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第146話 心からの願い①

 教皇国へと辿り着いた一行を迎えしは、羊飼いのような出立の少年。

 不似合いなヘッドホンを身につけ、まるで嘲笑とも取れる憎たらしげな笑みをヘラヘラと浮かべていた。


(いつから立っていた? いや、気付けなかっただけか?)


(ブッ潰す。まだメシ食い終わってねェし、何より見下してるその態度が気に食わねェ!)


「待って二人とも」


 いまにも飛び出しそうな二人の心を読んだミライが、襲撃者を睨みながら叫ぶ。


「コイツ、人形じゃない。しかも、人間でも転生者でも、モンスターでもない!」


「あんな下等生物と一緒にされちゃ困る」


「んだと?」


「我々アルテンスの民は万能にして全能。この世で最も進化した生物、人類という括りにしないでほしいよね」


 馬鹿にするように口角を上げ、鼻で笑って見せていた。

 ならば何故、劣った者たちを攫おうとするのか。


「……いちおう聞いておきたい」


「なに」


「どうして俺らを捕らえようとするんだ」


 ヒロは理性を保ちつつ、羊飼いへと問う。


「そりゃ不法入国者は捕らえなきゃでしょ。頭蛮族か?」


「アルテンシアの危機なんだ。消滅を食い止められれば、すぐに元の世界へ戻る!」


「あー。それ無理」


 だが返ってきたのは、やれやれと両手を天に向けた侮蔑だった。


「下界の平定リセットは止められない。君たちの世界は勝手しすぎたんだよ」


「……よくわかった。お前は悲劇をもたらす奴だ」


「対話は出来ず、敵対の意思も持っている。なら、力でわからせるしかないな」


「生まれながらの立場ってモンをハッキリさせてやろうじゃねェか」


「グルゥアウ!」


「み、みんな頑張えー……」


 ヒロやサリエラ達が一斉に、目の色を変えて敵意を漲らせる。

 だが、アルテンスの少年は表情を崩さず。


「……これだから下等生物は困る」


 面白がるように溜息を吐いていた、そのとき。


「あァ!? テメェ勝手に」


「コイツは私がやる」


 その吐息を突っ切るように、翻訳の少女が前に躍り出た。


「こんな奴に、皆の……大切な仲間の魔力を無駄に消費させるわけにはいかないから」


「こんな奴? 随分と面白くもないことを言う」


「その『無属性』とかいう魔術があるから?」


「っ!?」


 瞬間、餓鬼の口角が下がる。


「何処でそれを……!」


「基礎四属性が束になっても敵わない破滅の属性。生憎、適性を持っている仲間が居たから」


「ワゥン……」


 ミライはアルテンシアで、かけがえのない仲間を多く得た。

 ヒロとウォルターに支えてもらってばかりだ。

 マオのおかげで、敵の奥の手を知り恐怖が和らげられている。

 そしてクルトとレティシアから貰った魔力で覚醒した最強装備。

 その名前を、エリーゼに付けてもらった。


「……ミライは、怖くないのか?」


「大丈夫。今まで助けてもらってばかりだったから、今度は私が助ける番」


 無属性魔術に恐怖を抱くサリエラに背を見せるように仁王立ちの姿勢で構え。

 空色の光を、心の臓から発現させる。


「未知が怖いのはわかる。凄くわかる。だけど、私の装備があれば、何も怖くない!」


「何が怖くないだ……身の程を弁えろッ!!」


 指先から放たれる、周囲の光も闇も喰らいつくほどの豆粒ほどの虚無ブラックホール

 だが光を増し巨大化した希望が無を焼き切り、少女の身体を包み込む。


藍情装備ラピスフォーム!!」


 ツバの広い長帽子に、海色に輝く風のマント。

 未来への旅を愉しむかのような吟遊詩人の礼装を顕現させ、手にしたハープを戸惑う少年へと向け。


「もう貴方の運命は……決まっている!」


「うぐ、ぼはぁッ!?」


 音色に乗せて矢のように飛翔した空気が、羊飼いを貫き、穴だらけにしてみせた。


「あはぁ。死んじゃってる」


「えっぐぅ、回避先を完全に読んでの射撃かよ」


「ミライ……これほどまで、強くなったんだな」


 安心して腰を抜かした宮廷魔術師に、翻訳の少女は手を差し出す。


「……いやそれよりも。色々と聞きたいことが」


「わかってる。なぜアルテンスの人々は死んでも遺体が残るのか、でしょ」


「いやそれは現実攻略本リアルペディアで……ともかく! なんで最強装備を出せるのかってことだよ、やっとタイミングが合ったよ!!」


「あぁ、それは――」


 言いかけた瞬間、ミライは見えてしまった。

 四秒後――自分を含めて全滅する未来が。


『防御しろ!!』


 咄嗟に防御魔術を発動し、全員の身体をプロテクトする。


「ぁ、なに言って」


 次の瞬間、一行の身体が地面に倒れ伏せた。

 何をされたかもわからない。

 だが神経が激痛を伝えたときには、それぞれ身体の一部に裂傷を受けていた。


「っでぇ……!?」


「『数秒後の未来を視る能力』か。翻訳と心読に加えて、どんだけコミュニケーションに固執しているんだよ」


 新手の敵。黒い髪にパーカー、一見すると地味でパッとしない中性的な少年だ。

 だが無気力そうなソレを目にした瞬間。


(ッ、そんな、馬鹿な……!?)


 本能が感じ取ってしまった。

 コイツには勝てない。住んでいる次元が違いすぎる、と。


「ま、いいか。コイツはしくじったけど、俺がやればいいわけだし」


(……ハルマ・キサラギ!!)


 アルテンシアに伝わる原初の転生者。

 数千年前より伝わる伝説が、敵として立ち塞がったと理解したのだから。

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