を睨みつけていた。
「……勝ち? 何か、勘違いしているようだ」
「何を言っている」
負け惜しみかと思った。だが、数千年も生きている奴が発したのは。
「なぜ俺がフォタァザから離れたと思う。お前を離したと思う」
「っ、しまった!?」
そうだった。完全に頭から抜け落ちていた。
奴は真央を『依代』と言っていた。ニグアス亡きいま、次に乗っ取られるのは。
「尋くん、大丈夫!?」
「はっ?」
だが杞憂だった。
混沌の残滓を頼りに宙に浮かぶ微かな足場を飛び移って、白く長い髪を靡かせた可憐な少女が見事な着地を見せる。
「真央、そっちこそ大丈夫? 変な怪電波とか受けてない!?」
「あ、うん。シャーって威嚇して猫騙ししたら、逃げてった」
「えぇ……」
本当に規格外すぎる。前世からコレだもんなコイツ。
言いたくないけど本能で「コイツにゃ勝てない」って悟ってるから、最強装備を出しても真央には勝てないと思う。
「さて、と。コイツの息の根、止めとく〜?」
「っ」
「はいストップ。目的は果たしたんだし、二度とアルテンシアに手を出さないよう念押しして帰るよ」
「あはっ、それもそうだね〜」
「お前わかってねえだろ」
けど、いまなら彼女の暴走くらいは止められる。一生彼女の業を背負う覚悟は決めたんだ、これくらいはしないと。
「まあともかく。俺たちは、アルテンシアを滅ぼそうなんて考えを撤回してくれればそれでいい。約束してくれれば、すぐに元の世界へ帰るから」
「……それは」
『認められない。世界の秩序を守るためには、フォタァザ以外を白紙に戻さねばならないからだ』
「っ!?」
教皇国全土に、少女の声が響き渡る。
その声色は聞き覚えがありすぎた。だが跳ねるような悪戯さは失われ、無機質で荘厳、全く感情を読み取れない異質さに満ちている。
「何で、そんな」
「だって、この声。サリエラちゃんの!?」
「は、はは。そうか、予定は狂ったけど俺の勝ちだ」
『我が名はフォタァザ=サリエラ。神羅戦争の勝者、唯一無二の創造神。棄てられし神々に産まれし矮小なる生命よ。剪定は滞りなく遂行されると識れ』
偽りではない。世界を支える重い感覚が消えている。
アルテンシアを取り戻す戦いは、まだ終わってなどいなかった。




